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刻旅行 ~世界を越えて家族探し 戦ったり、恋したり、露出に目覚めてみたり?~  作者: ともはっと
ターニングポイント

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??-?? 『碧』と言う名の少女


「好きですっ! 付き合ってくださいっ!」



 ああ、ついに言っちゃった。

 ボクはそう、目の前で自分の想いを告げた友達を見てそう思った。


 目の前には、告白されたボク達と同じ年の、別の中学校に通う男の子。


 頂点がぽんぽんの重さで折れ曲がった、サンタさんがよく被っているような帽子を被る、左目の下に泣きボクロのある男の子と……

 その後ろには、ポニーテールがよく似合う、まるで漫画やアニメに出てきそうな美少女と、その隣で、呆れたように告白された男の子を見ている、茶髪で左耳にピアスをつけた男の子がいる。


 そう言えば、この告白された男の子はなんと言う名前だっただろうか。


 確か……御月……神夜、さん?


 あまり覚えてないけど多分そんな感じ?

 後、あのショートスタイルの茶髪の子は、目付きも少し悪いし危険そうだから近づかないでおこう。

 顔はいいんだけど、目付きがねぇー。


 そんなことよりも気になるのは、後ろの美女から立ち上るどす黒い気配ではあるけれど。

 あれ? なんだろう。黒い気配がどんどん人みたく見えてきた。

 額から角も生えて――あれは、鬼?

 ……鬼!?


 え、なにあれ! 何か出てるよあの子からっ!


 周りに意見を求めたくても今は友達の重要な場面。

 うずうずするけど場の空気は読めるつもり。


「巫女……変なオーラ出てるぞ」

「……出ないと、思う?」

「いいえ。出ると思います。はい。すいません」


 そんな二人の会話に耳を傾けてみると、妙にお互いが分かりあった会話をしていた。


 恋人さんかな?

 ……うん? あれ、なんか違う気がする。

 あの鬼が、なぜか隣の茶髪の男の子を睨み付けている。

 光る両の瞳が普通に怖い。

 睨まれて冷や汗をかくように苦笑いしている茶髪の男の子が少し可愛く見えた。


「えーっと、その。……ごめんな」


 少しだけ嬉しそうに。でも友達が望む答えではない言葉が、目の前の男の子から聞こえた。


「俺、巫女しか見えないから。だから、ごめん」


 巫女……そう言えば先ほど茶髪の男の子が、隣の美少女をそう、呼んでいた気がする。


 なんだ。やっぱり。そうだよね。

 じゃあ、ボクの友達は、彼女さんの前で告白したってこと? だからあの妙な気配だしてたのね。納得。


 そう告げた、帽子の男の子は、すぐに背中を向けて巫女と呼ばれた美少女の元に向かう。

 美少女は、少しだけ申し訳なさそうにしながら、それでもほっとした表情を浮かべて自分の恋人を迎え、これでもかと思えるほどの笑顔を向ける。


 ボクは友達に、なんて声をかければいいのか迷っていた。

 恋人の前で告白して、玉砕して……多分惨めな気分に陥っている友達に、なんて声をかければいいかなんて。わからないよ。


 ボクだったら、走って逃げ出したい気分。



 そんな涙を流す友達の前に、すっと、ハンカチが差し出された。

 差し出したのは、先の茶髪の男の子。


「ほら、泣いてないで。あの二人見てみなよ」


 そう言い、茶髪の男の子は、失恋したばかりの友達に、見るのも辛いだろう恋人二人を見るように告げる。

 ボクは、そんな酷い仕打ちをするこの男の子をはたこうかと思った。


「ほら、よく似合ってるだろ? あいつら、いつもあんな風に幸せそうなんだ」


 はたこうと一歩前に出たボクは、すぐに、勢いを失った。


 だって、あの二人を見るこの茶髪の男の子が、羨ましそうに、でも、幸せそうに二人を見ていたから。


「君も、いつかあんな風に、仲良くなれる人が現れると思うよ」


 そう、少しだけ。辛そうに友達に告げる茶髪の男の子が、友達を慰めているようだった。


「ごめんな。こんな酷なこと言って。今回は駄目だったかもしれないけど。次はきっと。頑張れっ」


 そう言って、不器用に言葉を選びつつ励まそうとしている男の子の、満面な他意のない笑顔がボクの目に入った。


 ちょっと意地悪そうな無邪気な笑顔。


「おーい。なぎー」


 帽子の男の子が誰かの名前を呼んだ。

 その声に反応して、茶髪の男の子が「今行く」と返して、ボク達の前から去っていく。


 なぎ……君。そうか、あの人、なぎって名前なんだ。


 そのなぎ君の笑顔が、私の頭にこびりついて離れてくれない。


 また、見てみたい。

 また、会いたい。

 会ったらどうする?

 会ってどう話す?


 そんなことを考える自分に気づいた時。

 友達の失恋現場でたまたま出会った、少し危なそうな雰囲気のある男の子に。

 その人の笑顔だけで。


 私は、恋をしてしまっていたことに気づいた。


 でも、何となく分かる。


 あの人は多分、巫女と言うあの少女のことが好きなんだ。


 好きだと気づいてすぐに失恋した気分になる。

 あんな美少女に勝てる要素がボクにはない。

 見た目もまだまだ子供なボクには、あんな綺麗なお姉さんになれっこない。


 でも、また会いたい。

 そう思った気持ちは恋をしていると思わせるには十分。

 また次会えることを願いつつ――



 そんな一年後に。

 まさか、なぎ君――凪君が、『お兄ちゃん』になるなんて。



「ああ、よろしくな。碧」

「あ……」


 久しぶりに見た、見たかったあの笑顔は今も変わらず。

 今も変わらず、ボクの心を掴まえる。


 やっぱり。そんなの、酷い。

 そう、思った。





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