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閑話3 エリカの決意(エリカ視点)

「エリカの気持ちを考えて。ロザリア様のおっしゃった通り、貴方のしていることは一方的な愛情の押しつけよ」


 意を決したようなお義姉様のそのお言葉。そして、エヴェラルド様を平手打ちしたお義姉様を物陰から見たとき……私の決意は固まったのかもしれない。


(……お義姉様)


 豪奢な寝台に横たわりながら、私は昼間見た光景を思い出していた。


 実はあの後、私はお義姉様の後を追った。でも、前には出て行かなかった。いや、違う。……足が震えて前に出られなかったのだ。

 何が怖かったのか。今ならばそれがよく分かる。まさか私をストーキングしていた人がエヴェラルド様だったという真実が怖かったのだ。信頼しきっていた彼が犯人だなんて、私は想像もしていなかったから。


(……エヴェラルド様)


 昔はとても優しくて、私のことを気遣ってくださった素敵な男性だった。けれど、アシュフィールド侯爵家が没落して以来、疎遠どころか会ってもいない。


 そんな彼を犯人だと疑う方が無理だった。……私のことは、あきらめたと思っていたから。


(でも、私は怖かったの。……それに、私はエヴェラルド様のお気持ちを受け止められない)


 お義姉様をあんなにも傷つけてしまった私が、幸せになることは許されない。それに、エヴェラルド様と結婚したからといって幸せになれるとは限らないのだ。エヴェラルド様の生家はとても厳しいおうち。没落令嬢の私が嫁ぐことを、よしとはしないはずだから。


(しっかりと、振らなくちゃ)


 そして、私はそう思う。もうこんなことは止めてほしい。こんなことをしても私の気持ちは貴方には向かない。はっきりとそう言えばいい。そういえれば……すべてが解決する。私はもう、お義姉様に迷惑をかけないで済む。


 だけど、それと同時にお義姉様と離れるのが寂しいと思ってしまった。……昼間。本当ならば、私は「お義姉様の挙式に出たい」というつもりだった。お義姉様をいっぱい祝福したかった。……でも、私が参列することは許されないような気もした。


 だって、そうじゃない。お義姉様の幸せを壊してめちゃめちゃにしてきた私が……お義姉様を祝福するなんて許されたことじゃない。


「……よし、明日にでも出てきましょう」


 正直なところ、リスター伯爵やマリンにお礼を言わずに出て行くのは心苦しい。だけど、犯人が分かった以上私がここに滞在する意味などない。さっさと向き合って、新しい住処を探さなくては。


(……お父様やお母様は、どうなさっているのかしら)


 ふとそんなことを思った。ギャンブルに溺れたお父様は私が帰ってきていないことに気が付いていないかもしれない。お母様は老人の元に嫁がされるのが嫌で逃げたと受け取られたかもしれない。……構わない。だって、私の家族はお義姉様だけ。……そう、思いたかった。


 枕もとのランプをつけて、私は近くの棚からペンと便箋を取り出す。そこに今までの感謝の気持ちを綴っていく。


 お世話になりました。私はもう大丈夫です。本当に、ありがとうございました。


 そんな当たり障りのない言葉を綴った後、私はこのお屋敷を出るための準備を始める。あまり夜中に出歩くのは褒められたことじゃないから、日が出始めた早朝に出て行きましょう。


(……お義姉様)


 感謝の気持ちを綴っている最中、ふと涙が零れてしまった。お義姉様は、まだこんな私を愛してくれている。いっぱい傷つけて、たくさんめちゃくちゃにしてしまった私のことを。……本当ならば、私は愛される資格なんてないのに。


(……お義姉様。どうか、お幸せに)


 きっとリスター伯爵ならばお義姉様を幸せにしてくれる。それはすぐにわかるし、お二人が相思相愛なのもよく分かっている。お義姉様は使用人たちにも慕われていて、きっと立派なリスター伯爵夫人になられるだろう。……そこに、醜聞まみれの異母妹はいらない。


「……うぅ」


 本当はお顔を見てさようならを言いたい。だけど……言えない。そう思いながら、私は感謝の言葉を綴ったお手紙をテーブルの上に置く。そのあと、持ってきたものを鞄に詰め込んで、私はお部屋のカーテンを開けた。


 きれいな夜空には星がきらめいている。……どうか、人生をやり直せるのならば。


「……私はもう、お義姉様を傷つけないし迷惑なんてかけないわ」


 今更遅いなんて言われてもいい。私は、私は――お義姉様のことが大好きだから。だから、もうこれ以上迷惑をかけないように。身勝手だって非難されたっていい。ただ、お義姉様の幸せを守るために。私は――


 ――リスター伯爵家のお屋敷を、出て行く。

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