03-43 模擬戦 ――二突、そして
二つの光があった。
そのうちの一つの光は、俺の祐成とぶつかり合い弾けると、細い光の線を残しながら引き戻され、また太い光となって俺へと向かってくる。
速かった。
弥生が改めて構え直した成頼は、ぶれたかと思った時には、俺の喉元に到達していた。
直前ですぐさま祐成で切り払うが、切り払ったはずのその光は、寸分違わず俺の喉元にまた現れていた。
この光の正体は、弥生の持つ神具『成頼』だ。
祐成は切り払いに使ったため間に合わない。後ろに下がっても更に追い付いてくるだろう。
上半身をひねって避けるが、その動作で精一杯。
喉のすぐ横を光が通りすぎる。
流石に三度目の突きはなく、槍のような黒い棍はそこで動きを止める。
もう一突き来ていたなら確実に食らっていた。
達人は三つの突きを同時に撃つことができたと聞いたことがある。
三段突きだっただろうか。
絵空事のように思える話だが、もし、それが受けた相手から見た印象、見えた光景だったのであれば。
まさに今、弥生が行ったことがそれなのではないだろうかと思えた。
それが、先程まで起きていた弥生との、たったの二突きの邂逅。
弥生は突いた動作で腕が伸びきっていた。
今なら反撃に対応できないだろう。
すぐに祐成で成頼を下から上へと払うと、簡単に成頼が宙を舞った。
いや、舞ったのではない。舞わせたのか。
弥生の手は、成頼を掴んでいない。
俺に二突き目を避けられた瞬間には成頼を手から離そうとしていたようだ。
だが、これで弥生は力の恩恵も武器も手離した。
弥生は、力を開放している俺の動きにはついてこれない。
弥生を落とすなら今。
追撃のため一歩前へ踏み出そうと脚に力を込めた時、左右から光が走った。
達也と白萩が左右から同時に俺を狙って人具を振り下ろした光だ。
今度はバックステップでかわす。
前へ行こうとしていた体を無理やり後方への動きに変えたため、体への負担が半端ない。
二人の人具がぶつかり合い、大きな破砕音が響く。
達也の持つ人具が割れた音だ。
流石に、最新モデルの流星刀との、力一杯のぶつかり合いには耐えられなかったようだ。
やはり、橋本さんと同じ人具の近衛は強度としては弱い。
それに、槍を剣のように振り下ろした時点で悪手だ。
これで、一人が武器を手離し、一人が武器を失った。
後は――
達也の人具に目を奪われたその一瞬。
視界の隅で何かが動いた。白萩が動いたようだ。
白萩を見ようと視界を動かした先には、流星刀の鞘があった。
その鞘が、俺の視界を遮る。
判断に迷う。
当たっても今の俺には痛くはないだろう。
だが、その先に、白萩の体の一部が見える。
両手で柄を握り締め、上段に構えて振りかぶる白萩が。
鞘をとっさに左手で掴み引き下ろしながら、祐成を斬り上げる。
流星刀の光を帯びた銀色の刀身と、白い純白の祐成の刀身が光を弾けさせる。
その音に、耳が痛い。
少しでも迷うと確実に一撃をもらってしまう。
迷うな。
そう自分に言い聞かせたとき。
背後に気配を感じた。
誰だ?
弥生か?
いや、弥生はまだ白萩の後方にいる。
であれば――達也――?
祐成に一気に力を送ると、祐成が答えて刀身を膨らませる。
膨らんだ力に流星刀の刃が弾き返され、白萩が衝撃で後退。
くるりと回り、がむしゃらに左手の流星刀の柄を振る。
かつんっと、感触があった。
達也が左手に持った、半分に折れて鋭いぎざぎざの凶器と化した近衛の先端と鞘がぶつかり押し負ける。
お互いの左手の勝負は達也の勝ち。
鞘が左手からすぽっと抜けて後ろへ飛んでいき、じぃーんと痺れが左手を襲う。
押し負けてよろめく俺に達也が右腕を振りかぶっている。
何を?
