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第20話 視察、決まりました

「あ、あの、要望書って……?」


 私が頭上に疑問符を浮かべながらサイラスさんにそう問いかければ、サイラスさんは「あぁ、シェリル様はご存じなかったのですね」と言う。


「要望書とは、その名の通り民たちからの要望が書かれたものです。このリスター伯爵領では、年に一度の頻度で民たちから要望書を集めるのです」


 サイラスさんは、そこまで言って一旦言葉を切る。その後、要望書のことを詳しく教えてくれた。


 このリスター伯爵領では数代前から年に一度民たちから要望を聞いていると。その内容は多岐にわたり、領地内の設備の不備から、農民たちの近況や状況などもあると。大体の内容は領地内の設備の不備らしいのだけれど、今年は農民の人たちからの要望が多いとサイラスさんは教えてくれた。


「……まぁ、土の魔力が枯渇しているからな。それは、当然だろう」


 ギルバート様は顔を引きつらせながら、目の前の要望書に一枚一枚目を通して行かれる。きっと、数に圧倒されているのだわ。この量は、なかなか一日で終わるものではないと思う。


「大体は私の方で仕分けしておきました」

「……助かる」

「いえいえ、それが私の仕事ですので」


 サイラスさんは淡々とそう言って、ギルバート様に次から次へと要望書を手渡す。ギルバート様の目が、「もう少しゆっくり」と語っているけれど、サイラスさんはお構いなし。挙句の果てにサイラスさんは「いちゃついている暇があるのならば、働いてください」と言っているくらいなのだ。……私が、口づけを強請ったのが悪いのよね……。


「あ、あの、サイラスさん……」

「どうしました?」

「私が、ギルバート様に二人の時間を作ってほしいと、おねだりしたのです。ですので、決してギルバート様が働いていないわけでは……」


 視線を下に向けながらそう言えば、サイラスさんは一瞬だけ視線を下に向け、「……知っていますよ」と口元を緩めて言ってくれた。


「旦那様がサボっているわけではないということ、私は知っております。ただ……」

「……ただ?」

「シェリル様を妻に迎えるのですから、もう少ししっかりとしていただかないと……」


 サイラスさんはそう言うけれど、ギルバート様はとてもしっかりとされていると思う。そういう意味を込めてサイラスさんを見つめれば、サイラスさんは「甘やかさないでください」とキリっとした表情で告げてきて。


「旦那様は、甘やかすとつけあがるタイプです」

「……おい」

「特にシェリル様に甘やかされてしまったら……年甲斐にもなくはしゃぎ出します」

「余計なことを言うな!」


 ギルバート様は、サイラスさんの言葉に対し、立ち上がりそう叫ばれた。それを聞いたサイラスさんは「おぉ、怖い、怖い」なんて笑いながら言う。……絶対に、怖がってなんていない。


「……とりあえず、サイラス。視察の予定を早めて、明後日に行こうと思う。馬車の準備を」

「かしこまりました」


 ギルバート様の指示を聞いて、サイラスさんが執事モードに戻って返事をする。……視察。私も、ついて行けないだろうか? それに、なんだかんだ言っても私は最近力のコントロールが出来るようになった。少しでも、役に立つことが出来る……と、思いたい。


「あ、あの、ギルバート様……?」

「どうした?」


 私がギルバート様に声をかけると、ギルバート様は私のことを柔らかい視線で見つめてくださって。だから、余計に「好き」という気持ちが爆発しそうになって。私は視線を彷徨わせながら、「……私も、その」と手をぎゅっと握りしめながら言葉を発しようとする。


「……シェリル?」


 やっぱり、図々しいわよね。そう思い直して、私が「や、やっぱり、何でもない……です」と視線を下に向けて告げれば、ギルバート様は「なんでもないわけ、ないだろ」とおっしゃった。


「何か、あるのか? シェリルの頼みだったら、何でもかなえて――」

「――鈍い!」


 不意に、ギルバート様の頭の上から降ってくるそんな声。その声は、サイラスさんのもので。サイラスさんは額を押さえながら「旦那様、鈍いです!」と言いながらびしっとギルバート様を指さす。……鈍いのには、その、同意だけれど……。


(そんなはっきりと、言わないで……!)


 はっきりと言われたら、私が恥ずかしいから……! そういう意味を込めてサイラスさんを見つめるのだけれど、サイラスさんはギルバート様に「バカですか!?」と言うのに必死の様で。私のことなど、気にも留めてくれない。


「何がだ!」

「シェリル様は、視察について行きたいのですよ」

「……そうだとしても……」

「未来の奥様としてとても頼もしいではありませんか。シェリル様は熱心ですし、領地のこともある程度覚えていらっしゃいますよ」


 サイラスさんのその言葉を聞いて、ギルバート様は「そうなのか?」と私に視線を向けて問いかけてこられる。……鈍い。そう思いながらも、私はこくんと首を縦に振った。……実際、ついて行きたいことに間違いはない。私の力も、活かせるかもしれないし。

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