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第18話 二人きりの時間を(1)

 夕食後。私はギルバート様に指定された時間に、ギルバート様の執務室を訪れていた。本当は私室に行こうかと思っていたのだけれど、ギルバート様に拒否されてしまったためだ。……まだ正式な夫婦じゃないし、そこは仕方がないのかなぁと思う気持ちは、ある。けど……やっぱり、いろいろと考えてしまって。


「シェリル。悪い、少し待たせてしまったな」

「……いえ」


 私が執務室のソファーで寛いでいると、ギルバート様がそう声をかけてくださる。だから、私はにっこりと笑ってそれだけを告げた。本当ならば私とゆっくりするつもりだったらしいのだけれど、急遽サイラスさんに仕事を頼まれたとか、なんとか。そういうこともあり、私は十分ほど待っていたのだ。


(……なんていうか、もう少しだけでいいから、近づきたい)


 ギルバート様は、いつだって私と距離を置いて座られる。今だって、そう。婚約者同士なのだから、もう少し近くに寄ってもいいと思うのだけれど。


 そう思って、私はおもむろに立ち上がってギルバート様のすぐお隣に腰を下ろした。そうすれば、ギルバート様は「シェリル?」と狼狽えたような声を上げられていて。……鈍い。


「ギルバート様。……私、もう少しくっつきたいです」


 ギルバート様の鈍さに半分呆れながら、私はギルバート様の服の袖をつまみ、上目遣いでそう言ってみる。私のその態度を見られたギルバート様の視線は……露骨に、泳いでいた。


 ……最近、エリカのこともあって二人きりになれていない。だから、私はその分くっつきたいと思っていたのに。……そう思っていたのは、私だけなのだろうか?


「……私は、その、ギルバート様と二人きりになれなくて、寂しかった、です」


 少ししどろもどろになりながらそう伝えれば、ギルバート様は一瞬だけ目を見開かれ、「……その」と言葉に詰まってしまわれる。もしかして、そう思っていたのは私だけなの? そんな疑問が胸の中に生まれ、燻っていく。寂しいと思っていたのは私だけで、二人きりの時間が欲しいと思っていたのも、私だけなのだろうか? そんなわけないのに、そう思ってしまうのだから恋って恐ろしくて難しいものだ。


「……シェリル。……その」


 ギルバート様の手が、私の肩に触れそうで、触れない。その仕草が何処となく面白くて、私は自分の手でその手を掴んだ。……このお方は、消極的だ。冷酷な辺境伯だなんて呼ばれているのに、女性慣れしていなくて。だから、私がぐいぐいと行かなくちゃ。心の中で、そう思ってしまう。そうじゃないと、いつまで経っても触れてもらえない気が、するもの。


「ギルバート様。……好き、です」


 ゆっくりと噛みしめるようにそう伝えれば、ギルバート様は露骨に慌て始める。それからしばらくして、もう片方の手をご自身の口元に当て「……俺、も」なんて小さな声で返してくださった。……やっぱり、私がぐいぐい行かなくちゃ。そんな決意が、固まる。


 だからこそ、私はギルバート様の肩に自身の頭を預けてみる。その所為だろうか、ギルバート様の肩が露骨に震えてしまって。やっぱり、このお方は女性慣れしていなくて、不器用なのよね。まぁ、そういうところも好き……なのだけれど。


「……シェリル。その、少し、積極的、じゃないか?」


 私の態度を見られたからか、ギルバート様はそんなことを問いかけてこられる。……だって、積極的にならないとギルバート様が私に触れてくださらないからじゃない。心の中でそう思うけれど、私はその言葉をぐっと飲みこむ。そして、「……だって、好きですから」と視線を逸らしながら言う。多分、私の頬は赤くなっているだろう。


「好きだから、触れてもらいたい、のです」

「……そうか」


 その後、しばしの沈黙。本当ならば、ギルバート様のご用件を聞かなくちゃならない。エリカのお話も、しなくちゃいけない。それでも、今だけは少しだけ甘い時間を過ごしたかった。甘い時間にならなかったとしても、ギルバート様が少しでも私のことを意識してくださったら、いいのだけれど。


「……あの、ギルバート様」


 だから、私はギルバート様にそう声をかける。その声を聞いたからだろうか、ギルバート様は「どうした?」と少し優しそうな声で言葉を返してくださる。……そろそろ、私たち先に進んでもいいと思うのだけれど……。


「……私、口づけが、したいです」


 そのため、私は小さな声でそう言った。そうすれば――ギルバート様は露骨に慌ててしまわれる。視線は彷徨い、私から身体を放されてしまう。……嫌、なのかな?


(嫌だって言われると、傷つくけれど……)


 でも、少なくとも嫌じゃないって信じたい。だって、ギルバート様も私のことを好きだとおっしゃってくださったのだから。好きだったら、口づけがしたいと思うのが、普通だと私は思うのよ。

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