お前にはもう武器がないはずだ。
刹那にそう思いながら、俺は振りかぶられている達也の右腕に掴まれている物を見た。
弥生の成頼だ。
中途半端であるが、力の恩恵を纏った成頼が振り落とされる速度は早く。
咄嗟に達也に飛び込み顎を殴り付け、腹部を蹴る。蹴った反動で後方への推力を得、振り下ろされた成頼を避ける。
達也は反対側へ、「ぐぇっ」と奇妙な声を上げて飛んでいった。
だが、これは失策だ。
俺は、俺の背後で待ち構える《《もう一人》》を忘れていた。
「――もらったよ。凪君」
俺の背後から声。
弥生だ。
しかし、弥生は何も武器を持っていないはずだ。
体を必死に宙で反転させながら、背後の弥生をみた。
弥生が、流星刀の鞘で力を発動し、今にも突きを放とうとしている。
あー、やっちまった。
二筋の光が、俺を襲った。
「――しっかし、人具にこんな力があったなんて知らなかったな」
「これ……一人いるだけで戦況が一気に変わりますね……」
達也と白萩の開放はあっという間だった。
二人はすんなりと俺の話を聞き、弥生達と同じように力を受け取った。
溢れ出した力をさっそく試したい二人は、すぐさま俺と戦いたいと言い出し、先に戦うことを譲らない弥生を含めて三人で戦いを挑んできて、今に至る。
力の使い方に慣れた一人と、慣れていない二人の戦いとはいえ、複数人の相手は流石に辛い。特に、弥生の一撃一撃が、冴え渡っていた。
俺はあの後、二突きのうち一突をかわせなかった。
力を纏っているからそこまで痛いわけではないが、当たった感触は今も胸に残り、ずきずきと痛みをもたらしている。
流石にその後は鞘で戦えるわけがないので当たった手数的には俺の方が多いが。
それでも、弥生に負けないように修練する必要があると痛感した。
そうしなければ、これからのギアとの戦いで後れをとってしまう。
弥生や達也達には、修練場でこのように教えてくれたことに感謝しなければ。
だが、今は。
「あ~……もう俺は動かねぇぞ」
どれだけ動かされたのか分からない程の模擬戦を弥生達と繰り返し、修練場に《《三人》》揃って仰向けに倒れこみ、明日は筋肉痛だと思いながら模擬戦終了の言葉を告げた。
ちなみに、達也は途中からとにかくナオの希望通り瞬殺に瞬殺を重ねて瞬殺して、少し前に観客席という名の女性陣のビニールシートでナオに口撃という名の瞬殺されて半泣き状態となっている。
近衛壊されてたら一気に弱くなったし。
また今度人具を作ってやろう。
……あの背後からの一撃には肝を冷やした。
気づかれないうちに後ろから近づき、遠慮なく突き出すあの一撃は、まるで暗殺者のようだった。
間違いなく、俺は達也に渡す人具を間違えてしまっていたようだ。
普通、槍を剣のように振り回すか?
そして、弥生や達也に注意を向けさせないよう立ち回った白萩。
あれがなければ、二人の動きも生きてこなかっただろう。
「いい汗かいたわ……」
「疲れたねぇ……」
「……お前等……これから火之村さんに一閃もらってこい」
「「嫌だよ」」
そんな他愛ない会話を座り込んでしていると、俺の体に太陽の光を遮る影が入り込んだ。
「凪様、お疲れ様ですの」
「あ~、ありがとう……」
朱が、俺のために飲み物を持参して傍に立っていた。
弥生と白荻も、巫女から飲み物を貰って労ってもらっていた。
朱からもらった飲み物を口に含むと、どれだけ渇いていたのか、体に染み込むような感覚が通りすぎ、一気に飲み干してしまう。
「うあぁ……もうしばらくは複数人相手とかやらねぇからなぁ~……」
「「いや、三体一でまたやろう」」
「お前等馬鹿か? なあ、馬鹿なのか?」
そんな和やかに休みながら、久しぶりにスッキリした心地よい汗に、二人に負けないように今度も参加しようと思う。
だが、なんと言おうと、複数人との戦いは御免被る。
それだけは固く誓おう。
そんな話で、みんなで笑い合っているときだった。
ぱち、ぱち、ぱち、と酷く単調に、人を馬鹿にしているかのような適当な拍手の音が修練場に響き渡った。
「いい勝負だったね。田舎者」
貸し切りにしていたはずの修練場に、明らかに「いい勝負」とも思っていないにやにやと笑う、『アレ』が登場した。
どうやって入ってきたのか、貴美子おばさんが怒りの形相で修練場の管理者に連絡をし始める。
「疲れているところ悪いけど、俺と華名の為に、決闘しないか?」
そんな中、貴美子おばさんの怒りの形相を無視して、アレは俺に向かってそう告げてきた。
え? 俺今すげぇ動いて疲れてるんだけど。
「勝ったほうが華名の守護者になるっていうのはどうだろうか」
疲れたところを見計らって俺と戦おうとしているようにも思えて――いや、実際それを見越してなのだろう。どれだけ卑怯なやつなのかと思いつつ、何言ってるのかさっぱり分からない馬鹿さに、ほとほと呆れてしまうばかりだった。
……ああ、やはり。
人は愚かだ。滅ぼすべき対象だ。
我等によって、淘汰されるべき存在だ。
だが、忌々しい観測所の力は我等の邪魔をする。
昔も今も……刻の護り手は邪魔をする。
ああ、あの時にあの女を滅ぼせなかったのが悔やまれる。
あの男がいぬ間。
子供を食い散らかし。
動揺したあの時に。
血を啜り、殺せなかったことが――
……まあいい。
あの女の場所はわかる。
あの女のいる観測所を――
観測所を……
観測……
……ん? 俺は、今……何を……?




