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閑話1 お義姉様の元へ1(エリカ視点)

 実家が没落すると聞いて、初めに思い浮かぶ感情は一体何だろうか?


 怒り。悲しみ。絶望。


 そこら辺が、多分有力候補。でも、私が一番に思い浮かんだのは――安堵だった。


 ☆★☆


「……今日も、お母様もお父様も帰ってこられないのね」


 そんなことを呟いて、私は固いパンをかじる。今まで食べていたふわふわのパンは、もう食べることが出来ない。お父様やお母様はそれを悲しみ、周囲に当たり散らしている。けど、私はそういう気分じゃなかった。固いパンでも、食べられるだけマシだ。こうなった場合、そう思うのが正しいのだから。


 私、エリカ・アシュフィールドはこのウィリス王国の王都貴族アシュフィールド侯爵家の次女だった。しかし、ほんの少し前に実家は没落。その理由は、辺境の有力貴族の怒りを買ったから。王都貴族と辺境貴族だと、辺境貴族の方に権力がある。さらに言えば、実家は元々落ちぶれていた。だから、容易く潰されてしまった。


「……お義姉様」


 パンを食べながら、そんな言葉を呟く。私が虐げてきたお義姉様。そんなお義姉様は、きっと今頃ふわふわのパンを食べて、お姫様のような生活をしているのだろう。彼女は辺境の有力貴族リスター伯爵に見初められ、そのまま婚約された。……元々は厄介払いのような婚約だったけれど、お二人はきっと幸せなのだろう。……前に一度見た時は、少なくとも幸せそうだった。……十五歳の年齢差を、感じさせないくらいには。


「……きっと、幸せなのよね。お姫様みたいな生活をして、周りにちやほやされて」


 私とは、真逆だ。私はギャンブルとお酒に溺れたお父様と、別の男性の元に通っているお母様の帰りを孤独に待つだけの娘。でも、一人の方がずっと気楽。だって、不機嫌なお父様とお母様のお顔を見ないで済むから。


 実家が没落後、お父様はお酒とギャンブルに溺れた。自分は侯爵だったのだと周囲に威張り散らしていたため、近所からの評判もとても悪い。お母様はお金持ちの別の男性を見つけ、その男性の元に足しげく通っている。きっと、もう一度お金持ちに返り咲こうとしているのだろう。……そうじゃないと、娘を六十を過ぎた好色の男性の元に嫁がせようとはしない。


「私も、お義姉様みたいに幸せな結婚がしたいなぁ」


 そう思っても、無理なことは分かっている。それに、これが私に与えられた罰なのだろう。何の罪もないお義姉様を虐げたという、罪に対する罰。だから、私が嘆く権利はない。……お義姉様は、これよりもずっと辛かったのだから。


「……会いたい。一言だけ、謝りたい」


 それは結局自己満足でしかない。分かっている。分かっていても――どうしても、お義姉様に一言「ごめんなさい」と言いたかった。でも、一歩が踏み出せない。お義姉様はきっと、私のことを嫌っているから。顔なんて、見たくもないだろうから。


 そんなことを考えていると、不意にアパートの窓がコンコンと叩かれる。……誰? 少なくとも、私たち家族は近所付き合いをしていないから、ご近所さんという可能性は……いや、あるわね。お父様とお母様が何かをしでかしたのならば、クレームを入れにやってくるだろう。その尻拭いをするのは、決まって私。……もう、この生活も嫌になってきちゃった。


 恐る恐る私が窓の方に向かえば、そこには誰もいなかった。怪訝に思って周囲を見渡すけれど、やっぱり誰もいない。……気のせい、だったのかしら? そう思って引っ込もうとした時、不意に一つの真っ赤な箱が視界に入った。……綺麗にラッピングされている。まるで、プレゼントみたい。


「……なに、これ」


 小さくそう呟いて、私はその箱のラッピングを解いてみる。リボンと包み紙を解き、ふたを開けたら――中に入っていたのは、真っ青なドレス。触れただけでも分かるほど、その生地は高級なもの。驚いて私がそのドレスを広げてみたら――そのデザインに驚いてしまう。


「こ、れ……」


 それは、私が侯爵令嬢時代に好んで身に着けていたドレスのデザインと全く同じだったのだ。……というか、そもそもどうしてドレスがこんなところにあるのだろうか? ラッピングされていたということは、誰かへのプレゼントだと思うのだけれど……。


 そう思っていれば、ひらひらと一枚の紙が落ちてきた。それは、ドレスの間に挟まっていたよう。その紙を拾い上げて、私はそこに綴られている文字を目で追った。その瞬間――私の身体から血の気が引いている。


『エリカ嬢は、落ちぶれても可愛らしいね』


 綴られていた文字は、そんな文字だった。慌ててその紙を箱に放り込もうとすれば、箱の中にもなにやら紙のようなものが入っていることに気が付く。……怖かった。けど、人間は怖いもの見たさを抑えられない。だから、その紙を手に取ってみれば――そこには、たくさんの絵が描かれていた。その絵のモデルは――私自身。


「いやぁ!」


 なに、気持ち悪い! そう叫んで、私がしりもちをつけば誰かがこちらを見ているように感じてしまう。……怖い、怖い! 助けて、助けて!


「――お義姉様……!」


 助けを求めたい私は、無意識のうちにお義姉様のことを呼んでいた。……お父様でもなく、お母様でもなく、お義姉様を。

次回もエリカ視点です(o*。_。)oペコッ

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