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第22話 ギルバートとシェリルのデート(?)(7)

 お昼を食べ終えた後、私たちはフィヘーの街を出て農地の方に向かうことになった。ゆっくりと馬車を走らせ、徐々に豊かになる自然に視線を向ける。青々とした緑と、綺麗な花々。それを見つめていると、あっという間に農地にたどり着いた。


「あぁ、伯爵様。申し訳ございません。わざわざ、足をお運びいただいて……」

「いえ、これも領主の務めですので」


 ギルバート様についてここら辺の農地のまとめ主だという中年の男性の元に向かえば、その男性は少し困ったような表情を浮かべて私たちを出迎えてくれた。どうやら、不作にかなり参っているよう。そんな様子を見つめながら、私が空気に徹していると不意にその男性は私に視線を向けて、「そちらのお嬢様は……?」と問いかけてきた。


「わ、私は……」

「カリーさん。彼女はシェリル嬢と言います。……俺の、新しい婚約者です」

「あぁ、そうなのですか。とてもお若いようですね」


 私が自己紹介をしようとすれば、ギルバート様はそうおっしゃって私の肩を抱き寄せられる。……い、いや、何故抱き寄せられたの……? そう思って混乱していれば、「カリーさん」と呼ばれた男性は少し表情を緩めて、「ご婚約されたのですね」と笑いながら言っていた。……ギルバート様、何故今日はずっと私のことを「婚約者」と紹介されているのかしら……?


「ぎ、ギルバート様……?」

「今は、俺に話を合わせてくれ。面倒なことにしたくない」


 一人戸惑う私がギルバート様に視線を向ければ、ギルバート様は私にそう耳打ちされてきた。……そう言うこと、なのね。やっぱり、婚約者として紹介しているのはそう言う打算的な意味合いが強いのか。でも、それはそれで当然だと思う私もいた。


「伯爵様。こちらが、今の畑の現状でして……」


 カリーさんに案内されて、私とギルバート様は彼の畑の元に向かう。その畑には、少ししおれたような野菜たちがあった。……雨不足、かしら? 私がリスター家に来てから、あまり雨は降っていないし……。それとも、土の栄養不足とか?


「……そうですか。少し、お邪魔をしても?」

「はい、どうぞ」


 ギルバート様はそうおっしゃると、私に「ここで待っていてくれ」とだけ声をかけられて、畑に足を踏み入れていかれる。……私も入ってみたいけれど、服が汚れるのは嫌だから素直にここで待機しておこう。そう思って、私は畑の手前にしゃがみこみ、手を伸ばして土に触れてみた。……魔力が、なんだか少なくないかしら?


(この感じだと、魔力不足が大きいのかもしれないわね。アシュフィールド侯爵領も、もしかしたらそうだったのかもしれない)


 土にはたくさんの魔力がこもっている。しかし、何十年かに一度のペースで、その魔力が枯渇してしまうらしい。……そして、その年は凄まじい不作になるとも知っている。……いつしか、実家で暇つぶしに読んだ本にそんなことが書いてあった気がするわ。ちなみに、その本は父の廃棄書物を勝手に拝借して読んでいたものだ。


「しぇ、シェリル様……! そんな、土に触れられては……!」


 私が土に触れて吟味していると、カリーさんは慌てたような声音で私に声をかけてきた。……そっか。普通のご令嬢はこんな風に土には触れないわよね。あと、今私の足元にミミズがいるけれど、私は悲鳴一つ上げなかったわ。


「……私、別に服さえ汚れなければ、それでいいので」

「は、はぁ」


 あっさりとした私の回答に、カリーさんは少し戸惑っている。……さて、魔力不足ということは対処法は一つ。それ専用の肥料を蒔くこと。しかし、その専用の肥料はかなりの金額がするため、一般の農家では買えない代物。……ギルバート様が、お金を出してくださるといいのだけれど。


(ううん、ギルバート様はお優しいし立派な領主様だわ。……きっと、私の意見も聞いてくださる)


 そう思い、私はギルバート様に向かって「大体の原因、分かりましたよ」と少し大きな声で言う。そうすれば、ギルバート様は「本当か!?」とおっしゃって、私の方に近づいてこられた。


「多分ですが、土の魔力不足が原因だと思います。……土に、魔力が少ない気がするのです」

「……そうか。ただ、シェリル嬢は土に触れただけで魔力の量が分かるのか?」

「……そうですけれど」


 ギルバート様のおっしゃっている意味が、分からない。普通、触れたら魔力の量が分かるのではないの? そんなことを私は考え、小さく小首をかしげる。そうすれば、ギルバート様は「普通、土の魔力など測定器を使わなければ分からないぞ」ととんでもないことをおっしゃった。


「……はて?」

「もしかしたらだが、シェリル嬢は土の妖精や精霊に好かれているのかもな」


 精霊や妖精なんて、空想上の存在ではないの? 私がそんなことを思いながら茫然としていれば、ギルバート様は「まぁ、シェリル嬢が嘘をつくとは思えないし、そっちの方向で支援をしてみよう」とおっしゃった。


(普通じゃ、分からないものなの?)


 私は自分の手のひらに載った土を見つめながら、そんなことを思う。……私、結構稀有な能力を持っていたのかしら? もしかして、かなり価値のある存在? いや、それはないか。


 そう自分に言い聞かせて、私はただギルバート様とカリーさんの会話を、聞いていた。

これからしばらく二日に一回の更新ペースにさせていただきますm(_ _"m)ご理解のほどをよろしくお願いいたします。

いつもお付き合いありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします!

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