第21話 役に立てる……かも、です
「そ、その、ギルバート様」
「……シェリル」
「私、ついていきたいです」
ゆっくりと、噛みしめるように私はそう告げる。でも、ギルバート様は私の言葉を聞いて眉を顰められてしまった。……やっぱり、ダメ、かな。私の微々たる下心が、バレているのかも……。そう思って、私は項垂れてしまいそうになる。
そう、私の本音はギルバート様とお出掛けがしたい、ということなのだ。それに、領地に出向けば勉強にもなると思う。未来のリスター伯爵夫人として、しっかりとしたい。……私は、ギルバート様と釣り合うようになりたい。若すぎるからって、舐められないようになりたい。
「そ、それに、私の力も活かせるかも……です」
最後の方の言葉は、小さくなってしまった。ある程度力がコントロール出来るようになったとはいえ、やっぱりまだまだ不安定。その所為で、イマイチ自信が出てこない。
「……そうか」
私の言葉を聞かれて、ギルバート様は端的にそう返事をくださった。やっぱり、ダメって言われるかな? 無理だって、言われるのかな? そう思って私が俯いていれば、ギルバート様は「……いいぞ」とおっしゃってくださった。
「……ほ、本当、ですか?」
「あぁ、俺はシェリルの願いならば何でも叶えたい」
ふっと口元を緩められて、ギルバート様はそう言ってくださる。だけど、それはちょっと大げさ……かな。私はそこまで物欲はない方だし、わがままも言いたくはない。だって、ギルバート様を困らせることだけは、嫌だもの。
「……ありがとう、ございます」
でも、今回はそのおかげで視察について行くことが出来るのだ。だから、今は感謝をするべき。そういう意味を込めて私が笑みを浮かべれば、ギルバート様は露骨に視線を逸らしてしまわれた。照れていらっしゃるの、のよね?
「……シェリルが、可愛すぎる」
ボソッと呟かれたお言葉に関しては、聞こえていないフリをすることにした。それがきっと、ギルバート様にとって最善だから。
そんなことを思っていれば、サイラスさんが「そうと決まったら、支度をしませんと!」と言って張り切り始めた。そんな、視察なのだから張り切る必要などないと思うのだけれど……。
「おい、サイラス。張り切る必要などないだろう」
どうやら、ギルバート様も私と同じことを思われていたらしい。サイラスさんにそうツッコんでいらっしゃった。
そのギルバート様のお言葉に私が心の中で同意していれば、サイラスさんは「そうもいきません!」と言いながら胸を張っていて。
「この際、このお方がリスター伯爵家の未来の奥様だと領民に発表しましょう。……貴族たちへの発表はしておりますが、まだまだ領民たちにはお顔が知られておりませんので……」
「……それは」
サイラスさんの提案に、ギルバート様が少しだけ微妙な声を上げられた。……私は、サイラスさんの言葉を嬉しいと思ったけれど、どうやらギルバート様は違うらしい。……私のことを発表するの、嫌なのかしら? そう思ったけれど、そんなわけはないと自分に言い聞かせた。そもそも、それは私の被害妄想でしかないのだ。私の思考回路がネガティブ寄りなだけだもの。
「……嫉妬は、見苦しいですよ」
私がいろいろな感情を胸の中で燻らせていると、サイラスさんは不意にそんなことを言っていた。嫉妬。その単語を私が脳内でかみ砕いていれば、ギルバート様は「うるさい!」と叫ばれていた。
「そりゃあ、嫉妬もするだろ! シェリルはこんなにも可愛らしいんだ。……変な輩に目を付けられるかと思ったら、気が気じゃない」
「そんなの、今更でしょう」
「それでも、だ」
ギルバート様は、そうおっしゃって私に微笑みかけられた。……私、もう街には何度か出ているのだけれど? そういう意味を込めてギルバート様を見つめれば、ギルバート様は少し照れたように頬を染められていて。……そのお姿が、何処となく可愛らしく見えてしまって私の胸がきゅんとしてしまった。……多分、これにきゅんとするのは私だけだろうな。それだけは、分かった。
「あ、あの、ギルバート、様」
私は、恐る恐ると言った風にギルバート様にそう声をかける。そうすれば、ギルバート様は私に視線を向けてくださって。だから、私はそんなギルバート様の腕に抱き着いてみた。
「しぇ、シェリル……?」
「私、ギルバート様一筋ですよ」
普段ならば恥ずかしくて言えない言葉も、今日は何故か言えた。それに……。
「それに、ギルバート様が守ってくださいます……よね?」
私一人じゃどうにもならなくても、ギルバート様がいざとなったら守ってくださる。それを、私は分かっている。だから、そう言った。その言葉はギルバート様にしっかりと伝わっていたらしく、ギルバート様は「……もちろんだ」と言ってくださる。
「……俺は、シェリルのことを絶対に守るからな」
ギルバート様のその手が、私の髪に触れる。その感覚が何処かこそばゆくて、私は目を閉じた。側では、サイラスさんが「……やれやれ」と言った風に声を上げていたけれど、それには気が付かないフリをした。




