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閑話2 お義姉様の元へ2(エリカ視点)

 それからしばらくの時が経っても、あの不可解な視線やプレゼントは続いた。最近ではいつもお手紙が添えられており、私への愛の言葉が綴られていて。……怖くて、仕方がなかった。


「……また、今日も一人」


 一人になるたびに、誰かに見られているような気がして、怖くなる。それでも、お父様にもお母様にも助けを求めることは出来なかった。求めたら最後、私が悪いと言われるから。もう、あのお二人は頼りにならない。


 最近では夜眠ることが出来なくなって、目の下に隈があるのが普通になってきた。怖くて泣いても、誰も助けてくれない。ずっと、孤独。それは、侯爵令嬢だった頃に感じていた孤独よりもはるかに強くて。……誰でもいいから、助けてほしかった。


「……お義姉様、助けて……!」


 なんて、都合のいい女だろうか。分かっている。分かっていても――もう、お義姉様しか頼れなかった。幼少期、優しく私の面倒を見てくれたお義姉様。もしも、あの時の関係のままだったら、お義姉様は私のことを助けてくれただろうか? もう、後悔しても遅いのは分かっている。それでも、ぽろぽろと涙を零しながら呼ぶのはお義姉様のこと。


「……いっそ、死んじゃいたい」


 お父様もお母様も、今では私のことを煩わしく思っていらっしゃる。ただ、利用できるから置いているだけなのだろう。最悪の場合、娼婦にでもなってお金を稼いで来いと言われるのは目に見えている。……だったら、もうこの際――逃げてやろう。


 そう思って、私は小さな鞄に貴重品だけを詰め込んで、アパートを飛び出した。行き先なんて、考えていない。幸いにも隠し持っていたお金があるので、これで何処か遠くに行ってしまおう。……普段は、働いてもお父様とお母様にすべて奪われてしまうから、こんなにもお金があったのは奇跡に近い。


「……何処に、行こう」


 街を呆然と歩きながら、私はそう零す。これだけのお金があれば、かなり遠くまで行けるはず。金貨が十枚近くあるのだもの。多分――辺境にだって、行ける。


「……リスター、伯爵家」


 辻馬車の乗り場について、私はそんな言葉を零す。リスター伯爵家は、ウィリス王国の辺境にある伯爵家の一つで、裕福な家系。そして、何よりも――そこには、お義姉様がいる。お義姉様が、嫁いだおうちだもの。


 そう思ったら、私が行く場所は決まった。辻馬車の御者に持ち金のいくつかを渡して、リスター伯爵領に行けるかどうかを聞く。御者は私の切羽詰まった表情を見て驚いたものの、すぐに「足りるよ」と言って馬車を走らせてくれた。


(……お義姉様)


 ぎゅっとハンカチを握りしめて、私は流れる外の景色を見る。


 このハンカチは、侯爵令嬢だった頃に持っていたもの。お義姉様が、お屋敷に置いていったもの。お義姉様が嫁いだ後、私はこのハンカチをこっそりとお守り代わりに持っていた。こんなこと、お父様やお母様に知られるわけにはいかない。だから、お義姉様のものは私のもの。そんな傲慢な発言をして、誤魔化していた。


 何日も何日も馬車を走らせてもらって、徐々に景色は自然が豊かなものに変わっていく。その景色を眺めながら、私は「追い出されるかもしれない」と思っていた。お義姉様は私のことを嫌っているはずだから。ならば、お義姉様は私の顔なんて見たくもないと思う。だから、追い出されてしまう可能性はゼロじゃない。……それに、リスター伯爵はお義姉様のことを心の底から愛していらっしゃるのだもの。お義姉様が会いたくないと言えば、追い出すのは間違いない。


「私、もう、一人は嫌だよ……」


 侯爵令嬢だった頃から、ずっと孤独だった。それでも、見栄で着飾って恵まれている自分を演じた。そうすれば、お父様やお母様に愛してもらえるから。そう、思っていた。……あのお二人は、結局私のことを道具としか見ていなかったのに。それに、気が付けなかった。いや、心のどこかでは気が付いていた。それでも、気が付かないフリをした。


「お嬢さん。……もうすぐ、リスター伯爵領につくよ」


 それからまたしばらくして、御者がそう声をかけてくれた。窓の外を眺めれば、そこはとても自然が豊かで、王都とはまた違った雰囲気の街が広がっていて。……ここからだったら、歩けるかな。そう思ったけれど、リスター伯爵家のお屋敷がある場所を私は知らない。……だから、どうすることも出来なかった。


「……あの、リスター伯爵家のお屋敷まで、行けますか……?」


 恐る恐る御者にそう告げれば、「追加料金をくれればね」と彼は言う。そのため、私は残っていた持ち金を全部渡して、リスター伯爵家のお屋敷まで連れて行ってもらうことにした。あれで足りていたのか、足りていなかったのかは、分からない。それでも、もう私にお金は必要ないのだ。……お義姉様に拒否されたら、死ぬだけだもの。


「……お義姉様、お願い、助けて――!」


 自分勝手なお願い。


 分かっている。分かっていても――あのお優しいお義姉様のことが、忘れられなかった。

次回からシェリル視点に戻ります(o*。_。)oペコッ

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