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第6話 たった一人の異母妹だから

「な、何のつもりよ!」


 私の腕の中で、エリカはただひたすら暴れた。でも、私はそんな彼女のことをただ抱きしめていた。そうすれば、エリカは徐々に抵抗を止める。その後、私がエリカの目を見つめれば、エリカの目は明らかに動揺で揺れていた。


「奇遇ね。私も、貴女のことが大嫌いよ」


 まるで幼子に言い聞かせるように。私は、ゆっくりと噛みしめるようにそう告げた。そうすれば、エリカの目はさらに揺れる。きっと、まさか私がそんなことを言うとは思わなかったのだろう。


「わがままで、傲慢で、高飛車で。私のことをいつも見下してくる。そんな貴女のことを、好きになれっていう方が無理なのよ」


 沈黙の空間に、私はそんな言葉を落とす。そうすれば、エリカは気まずそうに目を逸らした。そこに、前までのような自身に満ち溢れた態度はなくて。だから、私は「……でも」と続ける。


「貴女は、私にとってたった一人の異母妹なのよ。だから、貴女が困っているのならば、それ相応に力になってあげたい」


 エリカの目を見てそう言えば、エリカは「……私のことを、見下すの?」と震えるような声でいう。そのため、私は「えぇ、そうよ」と言葉を返した。これは、私のエリカへの仕返しだ。今まで散々虐げてきた異母姉に、助けられる。それ以上の屈辱は、彼女にはないだろうから。


「これが、私なりの仕返しよ。ねぇ、どう? 屈辱的でしょう?」


 そんな言葉を私が告げると、エリカは泣き出してしまった。その後「……お義姉様の、バカ!」なんて言ってくる。それは、まるで幼い頃のエリカの様だった。


「お義姉様は、いっつもそう。私よりもずーっと優秀。私、そんなお義姉様のこと、怖かった……!」


 泣きじゃくりながら、エリカはそんなことを言う。その姿は、まるで幼い子供が泣きじゃくるような泣き方だった。サイラスさんたちの方向を見れば、サイラスさんもクレアも渋い表情をしている。でも、先ほど応接間に入ってきたマリンだけは、私の目を見て頷いてくれた。


「お父様とお母様に認められるためには、お義姉様よりも上に立たなくちゃいけなかった。だから、私はお義姉様の魔力を奪ったのよ。なのに、どうして、どうしてお義姉様は私のことを憎まないの!? どうして、そんなことが言えるの!?」


 エリカは、私の胸を叩きながらそう叫ぶ。……エリカのことは、やはりつい最近まで憎たらしかった。でも、今は全然憎たらしくない。そう思えるのは、きっと――……。


「今が、幸せだからよ」


 噛みしめるように、私はエリカにそう伝える。


 私はここに来て初めて愛されることを知った。幸せを知った。ギルバート様がいらっしゃって、サイラスさんがいて、クレアとマリン、他の使用人たち。それから、ロザリア様。様々な人が、ここでは私のことを愛してくれる。だから、正直に言えばエリカには感謝しているのだ。……イライジャ様を、一度は奪ってくれたことを。


「私、きっとあのままイライジャ様と婚姻しても幸せにはなれなかった。だから、本当は貴女に感謝しているの。ここに追いやってくれたことを」


 エリカと目線を合わせて、私はそう告げる。そうすれば、エリカは「なによ、それ……!」と零していた。その口調はいつものようなもの。しかし、何処となく勢いがなくて。まるで、もう吹っ切れたような感じだった。


「……お義姉様、バカみたいにお人好しよね。こんな異母妹のこと、助けようとするんだから」


 その言葉はきっと、嫌味なのだろう。でも、今の私からすればそれは褒め言葉でしかない。そのため、私は静かに「ありがとう」と言っておいた。


「……それで、エリカはどうして急にここに来たの?」


 だけど、とりあえず本題だけは訊かなくちゃ。そう思って、私はそう問いかける。王都からこの辺境の地までは、かなり遠い。そんな距離を移動してくるのだ。きっと、何か重大なことがあったに違いない。私がそう考えて問いかければ、エリカは気まずそうに視線を逸らす。その後、口を開いた。


「お義姉様。しばらくでいいの、私のこと、ここに置いてくれない?」


 そして、そんな言葉を告げてくる。……置いてくれない? それはつまり、ここに滞在したいということだろう。私としては、構わない。しかし、このお屋敷の持ち主はギルバート様。私が勝手に許可できることでは、ない。


「少し待って頂戴。ギルバート様に、確認を取らないと」


 私はエリカの涙を指で拭いながら、そう言う。そうしていれば、タイミングよく応接間の扉が開き、ギルバート様がやってこられた。ギルバート様は私とエリカのことを見て、一瞬だけ目を見開かれる。でも、すぐに「シェリル!」と私の名前を呼んでくださる。


「シェリル。なにもされていないか? 傷つけられていないか?」


 ギルバート様は私の方に駆けよってこられてそうおっしゃった。なので、私は静かに「なにも、ありませんよ」という。どちらかと言えば、泣かせてしまったのは私の方だ。私は、エリカにこれっぽっちも傷つけられていない。


「……あの、ギルバート様。一つだけ、お願いがあるのです」


 そう思いながら、私はゆっくりと口を開いた。今までのエリカの態度から見るに、多分エリカは何かに怯えている。だから、頼りたくもない異母姉の元を訪れた。そう考えるのが、妥当だ。……怯えている対象は、分からないけれど。


「……どうした、シェリル?」

「エリカのことを、しばらくここに滞在させてくれませんか?」


 そのため、私はゆっくりと口を開いてそんなことを告げた。

週に二回ほどこの作品は更新をお休みさせていただこうと思っております。なので、明日は一旦お休みです(o*。_。)oペコッ(予定では火曜日と金曜日は更新をお休みしようかと思っております)

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