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刻旅行 ~世界を越えて家族探し 戦ったり、恋したり、露出に目覚めてみたり?~  作者: ともはっと
三章:変わる世界

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03-09 その名は『うた』


「勝手に改築しないように」


 疲れた俺の、やっと絞り出せた言葉に聞く耳は持たれず。


「凪様凪様。人具ってどのように作られるのですか?」

「朱さん、見たことないんですか?」

「いえ、昔見たような気もするのですが、あまり覚えてなくて……」

「お兄たん。騙されないで。朱お姉ちゃんは、お兄たんのお部屋に入るためにそう言ってるだけ」

「お姉ちゃんのこと悪く言うといけませんのよ。ナオちゃん」


 朱の言葉にむすっとしたナオが、俺に抱き着いてくる。

 いや、お前等。そんなことより俺の言葉に少しは耳を貸せと。


「まあ……もう今更……諦めた」

「凪君、大変だね……」


 弥生の苦笑いに、俺ももう覚悟を決めた。

 改築とかどうなるのかわからんけども、やりたいようにやってくれ……。


 それに、人具の作り方なんてやり取りも、何度続くのかと思わなくもない。

 だが、今日は丁度いい。


「そうだ。爺さん」

「そう言われると、あなたのお爺さんに聞こえます、な」

「ああ、悪い。名前知らないから」

「私は、火之村賢伸ひのむらまさのぶと申します。お見知りおきを」


 忘れるわけない。あんたみたいな重要人物みたいな人。名前も凄い。

 由来が知りたいわ。村燃えてんじゃん。

 あ、俺も水の原っぱか。


「言いにくいことだったらいいんだけど。火之村さんは、昔人具に関係してたとか?」

「……なぜ、そう思われますかな?」

「いや、前に俺の部屋で見た時に、妙に人具に対して思うことがあったみたいだから」

「爺は守護人だったのよ。当時は養成校なんてなかったから純粋な、ね」


 それはギアと戦い続けて生き残った、と言うことになる。

 なるほど。で、今はもう引退して執事をやっていると。そりゃ人具に思い入れあるか。


「当時も枯渇してましたからな。愛用の人具が壊れ、引退しました。……今は人具は持っておりませんので、ただの執事です、な」

「いや、ただの、なわけないだろ……」


 当時のことはよくわからないが、人具が枯渇するほどの戦いだったと思えば、かなりの激戦だろうし、鎖姫のようなギアとも戦っているのだろう。

 そんな中、生き残ったということが、有能さを感じさせる。


「で、それがどうかしましたかな?」

「ああ、人具作るところみたいって朱が言ったから、ついでに作ろうかなって」


 その言葉に、爺の顔つきが変わった。


「言っとくけど、俺があんたに合うと思う人具を作るだけだからな。要望は受け付けないんだからな」

「凪君……なんかツンっぽい」


 そんなことをいってトリップしていく巫女。

「戻ってきてくださいな」とゆさゆさと朱が揺すると、たゆんをぷるんさせながら「ふふふ……」と妙な笑いを残して戻ってくる。


 なぜか皆で二階へ上がり、俺の部屋へと。

 流石に七人も入ると俺の部屋は狭い。


 とりあえず、自分の机に材料である木製の筒を持ってきて椅子に座る。

 巫女と朱は俺のベッドに腰掛け、それをナオがじーっと、見比べるように見つめている。


 ああ。なんか、ナオの思っていることがなんとなく分かった。


「ナオちゃん。私の膝に来る?」

「……ふっ」


 ぺたぺたと自分の胸を触ると、動きを止める。葛藤があったようだが、諦めたのか、二人の間にダイブ。


 朱も巻き込むダイブに短い二人の悲鳴と、たゆんと言う名のぷるんが上や下へと揺れてはぽよんして俺のベッドの上で転げて笑いあう。

 ……俺は、その光景を忘れないだろう。


 そんな光景を必死に頭の中に焼き付けながら、どんな人具を作るべきか考えてみる。


 何となくイメージができているものはあるが、上手くいくかは自信がない。


 興味津々な橋本さんが、電話がかかってきていなくなる。

 相変わらず毎回いい所で電話かかってくるなと思いつつ、


「言っとくけど、出来上がるときは全然面白みないからな?」


 前置きだけは念のためして、作業を開始。


 今回は火之村さんをイメージして作ってみようと思った。

 これが成功すれば、バリエーションも増えるだろう。


 木製の筒に神鉱の欠片を詰めると、一旦そこで蓋をする。

 その蓋は穴が空いており、その穴を塞ぐように細長い棒を取り付ける。

