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第31話 これも、私の一部

「でも、この力も私の一部なのは、間違いないんです」


 この力があったからどうこう……ではない。ただ、この力も私という、『シェリル・リスター』を構成している一部なのだ。


「この力がないと、私は私じゃないですから」


 ゆるゆると首を横に振って、そう告げる。


 私の言葉を聞いたメラニーさんは、一瞬だけぽかんとしていた。でも、すぐに頬を緩めてくれる。


「そう。……だったら、いいわ。あなたが断るのならば、私は無理強いはしない」

「……メラニーさん」

「ただ、そうねぇ。……少しだけ、こっちに来て頂戴」


 メラニーさんが、私のことを手招きする。その仕草を見て、少しだけ迷った。だって、彼女に近づいても大丈夫なのかわからなかったから。


 ……だけど、意を決して足を前に進める。私の顔よりも少し上にあるメラニーさんの顔を、見上げた。


 メラニーさんの手が、私の頬に触れる。まるで愛おしいものに触れるかのように、私の頬を撫でた。


「あぁ、本当、愛らしいわ」


 彼女の呟きが、耳に届く。


「あの子にそっくり。……もっと、見ていたい。ずっと、見ていたいわ」


 何処か寂しそうな声だと思う。けれど、私は彼女の望みを叶えることは出来ない。


 だって、私には帰る場所があるから。


「……申し訳、ございません」


 私の口から零れた謝罪の言葉に、メラニーさんは曖昧に笑っていた。


 これだけ。たったこれだけの言葉で、彼女には全部お見通しだったのだろう。私の中にある決意と気持ちも、全部、全部。


「いいのよ。私は死んだ身。対するあなたは、生きているの。ずっと引き止めているわけにはいかないわ」

「……はい」

「ただ、そうねぇ。土の女神さまにお会いしたら、私のことを伝えてくれると嬉しいわ」


 彼女の手が、彼女自身の唇に触れる。お茶目に飛ばされたウィンクに、私は心の底からの笑みを浮かべることが出来た。


「さぁ、戻りなさい。……あなたには、たくさん待ってくれている人がいるのよ」


 一度だけ、私の身体をふわりとメラニーさんが抱きしめた。ほんのりと温かいその体温を感じて、私は小さく首を縦に振る。


 そっと顔を上げて、メラニーさんと微笑み合って。彼女が背中を押してくれるから、私はそちらに一歩を踏み出す。


 そして、また一歩、また一歩とそちらに足を踏み出して――ふと、私は後ろを振り返った。


「……メラニーさん」


 その場所には、メラニーさんがいる。ただ、身体の色がどんどん薄くなっていて、まるで透けているかのようだった。


「私のことは気にしないの。行きなさい」

「……あの」

「でも、願いが叶うのならば。せめて、あなただけは、私の娘を忘れないで。そして、どうか。娘のお墓参りに行ってあげてね。……孫も、連れて」

「……はい――お祖母さま」


 きっと、いつかはそんな日が来るんだろう。


 それを再認識しつつ、私はまた前へ前へと足を進める。


 ある程度進むと。私の目が開いて――意識を失う前の場所に戻る。


「……んっ」


 うっすらと目を開けて、周囲をきょろきょろと見渡す。


 どうやら私はソファーに寝かされているらしく、重い身体を起こす。すると、すぐそばにいてくださったのか旦那さまが駆け寄ってきてくださった。


「シェリル!」


 ずきずきと痛む頭。まだ夢見心地な意識。


 額を押さえて、旦那さまに笑いかけた。……あぁ、そうだ。


「あの、試験のほうは……?」


 一番気になることを問いかけてみれば、旦那様はふっと口元を緩めてくださった。


「合格だと聞いている。想像以上だと」

「……そう、ですか」


 ほっと息を吐いて、胸を撫でおろす。でも、旦那様は何処か複雑そうな表情をされていた。


「ただ、道具のほうが耐えられなかったらしい。……神官たちは、日程調整は明日に持ち越すと言っていた」

「……そう、なのですか」

「あぁ」


 正直、今は身体も怠いし、意識もふわふわとしている。日程調整が明日に延びたのは純粋にありがたい。


「ところで、シェリル。大丈夫か?」


 旦那様が私のすぐ隣に腰を下ろされて、そう問いかけてくださった。


 だから、私はソファーに座り直して、彼の肩に頭を預ける。


「大丈夫です。……大したことは、ありませんでした」

「……だが」


 どうして、このお人はこんなにも心配性なのだろうか。


(けど、心配してくださっているということは、それだけ私が大切だっていうことよね……)


 だったら、それも案外悪くないのかも……と、思ってしまう。不謹慎だけれど。


「夢を、見たんです」


 目を伏せて、そんな言葉を口にしてみる。旦那様は「夢?」と怪訝そうな声を上げられていた。


「はい、とっても、すごい夢」


 面識のない自身の祖母と夢の中で会うなんて、相当レアな体験だと思う。


「……そうか」

「内容、聞かれないのですか?」

「別に、いい」


 旦那様の反応は、私の予想していたものとは真逆だった。


 その所為でぽかんとして彼を見つめていれば、旦那様はその手を伸ばして私の頬に触れる。


「シェリルの表情からして、悪い夢じゃなかったんだろう。……だったら、それでいい」

紙コミックスの第1巻発売まで、1ヶ月を切りましたね……!

特典などもそろそろ解禁されると思いますので、よろしければ旧TwitterのXのほうを覗いていただけると嬉しいです(n*´ω`*n)めちゃコミックさまの公式アカウントがありますので……!

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