表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

155/173

第28話 いよいよ

普通にすっとぼけて予約を忘れておりました(´;ω;`)ウッ…



 ◇


 アネットさまが私の家庭教師をしてくださるようになって、少しが経ち。


 迎えたこの日。私は、神官のチェックを受けることとなっていた。


 ……以前、何度か神官の人と会ったことはあるのだけれど。


 今回は、今までのものとは違う。完全な試験だった。


「奥さま。大丈夫ですよ」


 ロザリアさんがそう言ってにっこりと笑いかけてくれる。……私は、曖昧に笑うことしか出来なかった。


(今日は、いわば試験だものね。私が失敗すれば、それだけ皆さまに負担がかかってしまう……)


 今でも、刻一刻と。土の魔力は失われているのだ。


 誰もが、一刻も早い改善を望んでいる。それすなわち、早く私が力をコントロールできるようになって、儀式に取り組む必要があるということ。


「とりあえず、落ち着きましょう。お茶をお持ちしました」


 マリンがそう言って、目の前のテーブルにティーセットをおいてくれる。


 流れるような動きでポットからカップに紅茶を注ぐ。ふわっとした心が安らぐような香りが届く。


「……これは?」


 私がぽかんとそう零せば、お部屋の隅から「ウィリスローズから作ったお茶よ」と説明が飛んできた。


 そちらに視線を向ければ、そこにはアネットさまがいて。


「ウィリスローズの中には、お菓子とかお茶に出来るものもあるの。……とはいっても、乾燥とかに時間がかかるから、あんまり量産は出来ないし、流通はしないけれどね」


 彼女が肩をすくめて、そう教えてくれた。


 ……確かに、香ってくるのは何処か嗅ぎなれた香り。……そっか、これ、ウィリスローズなんだ。


「アネットさんって、すごいですねぇ。お茶とかお菓子とか。そういう知識も豊富です!」


 ニコニコと笑ったクレアが、今度はパウンドケーキを持ってきてくれた。


「このクリームにも、ウィリスローズが使われているんですよ!」

「……そう、なのね」


 確かにクリームは淡い桃色をしている。……そっか、そうなんだ。


「あのね、奥様」


 私がお茶に息を吹きかけて、冷ましていると。不意に、アネットさまがこちらに近づいてくる。


 そっと視線を上げれば、彼女としっかりと視線が合う。


「これだけ使い道があるバラだって、万能ではないのよ」

「……え」


 ぽかんとして、彼女を見つめた。


「ウィリスローズは、食用には出来る。でも、薬なんかにはあんまり向いていないわ」

「……え、えぇっと」

「だから、全部一人でしようとしなくても、大丈夫」


 その言葉が、すとんと胸の中に落ちてくる。


 私は、ただただアネットさまを見つめていた。


「ここには、いろんなプロがいるわ。クレアやマリンは、侍女としては一流でしょう?」

「……はい」

「けど、彼女たちはロザリアさんほど魔法を扱うことは出来ない。……結局のところ、人って得意不得意があるのよ」


 俯いてしまった。……多分、アネットさまは私が何でもかんでも。一人で抱え込もうとしていることを、ちょっと察しているのだ。


「だから、あなたは儀式に集中すればいい。ほかのことは、他の人がやるわ。あなたはあなたにしか出来ないことを、やりなさい」


 まっすぐにぶつけられた言葉に、私は一瞬だけ戸惑って……それでもって、頷いた。


「……はい」

「そうそう。神官にも出来ることはあるから、顎で使ってやればいいのよ」


 何処か偉そうなアネットさま。……自然と笑えて、今度はためらいなく頷けた。


「あいつらって、偉そうなだけでなにもしないから。……けど、豊穣の巫女の指示ならば、聞かざる得ないのよ」


 アネットさまは、国中をある程度回っていることもあり、色々なことに詳しくて。


 彼女の知識を教えてもらえるのは、すごく楽しくて、身になっているって、思える。


「と、いうわけで。……頑張りすぎないの」

「……はい」


 私が彼女の言葉に頷けば、ほぼ同時に扉がノックされる。


 そこには最近雇われた若い従者がいる。


「奥様。……神官の方が、ご到着されました」


 深々と頭を下げてそう言う彼に、私は「わかったわ」と返事をする。ティーカップをソーサラーに戻して、私は立ち上がる。


 衣服の裾を直して、私は背筋を正した。


「では、奥さま。……行きましょうか」


 護衛としてついてきてくれるロザリアさんが、そう声をかけてくれる。


 クレアとマリン、それからアネットさまはここで待機することになっていた。


(試験に付き添えるのは、王国が認めた魔法使いだけ、か……)


 もしも、ロザリアさんがいなかったら……すごく、孤独だったんだろうな。


 そう思ったら、ロザリアさんを雇ってくださった旦那さまにも、すごく感謝しなくちゃ。


(本当、ここに来れてよかった)


 心の奥底からふわっと湧き出る気持ちを抱きしめて。私は、一歩を踏み出した。

あと、本日新連載みたいなものを始めております。


婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~(https://ncode.syosetu.com/n7183je/)


というものです。よろしければ、よろしくお願いいたします……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