 更にそれを木製の筒で覆い隠す。


 ピアスに軽くデコピン。

 ピアスがきぃんっと、まるで周りさえも澄み渡らせるような音をたて、青く光を帯びる。


 その光は俺の体を包み、右手へと集約。

 右手に溜まった力は、右手を通して筒へと流れ込んでいく。


 ぼこっと、筒が音をたてて赤熱し、その赤熱は被せた筒にも浸透。

 筒内で神鉱が流れて固まっていく。

 満遍なく木材が赤くなると、白い光を放って辺りを白く塗り潰す。


 光が収まると、俺の手には、ほんの少しだけ反りがある、白い細長い棒があった。

 神鉱を詰め込んでいた筒と、細い棒を包んだ筒の接着面に、切れ目のような黒い線が見え、そこから二つに別れるようだ。

 筒をゆっくり引き抜くように動かすと、かちゃっと小さく音をたて、先程まで筒に隠されていた細い棒だったはずのものがすらっと姿を現す。


 そこから現れたのは、銀色に鈍く光る『刀身』。

 引き抜くために掴んだ筒を『柄』、刀身に被せていた筒を『鞘』と見ると、立派な日本刀が出来上がったようにも見える。


 もっとも、こんな簡単にできたら刀鍛冶も苦労はしないし、名刀や銘刀はいくらでも出来てしまう。

 見た目は刀だが、違う物ではあろうと自分に言い聞かす。


 振って感触を確かめたいが、部屋が狭くて無理だ。

 ただ、今まで作った人具より刀身があるためかずっしりと重さを感じる。

 このずっしり感が、何かしらを斬る時の切れ味に作用するのだろうか。


 ああ、そう言えば。以前巫女が言っていた。


『錬金術師みたいにないところから作るのが凪君だよねっ! さっ! 作ろっ!』


 あの時は、んなもん出来たら苦労しないと思っていたが……


 その言葉を言っていないほうの巫女を見ると、口を開けたまま驚いていた。


 あの時はすまん。

 ……出来ちゃった。


 何となく巫女に謝りつつ、出来上がりの品が人具として機能しているか確認するため力を流してみる。

 刀身の周りを薄緑の光が包む。

 祐成とは違うが、この光が対ギア決戦兵器としての力を持つことが分かる。


「な、凪くん……あなた、な、なにを?」


 俺の背後で、作成行程を見ていた貴美子おばさんが口を開いた。


「じ、人具を作っただけですが」

「そ、そんな簡単に出来るものじゃないでしょう?」

「いえ、それが出来まして……」


 俺の中では人具は簡単に作れるものだが、そこじゃない。


 おかしい。

 ここまで変化する人具は初めてだ。


 何が違う?

 いつもと何も変わらないはずだ。

 違うことと言えば――


「う……宇多……」

「うた?」


 火之村さんが、俺の持つ刀型の人具を見つめている。わなわなと震えながらそう呟くのが聞こえた。


「わ、私が以前使っていた愛用の人具……宇多国光うたくにみつに、似てます……な」

「……なら、この人具は、『宇多うた』だ」


 刀身に触れて名付けを行う。

 指先に力を添えて名前を宣言すると、指先の力はすっと溶け込むように刀身に入っていく。

 名付けを行われた人具が再度の光を放つ。

 赤い光が幾つもの筋となって辺りを照らす。まるで血液が噴出しているかのようで不気味だった。


 どくんっと、血液が波打つかのような音をたてて光が収まる。

 名付けの終了だ。


 やはりおかしい。

 以前、『成政』と『近衛』を名付けした時には、このような変化はなかった。

 あの時は、ほんの一瞬二人の人具が淡く光って名付けが終了した。

 俺の、人具を作る力が上がったとした思えない。


「大事にしてくださいよ」

「いいの、ですか、な?」

「いや、あんたに作るって言ったでしょ」


 周りで、いまだフリーズしている皆に、俺もフリーズしたくて堪らないことを悟られないよう冷静を装い、名付けた人具の刀身を鞘に閉まって火之村さんに渡す。


 火之村さんはそれを、震える手で掴むと、じっと見つめている。


 不意に、かちゃっと、部屋の扉が開いて橋本さんが現れた。


「橋本さん。遅かったわね。楽しみにしていた人具はもう作り終わったわよ」


 人具作成結果に、唖然としていた貴美子おばさんが、咳払いしてから橋本さんに声をかける。


「え。もう、終わったのかい?……いや、それよりも」


 残念そうな表情はすぐに消え、橋本さんが俺を見つめて申し訳なさそうな顔をする。


「水原君……すまないが、協力してくれないかな」


 橋本さんの辛そうな顔に厄介ごとが訪れたと、そう感じた。



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