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第41話 いらぬ気遣い

 それからもう一度眠って、次に私が目を覚ましたのは昼の十二時を過ぎた頃だった。


「奥さま~!」

「本当にご無事でなによりです!」


 後から駆けつけてくれたクレアとマリンが半泣きになりながらそう言ってくれる。


 泣いているのに嬉しそうで、感情がぐちゃぐちゃになっているみたいだと思ってしまう。


 私は二人の身体を抱きしめて「ただいま」という言葉を口にした。


「それにしても、普通に目覚めてくださってよかったです!」

「もうすぐでロザリアさんがあなたに薬湯を飲ませるつもりだったのよ」


 どうやら、目覚めたときにした不味そうなにおいは薬湯だったらしい。


 それはロザリアさんが作ったもので、効き目は抜群だけれど美味しくない……はっきりと言って、すごく不味いそうだ。


 ……正直、飲む必要がなくてよかったと心の底から思っている。


「土の魔力に関しては、ゆっくりとだけれど戻りつつあるみたいだわ。……先ほど、サイラスのほうから言伝があった」


 アネットさまが肩をすくめつつ、そう言う。


 サイラスについては儀式が終わり次第、各地を回って土の魔力を観測しているらしい。


 本当ならば私が目覚めるまで一緒にいたかったらしい……のだけれど。


 神官たちだけでは手に負えないらしく、転移魔法を扱えるサイラスが渋々出向くことになったそうだ。


 ……帰ったら、無事だとまずは顔を見せたいと思う。


 そう思っていると、アネットさまが一歩を踏み出す。そして、私に微笑みかけてくださった。


「……正直、上手く行くなんて思いもしなかったわ」

「アネット、さま……」


 目を伏せた彼女が、とても儚く見えてしまう。


「……私の妹のように、あなたがいなくなるんじゃないかって、思ってしまった」

「妹、さん」

「えぇ、そうよ。もうずっと前に亡くなった、私の可愛い妹」


 顔を上げて、遠くを見つめたアネットさま。……ただ、慈しむような目をしていると思う。むしろ、そうとしか思えない。


「当時の私は自棄になっていた。……その所為で、ギルバートをたくさん振り回したわ」


 懐かしむような声。アネットさまが、また一歩私のほうに近づいてくる。


「……でも、ギルバートが幸せになれてよかった。……これからも、あの困った男をよろしくね」


 その手が私の背中に回って、ぎゅっと抱きしめられた。


 私はこくんと首を縦に振るのが精いっぱいで。こみあげてきた涙を、拭うこともできなかった。


「アイツはヘタレだし、肝心なときに頼りないし、不器用だし。……それでも、あなたを想う気持ちは、誰にも負けないはずだから」

「……そうですね」


 そのうえで、私が旦那様を想う気持ちも、誰にも負けないはずだ。


 心の中だけで付け足した私の言葉が伝わったかのように、アネットさまが笑われる。


「とまぁ、こんなところで。……私たちは、そろそろリスター伯爵領に戻ろうと思うわ」

「……えっと」


 彼女はあっけらかんとそう言うけれど、予定では彼女たちも私と一緒に明日戻る手筈になっていた……のに。


「この近くにね、とってもきれいな星空が見える場所があるそうよ」


 アネットさまの言葉に、私はきょとんとすることしか出来ない。それが一体、なんの関係があるのか。


「ギルバートと二人で、そこに行ってきなさい。私たちは邪魔だろうから、一日早く戻るわ」

「……え、え」


 ひらひらと手を振るアネットさま。ロザリアさんやクレア、マリンに視線を向けると、彼女たちも頷いていた。


 ……つまり、置いてきぼり?


「置いてきぼり、ですか?」


 ついついそう問いかけてみれば、アネットさまが声を上げて笑い始めた。


 心の底から、面白いと言いたげな姿だ。


「そうねぇ、置いてきぼりね。ギルバートも置いていくし、困ったらアイツをこき使いなさい」

「……え、えぇ」

「そうですよ、たくさんわがまま叶えてもらってくださいね!」

「お邪魔虫は退散します~!」


 別に、邪魔なんて思わないんだけど……という間もなく、彼女たちは次々に帰る準備を始めた。


 ……早い、行動が早い!


(絶対に打ち合わせていたわ……!)


 私が眠っている間に、どんな打ち合わせがされていたのか。それは怖くて聞けないけれど、まぁ、気を遣ってくれたことは確かだ。


「……とりあえず、旦那様をお誘いしてみよう」


 彼がこのことを知っているかはわからない。だから、一応お誘いしてみよう――と思って、私は屋敷のほうに足を向けた。


 昨日というか、今日の夜。窓から見えた星空は、とてもきれいだった。


 そこまで言われるのだから、きっともっともっときれいだと思う。


「よし、頑張ろう」


 思いのほか身体も楽だった。……それは、そこまで魔力を使わなかったからだと思う。


(女神さまが私を見守っていたいとおっしゃってくださった。……だから、私も頑張る)


 少しでも、彼女の気持ちに報いたい。


 そう思う私の想いは、間違いじゃない。

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