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第4話 たった一つ、気になること

「シェリル様。おはようございます~!」

「朝ですよ」


 お父様からのお手紙が届いた翌日。珍しく朝寝坊をしてしまった私を、クレアとマリンが優しく起こしてくれる。……昨日は、いろいろと考え込んでしまって、よく眠れなかった。そう思いながら、私はカーテンを開けるマリンを見つめる。


 私は元々客間に滞在していたのだけれど、今はこのリスター家のお屋敷の女主人のために用意されたお部屋を、使わせてもらっている。もちろん、まだ婚姻前なので寝室は別なのだけれど。


「シェリル様、珍しいですね。お寝坊なんて」

「……昨日の夜、いろいろと考えちゃって」


 クレアのその言葉に、私はそう返して持ってきてもらったぬるま湯で顔を洗う。そんな私の回答を聞いたマリンは「……実父のこと、ですか?」と問いかけてきた。あの場にマリンはいなかった。でも、どうやらクレアからお話を聞いたらしい。……だけど、私が考えていたのはお父様のことじゃない。出来れば隠しておきたいけれど、今誤魔化すと逆効果になりそうよね。……言った方が、いいわ。


「違うわ。エリカのことよ」


 私はタオルで顔を拭きながら、クレアとマリンにそう答える。そうすれば、二人は「……エリカって、シェリル様の異母妹のことですよね?」と尋ねてきた。そのため、私は静かに頷く。


「……エリカのことが、心配だったの」


 ただ目を伏せてそう言って、私はクレアに寝間着からワンピースに着替えさせてもらう。正直、着替えは一人で出来るのだけれど、二人は私の着替えを絶対に手伝おうとする。曰く、「これもお仕事の一つ」ということで。そのため、私は最近ではその言葉に素直に甘えるようにしていた。


「ですが、シェリル様。異母妹は、シェリル様のことを虐げて……!」

「……確かに、そうだったわ。けど、私、今ならば思うの。……あの子も、被害者だったって」


 確かに、イライジャ様のことを奪ったのはエリカだし、お父様とお義母様の愛情を受けて育ったあの子には、虐げられてきた私の気持ちなんて分からないだろう。それでも、エリカは被害者だ。一番私を虐げてきたのはエリカだったかもしれない。でも、元はと言えばあの両親の教育が悪いのだ。


「シェリル様」

「あの両親の元で、あの子がまともに育つわけがなかったのよ。あの子も、いわばあの両親の被害者よ」


 ワンピースに着替え、そのまま鏡台の前に座れば、マリンは手早く私の髪の毛をくしで梳いていく。そんな私の言葉を聞きながら、クレアとマリンは微妙な表情を浮かべていた。それは、鏡越しに良く分かった。


「……ですが、私は」

「クレアとマリンが、エリカのことを嫌っているのは分かっているわ。だけど、私にとっては結局唯一の妹だから」


 昔から、エリカは私から何もかもを奪ってきた。だけど、その行動の根本は「私よりも優秀だと示さなければならなかった」から。そうじゃないと、魔力を奪ったりはしない。あの子は、本当は私が怖かったのではないだろうか?


「……クレアもマリンも、互いを大切な姉妹だって思っているでしょう? 私たちは少し違うかもしれないけれど……それでも、血のつながった姉妹なのは間違いないのよ」


 正直、あの両親の元に生まれなかったら。そこそこ仲良く出来ていたのではないだろうかと、思ってしまう。異母姉妹だったとしても、仲良くやっているところはある。私たちの関係がこんなにもこじれてしまったのは、あの両親が悪い。


「なんて、朝から重苦しいお話をしてしまったわね。さぁ、朝食に行きましょうか。ギルバート様をお待たせしちゃうもの」


 重苦しくなった空気を感じ取って、私は出来る限りの笑みを浮かべて二人にそう声をかけた。いつもは下ろしっぱなしの髪を、今日は一つにまとめている。今日は土いじりをするつもりだし、こっちの方が動きやすくていいものね。


「……シェリル様」


 私がゆっくりとお部屋を出ていこうとすると、不意にマリンが声をかけてきた。なので、私は「どうしたの?」と言葉を返す。そうすれば、マリンは「私には、シェリル様とその異母妹の関係は、よく分かりません」と言ってきた。


「ですが、きっと、いつか。シェリル様のお気持ちは、異母妹の方に伝わると思います。……なんて、図々しいですよね」


 それだけを言ったマリンは、苦笑を浮かべていた。だけど、私にはその言葉はとても嬉しかった。そのため、私は「ありがとう」と笑みを浮かべて言う。


「……マリン。マリンの気持ちは、私には分からないわ。少なくとも、私はシェリル様のことを虐げた異母妹のことを許せそうにない」

「クレアの気持ちも、分かるわ。けど、シェリル様のお気持ちを優先するのが、私たちじゃない」

「……それ、は」


 クレアとマリンの、そんな会話が聞こえてくる。……二人のこういう言い合いは、あまり聞いたことがなかった。……私の所為、よね。そう思って私が心を痛めていれば、マリンは「行きましょうか」と空気を入れ替えるように、笑みを浮かべて言ってくれた。


「旦那様が、お待ちですし」

「……そうね」


 そうよ。ギルバート様をお待たせするのは、良いことじゃないわ。そう考えて、私がお部屋を出て廊下を歩いていた時だった。前から、サイラスさんが焦ったような表情で駆けてきた。


「……サイラス、さん?」

「大変です、シェリル様!」


 そして、サイラスさんはそう言って私の目をまっすぐに見つめてくる。その目には、何処となく怒りのような感情が籠っているような。そんな風に、私には見えてしまった。

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