表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/173

第12話 異母妹との日々(4)

「……私が、ですか?」


 マリンは私の言葉に、驚いたような声音でそう返してくる。だから、私は静かに頷いた。


 多分だけれど、このお屋敷でエリカのことを好意的に思っている人は、ほとんどいない。それは、分かっている。でも、マリンは違った。マリンはエリカのことをそこまで悪く思っていない。そのため、エリカの世話役兼護衛にするにはぴったりだと思った。


「……お願い、出来る?」


 どんな返答が来るかが怖くて、私は恐る恐るマリンにそう問いかけてみる。すると、マリンは「……かしこまりました」と言って一礼をしてくれた。それを、クレアは微妙な表情で見つめている。……やっぱり、クレアはエリカのことを好意的には見ていないのね。


 時計を見れば、もうそろそろ次の予定の時間だった。だから、私はゆっくりと立ち上がり、エリカの手を離そうとした。でも……エリカが、ぎゅっと手を掴んでくる。それはまるで「行かないで」と伝えてきているようで。


「……エリカ。すぐに、戻ってくるからね」


 だけど、次の予定をすっぽかすわけにはいかない。そういう意味で、私はエリカにそう声をかけて手を振りほどいた。そのまま、クレアを連れて次の予定である、花嫁修業の家庭教師が待つお部屋に向かう。マリンには、エリカの側に居てほしいという意思を伝えたので、彼女はこの客間に残ってくれている。


「……シェリル様!」


 家庭教師の待つお部屋に向かう途中、クレアに不意に名前を呼ばれる。そのため、私は「どうしたの?」と彼女に問いかけた。そうすれば、クレアは「……マリンは、優しい子です」と言う。


「口では厳しいことっばかり言いますけれど、優しい子です。だから……その、彼女のことも見捨てられなかったのかと」


 ……クレアの言う「彼女」とは間違いなくエリカのことよね。……そうなの、ね。けど、私もそれくらいは分かっている。マリンが優しいことなんて、ずっと前から知っている。


「分かっているわ。……でも、誰かがエリカの側に居ないといけなかった」


 エリカはずっと怯えている。そんな彼女を、一人に出来るわけがない。ならば、マリンを付けるのが最適だと思った。ただ、それだけ。


「……それは、そう、ですが……」


 クレアは私の答えを聞いて、微妙な表情を浮かべていた。だからこそ、私は「今日のレッスンは、何かしら?」と問いかける。一応、ダンスレッスンだと覚えている。でも、話をそらすためにそう問いかけた。


「あ……だ、ダンスレッスンです。本日はこの辺境の方でメジャーなダンスを覚えていただきます」

「そう、ありがとう」


 ウィリス王国は大きく五つに分けられる。王都と東西南北の辺境。辺境はそれぞれ全く違う雰囲気であり、王都も独立した雰囲気。そういうこともあり、辺境では辺境の文化が発展している。それも、つい最近覚えたことだった。


「……家庭教師の方、シェリル様のことを褒めていらっしゃいましたよ。……すごく、熱心だと」

「……そう言ってもらえると、嬉しい。ありがとう」

「いえ、本当のことですので」


 クレアはそんなことを言いながら、私の後ろをついて歩く。もうすぐ、家庭教師の人が待つお部屋にたどり着く。……心の中では、エリカのことを心配している。だけど、家庭教師の人からすればそんなこと知ったことじゃない。だから、悟られたくない。言い訳だって、思われたくない。


 そんなことを考えていれば、目の前から一人の女性が駆けてくるのが視界に入った。その女性の特徴は、茶色の長いポニーテールと、おっとりとした印象を与える青色の目。何処となく世話焼きに感じられるオーラを身に纏う彼女は……ロザリア・ルシエンテス様。私の、護衛。


「シェリル様!」


 ロザリア様はそうおっしゃりながら、私の元に駆けよってきてくださる。その際に、ふわりとした真っ赤なローブが揺れた。……この真っ赤なローブは、王国が認めた魔法使いだという証らしい。女性は赤色、男性は青色のローブがその証拠だとか、なんとか。


「ロザリア様」

「大変だったみたいですね。なんでも、シェリル様の妹さんが倒れたって……」


 ロザリア様は眉を下げながらそうおっしゃる。なので、私は「今は、眠っていますよ」と答える。その私の回答を聞いたためか、ロザリア様はホッと息を吐いていた。……多分、事情を詳しく知らないから純粋に心配してくださっているのだと思う。


「私に出来ることがあれば、なんでも申し付けてくださいませ」

「……ありがとう、ございます」

「いえいえ、それが私の仕事ですから」


 眩しい笑みを浮かべるロザリア様は、まるで太陽のような人だ。そう思いながら、私がロザリア様のお顔を呆然と見つめていれば、ロザリア様は「あっ、では、私は仕事に戻ります~!」とお言葉を残して、また駆けていかれた。……ロザリア様は、私の護衛という役割のほかに、このリスター家の魔法関連を全て管理されている。なので、彼女は結構忙しい。


「いつも思いますけれど、ロザリア様ってすごく忙しそうですよね……」

「……まぁ、それが彼女のお仕事……みたい、だもの」


 クレアの言葉にそれだけを返して、私は家庭教師の待つお部屋に向かう。そして――今日も、レッスンが始まる。

次回は閑話1、エリカ視点です。引き続きよろしくお願いいたします……!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