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第4話 ギルバートとの対面

 その男性は、濃い紫色の短髪をしていらっしゃった。その瞳は鋭く吊り上がっており、色は髪色と同じ濃い紫。どこか強張ったその表情は、緊張しているようにも見えてしまう。


「あ、旦那様! こちら、シェリル様です!」


 私がその男性を茫然と見つめていると、クレアさんがそう言った。……旦那様ということは、このお方が「冷酷な辺境伯」、ギルバート・リスター様ということなのだろう。確かに、お顔は大層怖い。睨まれたらきっと大人でも怯んでしまうだろう。そんな迫力が、あった。


「……シェリル・アシュフィールド嬢、だな」

「はい、私がシェリル・アシュフィールド、でございます」


 ギルバート様にそう問いかけられて、私は静かに頭を下げてそう答えた。そうすれば、ギルバート様はゆっくりとため息をつかれる。その後、「リスター辺境伯爵家の当主、ギルバートだ」と自己紹介をしてくださった。……しかし、強面だけれどオーラは冷酷というよりも、どこか苦労人っぽい……気が、する。


「年齢は十八。間違いないな?」

「はい」


 続けてギルバート様は私に数個の質問をしてこられる。なので、私はそれに端的に「はい」と「いいえ」で答えていた。そして、質問が十個を超えたとき。……ギルバート様は、またため息をつかれた。やはり、私のことは歓迎していないようだ。そう思って、私もこっそりとため息をつく。


「アシュフィールド侯爵は、なんてことをしてくれたんだ……!」


 さらには、ギルバート様はそんなことをぼやかれていた。「なんてこと」。それは、きっと私を送り込んできたことだろう。そう判断し、私は「すみません……」と言っていた。勝手に父が起こした行動とはいえ、私に責任がない……わけではない、と思う。


「シェリル嬢。俺の年齢は知っているな?」

「はい、三十三だとお聞きしております」

「そうだ」


 ギルバート様は私の目をまっすぐに見つめて、そうおっしゃる。その表情は、至って真剣で。私は、何を告げられるのかと怯んでしまった。しかし、ギルバート様は私の怯みを見てか「ゴホン」と咳ばらいをされ、「シェリル嬢は、帰る場所はあるのか?」と問いかけてこられる。……帰る、場所。そんなもの、あるわけがない。


「いえ、ありません。家は、追い出されていますので」

「……だろうな」


 私の回答を聞かれて、ギルバート様は露骨にため息をつかれると、クレアさんとマリンさんに何か指示をされている。……一体、何をされているのだろうか? 妻としては見られないから、と私を追いだす計画でも立てていらっしゃるのだろうか? ……メイドで良いので、置いてほしいのだけれど。誰も、妻になりたいとは思っていない。


「あ、あの、メイドとして……」

「――シェリル嬢」


 私が、「メイドとして置いてほしい」と言おうとした時だった。ギルバート様はおもむろに私の肩に手を置かれると、「……ほとぼりが冷めるまで、ここにいてもいい」と、私が想像もしていなかったことをおっしゃった。……ここにいても、いいの? そのお言葉が信じられず、私が目をぱちぱちと瞬かせていると、ギルバート様はまたため息をつかれた。……やはり、どこか苦労人の香りがする。


「帰る場所のないシェリル嬢を追い出しても、俺が後悔するだけだ。……しばらく、ここで客として滞在すると言い。侍女としてクレアとマリンも付けよう。……ただ、妻としては迎えない」

「あ、ありがとうございます!」


 そのお言葉に対して、私はただ勢いよく頭を下げてお礼を言うことしか出来なかった。まさか、滞在させてくださるなんて。……妻として迎えなくても、それでも構わない。……でも、侍女は必要ない。元々、実家でも一人だったし。


「ですが、侍女は必要ありません。私、大体のことは一人で出来ますので」


 だから、私は満面の笑みでそう言った。そうすれば、ギルバート様は微妙な表情になれて、「……いや、付ける」とおっしゃって引いてくださらない。……何故、ここまで引いてくださらないのだろうか。


「クレア、マリン。シェリル嬢のことは頼んだぞ。……客人として、扱うように」

「はい」

「かしこまりました」


 私がどれだけギルバート様に抗議をしても、ギルバート様は聞いてくださらない。ただ、クレアさんとマリンさんに声をかけるだけ。いや、私のお話を聞いてくださらない? そう思ってギルバート様に抗議の視線を送るけれど、ギルバート様は露骨に視線を逸らされるだけだった。


「では、俺は仕事に戻る。……生憎、まだ仕事が終わっていないんだ。二人とも、とりあえずシェリル嬢を客間に案内してやってくれ。……その後のことは、夕食時にでも相談しよう」


 ギルバート様はそうおっしゃると、颯爽とお部屋を出て行ってしまわれた。いや、あの、私のお話を聞いてください……! そう、クレアさんとマリンさんに視線だけで訴えても、二人は「では、行きましょう!」というだけだった。……押しが、とても強かった。

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