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第9話 異母妹との日々(1)

「あのね、エリカ。ここのスペースは私がお世話をしているのよ」


 それから数時間後。私は空き時間を使って、エリカをお庭に連れ出していた。私がお世話をしているガーデニングスペースに連れてきて、笑いかける。そうすれば、エリカは少しだけ表情を崩してくれた。エリカは多分、緊張している。


「……お義姉様、無趣味だったのに」

「そうよ。けど、ここに来てガーデニングの楽しさに目覚めたの」


 私がしゃがみ込んで土に触れれば、エリカは興味深そうに私の手元を覗き込んでくる。エリカ、確かこういう土とか苦手だったはずなのに。


「お義姉様。私は今、平民として暮らしているのよ。土に触れるくらい、なんてことなくなったわ」

「……そう、なのね」

「まぁ、お父様もお母様も頼りにならないし、自分でやるしかないのよ」


 エリカはそう言って、土に触れる。その後「……お義姉様、すごいわよね」なんて零していた。


「お義姉様は『豊穣の巫女』なのよね。……羨ましい」

「……エリカ」

「イライジャ様も、最終的にお義姉様の元に戻ったわ。私よりも、お義姉様が良いって、おっしゃっていたの」


 エリカは、本当にイライジャ様のことが好きだったのだろうか? 多分、私を見下すために奪ったに等しいのだろうけれど。それでも、その表情を見ると本気で好きだったのではないかと、思ってしまう。でも、私のその考えを読んだかのように、エリカは「未練はないわよ、あの男に」なんて言っていた。


「あんな男、こっちから捨ててやるべきだったわ。だから、未練なんてないの。……それに、男なんてもうこりごり」


 私にぎこちなく笑いかけながら、エリカはそんなことを言う。その目には、少なからず怯えが映っているように見えて、本当にエリカは何かに怯えているのだろうなぁ、なんて思った。


「あのね、お義姉様。私、落ち着いたら修道院に行こうと思うの」


 それからしばらくして、エリカはそんなことを告げてきた。それに驚いて「どうして?」と問いかければ、エリカはただ黙ってしまう。それでも、少ししてから「……この世に、絶望したから」なんて言ってきた。


「お父様もお母様も、頼りにならないし私のことを道具としか見ていないわ。そんなお二人から離れるには、修道院に行くことが一番だと思うのよ。……それに」

「……それに?」

「……私、不安なことが、あって」


 そう言って、エリカは不安そうに目を揺らす。ここで、その不安を問いかけてあげた方が、いいかもしれない。それでも、エリカはきっと教えてくれないだろう。それは、すぐに分かった。そのため、私は「……教える気になったら、教えて頂戴」とだけ言った。その言葉は正解だったのか、エリカはホッと胸を撫でおろした後「……分かっているわ」と言ってくれる。


「あのね、エリカ。あっちではウィリスローズを育てているのよ。今はまだお花が咲く時期じゃないけれど……咲いた時は、とても綺麗だったのよ」


 私が重苦しくなった空気を変えるように、明るい声でそう言えば、エリカは「……いいなぁ」なんて零す。


「私、お花だとウィリスローズが一番好きなの。……見てみたかった」


 苦笑を浮かべながら、エリカはそう言う。……見てみたかった、じゃないわよ。ここに滞在できるのは三ヶ月しかないけれど、それが終わってもいつでも来てくれればいいのに。そう、思ってしまう。


「エリカ。いつでも来ていいのよ」


 私はこのお屋敷の主じゃない。だから、まずはギルバート様の許可を取らなくてはいけないのだけれど。それは、エリカも分かっていたのか「……あのお方が、許可してくださったらね」なんて言ってくる。


「あのお方、私のことを嫌っているわ。まぁ、当然だけれど。愛する女性を虐げた異母妹なんて、顔も見たくないだろうし」

「……エリカ」

「……私、今ならば思うの。お義姉様と、もっといい関係が築けたんじゃないかって。お義姉様と、仲のいい姉妹になれたんじゃないかって」


 そのエリカの言葉は、私も何度も思ったことだった。だから、私はエリカの手を握る。土に触れた後だったので、少し汚れていた手。それでも、エリカが嫌がることはなかった。


「今からでも、なれると思うわ。……エリカ。私との関係を、修復しましょう」


 エリカの目を見てゆっくりとそう言えば、エリカは「……無理、よ」と言う。その声音は、とても弱々しくて。


「私、お義姉様に酷いことをたくさんしたもの。今更、仲良くできる資格がないの。……それに、私――」

「……どうした、の?」

「――私、もしかしたら死ぬかもしれないの」


 ゆっくりと、噛みしめるように。エリカは、そう告げてきた。それに、私は驚いて目を見開いてしまう。……エリカは、元気そうじゃない。その私の考えは、エリカに伝わったのか、彼女は「……病気とかじゃ、ないわよ」と教えてくれる。


「私、命を狙われているの。だから……死ぬかも、しれないの」


 そう言ったエリカは、何処となく寂しそうな目をしていた。……エリカが、死ぬ。今までは、それに何の感情も抱かなかった。けど、今だったら――……。

昨日更新する分だったのですが、推敲途中に寝落ちしたので、本日更新します。

また、来年の4日までこちらの作品は更新をお休みさせていただきます。ご了承くださいませ。


こちらの作品は本日が今年最後の更新になります。今年一年、ありがとうございました。来年も引き続きよろしくお願いいたします……!

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