第28話 いよいよ
普通にすっとぼけて予約を忘れておりました(´;ω;`)ウッ…
◇
アネットさまが私の家庭教師をしてくださるようになって、少しが経ち。
迎えたこの日。私は、神官のチェックを受けることとなっていた。
……以前、何度か神官の人と会ったことはあるのだけれど。
今回は、今までのものとは違う。完全な試験だった。
「奥さま。大丈夫ですよ」
ロザリアさんがそう言ってにっこりと笑いかけてくれる。……私は、曖昧に笑うことしか出来なかった。
(今日は、いわば試験だものね。私が失敗すれば、それだけ皆さまに負担がかかってしまう……)
今でも、刻一刻と。土の魔力は失われているのだ。
誰もが、一刻も早い改善を望んでいる。それすなわち、早く私が力をコントロールできるようになって、儀式に取り組む必要があるということ。
「とりあえず、落ち着きましょう。お茶をお持ちしました」
マリンがそう言って、目の前のテーブルにティーセットをおいてくれる。
流れるような動きでポットからカップに紅茶を注ぐ。ふわっとした心が安らぐような香りが届く。
「……これは?」
私がぽかんとそう零せば、お部屋の隅から「ウィリスローズから作ったお茶よ」と説明が飛んできた。
そちらに視線を向ければ、そこにはアネットさまがいて。
「ウィリスローズの中には、お菓子とかお茶に出来るものもあるの。……とはいっても、乾燥とかに時間がかかるから、あんまり量産は出来ないし、流通はしないけれどね」
彼女が肩をすくめて、そう教えてくれた。
……確かに、香ってくるのは何処か嗅ぎなれた香り。……そっか、これ、ウィリスローズなんだ。
「アネットさんって、すごいですねぇ。お茶とかお菓子とか。そういう知識も豊富です!」
ニコニコと笑ったクレアが、今度はパウンドケーキを持ってきてくれた。
「このクリームにも、ウィリスローズが使われているんですよ!」
「……そう、なのね」
確かにクリームは淡い桃色をしている。……そっか、そうなんだ。
「あのね、奥様」
私がお茶に息を吹きかけて、冷ましていると。不意に、アネットさまがこちらに近づいてくる。
そっと視線を上げれば、彼女としっかりと視線が合う。
「これだけ使い道があるバラだって、万能ではないのよ」
「……え」
ぽかんとして、彼女を見つめた。
「ウィリスローズは、食用には出来る。でも、薬なんかにはあんまり向いていないわ」
「……え、えぇっと」
「だから、全部一人でしようとしなくても、大丈夫」
その言葉が、すとんと胸の中に落ちてくる。
私は、ただただアネットさまを見つめていた。
「ここには、いろんなプロがいるわ。クレアやマリンは、侍女としては一流でしょう?」
「……はい」
「けど、彼女たちはロザリアさんほど魔法を扱うことは出来ない。……結局のところ、人って得意不得意があるのよ」
俯いてしまった。……多分、アネットさまは私が何でもかんでも。一人で抱え込もうとしていることを、ちょっと察しているのだ。
「だから、あなたは儀式に集中すればいい。ほかのことは、他の人がやるわ。あなたはあなたにしか出来ないことを、やりなさい」
まっすぐにぶつけられた言葉に、私は一瞬だけ戸惑って……それでもって、頷いた。
「……はい」
「そうそう。神官にも出来ることはあるから、顎で使ってやればいいのよ」
何処か偉そうなアネットさま。……自然と笑えて、今度はためらいなく頷けた。
「あいつらって、偉そうなだけでなにもしないから。……けど、豊穣の巫女の指示ならば、聞かざる得ないのよ」
アネットさまは、国中をある程度回っていることもあり、色々なことに詳しくて。
彼女の知識を教えてもらえるのは、すごく楽しくて、身になっているって、思える。
「と、いうわけで。……頑張りすぎないの」
「……はい」
私が彼女の言葉に頷けば、ほぼ同時に扉がノックされる。
そこには最近雇われた若い従者がいる。
「奥様。……神官の方が、ご到着されました」
深々と頭を下げてそう言う彼に、私は「わかったわ」と返事をする。ティーカップをソーサラーに戻して、私は立ち上がる。
衣服の裾を直して、私は背筋を正した。
「では、奥さま。……行きましょうか」
護衛としてついてきてくれるロザリアさんが、そう声をかけてくれる。
クレアとマリン、それからアネットさまはここで待機することになっていた。
(試験に付き添えるのは、王国が認めた魔法使いだけ、か……)
もしも、ロザリアさんがいなかったら……すごく、孤独だったんだろうな。
そう思ったら、ロザリアさんを雇ってくださった旦那さまにも、すごく感謝しなくちゃ。
(本当、ここに来れてよかった)
心の奥底からふわっと湧き出る気持ちを抱きしめて。私は、一歩を踏み出した。
あと、本日新連載みたいなものを始めております。
婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~(https://ncode.syosetu.com/n7183je/)
というものです。よろしければ、よろしくお願いいたします……!




