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第19話 二人きりの時間を(2)

「……ダメ、でしょうか?」


 恐る恐るといった風にそう問いかければ、ギルバート様は「……ダメ、ではないが」とおっしゃって、ようやく私の顔をまっすぐ見つめてくださる。その後、ギルバート様は「シェリルは、本当に……」と零されていて。……私の、何がダメなのだろうか? やっぱり、十五歳も年下だと子供にしか見えないかな?


「……私、子供ですか?」


 その気持ちの所為なのだろうか。私は震える声でそう問いかけていた。ギルバート様は私のことを婚約者として扱ってくださる。ただし、そこに込められた感情の大半が親愛。つまり、恋慕ではない。ギルバート様も私のことを意識してくださっているとは思うのだけれど、私たちの関係はなかなか前に進まない。それは、私が恋愛慣れしていないこと、それからギルバート様が前に勧めようとしてくださらないことが、主な原因。


「シェリル?」

「私、ギルバート様から見たら子供ですか? 十五も年下の小娘だと、恋愛対象に入りませんか?」


 我ながら、面倒な女性だと思った。けど、私はここに来て自分の意見を主張することを覚えた。それは成長なのか、退化なのか。サイラスさんたちはこれを「成長」だと言い表してくれる。でも、人から見たら退化かもしれない。……貴族の令嬢は、言いなりになるのが好ましいから。


「そういうわけじゃ、なくて……」


 私の言葉に、ギルバート様は何処となく困ったようにそうおっしゃった。


 恋なんて、一生覚えないものだと思っていた。なのに、覚えた途端これなのだから私はとても運がない。運に関しては実家のことも、イライジャ様のこともそうだから。


「わ、私じゃ……」

「違う」


 自分を、卑下するような言葉が口から出そうだった。しかし、それを止めるかのようにギルバート様は今度ははっきりと「違う」とおっしゃってくださって。それに驚いて私が目を見開けば、ギルバート様は「……俺は、シェリルがいい」と私の目を見て告げてこられた。


「だから、自分を卑下するな」


 そのお言葉は、命令系だったけれど、声音はとても優しくて。それに驚いて私が目を見開けば、ギルバート様は「……俺が、褒める、から」と消え入るような声で私に言ってくださった。


「シェリルの境遇からすれば、自分に自信を持てという方が無理だろう。……だから、俺がシェリルに自信をつけさせて、やりたいんだ」

「……ギルバート様」

「ただ、その、だな……」


 ギルバート様のことを上目遣いで見つめていれば、ギルバート様は「あー」と声を漏らされた後、「あんまり、積極的にはなってくれるな」とボソッと零されて。


「……俺は、シェリルと正式に婚姻するまで手を出すつもりはない。だから、あんまり迫ってこられると、だな……」


 そこでギルバート様は一旦言葉を切られる。……この続きは、なんとなく予想が出来た。つまり、まだ私に手を出したくないから、積極的にしないでほしい、と言うことなのだろう。


(……私は、今手を出されても問題ないけれど……)


 でも、世間体を考えるにそれは無理な話なのだ。特に、ギルバート様は辺境の貴族をまとめる立場にある。貴族たちの見本になるべき存在なのだ。だから、仕方がない、のよね。


「……分かり、ました」


 少しがっかりしたけれど、それが決まりなのだから仕方がない。それに、ギルバート様のお気持ちを知れただけでも、大きな一歩を踏み出したと考えなくちゃ。私たちは、とてもゆっくりだけれど進んでいる。そう、思いたかった。


「……まぁ、口づけくらいならば、シェリルが望むのならば……いい、けれどな」


 だけど、そんな風にギルバート様が漏らされたお言葉に、私は心が歓喜するのを実感した。だから、ギルバート様のお顔を上目遣いで見つめれば、ギルバート様は「……分かった」と口元を少しだけ緩めながら零されて。


 そういうこともあって、私はゆっくりと目を閉じる。ほんの少しだけでも、触れてほしい。その願いが、今少しだけ叶おうとしている。それに、内心で嬉しく思っていると、ギルバート様の手が私の頬に添えられた。


(……好き)


 その気持ちがあるからこそ、こんなにも心が弾むのだろう。


 そして、私がギルバート様と口づけをしようとした時だった。


「旦那様!」


 誰かが慌ただしく執務室に入ってきて、ギルバート様の頭をはたいた。その声は、間違いなくサイラスさんのもので。私が驚いて目を見開けば、サイラスさんは「あ、お邪魔でしたね」と少し気まずそうに眉を下げていた。


「……お前、最悪のタイミングだな」

「……我ながら最高のタイミングだったと思います」


 ギルバート様の恨みがましいお言葉に、サイラスさんは淡々とそう返すと「こちら、お仕事の資料等です」と言って、机の上にドカンと資料を置く。


(すごい量……)


 その資料の枚数は軽く数百枚はあるのではないだろうか。そう思って私が少しだけ引いていると、サイラスさんは「年に一度の、要望書です」と言っていた。……要望書?

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