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第22話 異母妹との恋バナ(?)

 次の日。私はエリカが生活をしている客間に向かった。その足取りは何処となく軽く、多分ギルバート様のお出掛けが嬉しいのだろう……な。なんていうか、こんな感情がまだ私に残っていることが、意外だった。でも、ここに来てから私は幸せを覚えた。だから、仕方がないのかも……なんて。


「エリカ」


 ゆっくりと客間に入れば、そこではエリカがソファーに腰かけていた。……もう、体調は大丈夫そうね。そう思いホッと息を吐く私を見て、エリカは「お義姉様」と私のことを呼んでくれた。


「お義姉様……私のこと、そこまで気にかけなくてもいいのに」


 そして、エリカはそう零す。そのため、私は首を横に振って「私が、好きでしていることだから」と言葉を返した。そう、エリカをここに滞在させると決めたのも、結局は私の勝手なのだ。ギルバート様やサイラスさんは渋い顔をしていたし、わがままを言ったのは私。


 私がそう思っていれば、エリカが「お義姉様、お話でも……」と眉を下げながら告げてくる。その姿に、実家での面影はない。……エリカは、自分を偽り続けていた。それが分かるからこそ、私も眉を下げてしまう。だけど、今はそんな場合じゃないわね。そう考え、私はエリカから見て対面の場所に腰を下ろした。


「……お義姉様、なんだか嬉しそう」


 その後、エリカはそう言ってきた。……私、そこまで浮かれた表情をしていたかな? そんな不安を覚えて、私が頬をぺちぺちと叩いてみると、エリカは少しだけはにかんだ。


「お義姉様、幸せそうで、よかった」

「……エリカ」

「リスター伯爵は、素敵なお方なのね」


 エリカは、噛みしめるようにそう言っていた。だからこそ、私は静かに頷く。イライジャ様と婚約したままだったら、この幸せは絶対に手に入らないものだった。そういう点では、エリカに感謝するべきなのだろう。……素直に感謝できないのは、私の中にエリカへの情があるから、なのかも。


「えぇ、そうよ」


 けど、今、エリカが望んでいる言葉はこれだろう。そう思ったからこそ、私は笑みを浮かべてそう言う。その言葉を聞いたからか、側にいたクレアとマリンが嬉しそうな表情をしてくれた。


「お父様とお母様は、リスター伯爵のことをとても恐ろしいお方だとおっしゃっていたわ。……けど、噂は鵜呑みにしちゃダメなことよね」

「……エリカ」

「お義姉様が幸せな婚姻が出来そうで……嬉しい」


 そう言って、エリカははにかむ。きっと、周囲の人からすればエリカの言っていることは綺麗ごとであり、今更な言葉なのだろう。でも、私は嬉しかった。本当は、私はエリカを姉として守らなくちゃならなかった。なのに、私は自分のことばかりを考えて。現状に、呆れて、諦めて。エリカのことを……後回しにしてしまった。それが、私の心残り。


「エリカも、きっと……」

「ううん、私は婚姻なんて望んでいないわ。お義姉様の婚約者を一度は奪ってしまったのだもの、そんな図々しいこと、出来ないわ」


 首を横に振りながら、エリカはそう告げてくる。……だけど、私はエリカにも幸せになってほしい。お父様やお義母様は別だけれど、エリカにだけは。そういう意味を込めて、私はエリカにゆっくりと近づく。そして――エリカのことを抱きしめた。その瞬間、エリカの目が大きく見開かれるのが、分かって。


「大丈夫。エリカは、とてもいい子よ。だから……幸せになれるわ」

「……お義姉、さま」

「素敵な人が現れて、エリカを幸せにしてくれるわ。……だから、そんな諦めないで」


 エリカは、何処となく人生を諦めている。それが分かるから、私は彼女にそんな言葉をかけた。その言葉を聞いたからか、エリカは「……ありがとう」と言ってくれる。今のエリカは、とても可愛らしい。……まるで、昔に戻ったみたい。


「……ところで、お義姉様はどうしてそんなにも嬉しそうなの?」


 その後、エリカはそう問いかけてくる。そのため、私はゆっくりと視線を逸らして、ギルバート様とお出掛けが出来ることになったことを言う。その言葉を聞いたエリカは「デートね!」と言って嬉しそうに手を叩く。……やっぱり、これくらいの年頃の子って、こういう話題が好きよね。


「……多分」

「お義姉様、愛されているのね」


 何処か寂しそうに、エリカはそう言ってくる。その寂しいという感情は、どういう意味なのだろうか? もしかしたら、自分は愛されていないのに……っていう意味、なのかな。私はそんなことを思ってしまった。しかし、エリカは首を横に振る。


「こんなことを言うのは図々しいけれど、お義姉様が……その」

「……エリカ?」

「私から、離れて行っちゃうみたいで……ちょっと、思っちゃったの」


 その言葉は、始めの方はピンとこなかった。でも、なんとなくだけれど意味が分かって。私は「……エリカ」とゆっくりと彼女の名前を呼ぶ。

 だって、エリカは私にとって唯一といっていい血のつながった家族だもの。……大切なのよ。好きのベクトルは、違うけれど。

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