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刻旅行 ~世界を越えて家族探し 戦ったり、恋したり、露出に目覚めてみたり?~  作者: ともはっと
一年後

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02-23 お嬢様達の謎


 ピアスに溜まった力を解放。

 同時に祐成も起動。

 二つの力が循環し、相互作用で俺の体は白く光る。

 直ぐ様跳躍。

 ぶるんっとナニかが揺れるが気にしない。


 よし、巫女には見られていない。

 ……いや、むしろ見せるべきか? よし、ちょっとだけ。ちらっと見えるくらいには。

 そうさ、向こうも期待してい――

 ――じゃない。いやいや、これはかなり変態的考えだ。

 見られる喜びなんぞ覚えてはいない。

 絶対だ!


 空高く跳躍した俺は、近くの家の屋根へと降り立つ。

 しかし、降り立ったからといって油断はしない。

 誰がみているかなんて分かったもんじゃない。

 一戸建てが立ち並ぶ住宅街だからこそ、屋根の上に降り立てばすぐに気づかれるだろう。なぜなら、その屋根上が丁度隣の二階の窓と同じ高さだったりするわけだ。


 窓の向こうで、少しだけお上品なお姉さんが欠伸しながら無防備にカーテンを開けているのが見えた。


 流石に知らない人に見せる勇気はない。

 いや、むしろ知らない人だから見せるべき? 違う。いい加減この癖になりそうな最高の、誰もが望む解放感から離れろ!


 だからこそ、屋根上に着地と同時に、間髪いれずに猛然と屋根の上を走り抜ける。

 軽く風が吹いて、驚いたお姉さんが視界の隅に見えたが、それはあくまで《《風に驚いた》》のであって、《《目の前に裸の若者がいた》》ことに気づいて、ではないと願いたい。


 もし、後者であれば、多分、俺はもう戻れないかもしれない。

 何から?とは言わないが。


 周りは解放感溢れる外の町並み。

 町に戻ってきた人達が道路を歩いていたり、洗濯物を干していたり、と、変わらない日常を送っている姿が視界の端に映る。

 やはり、町に人がいることはいいことだ。


 とはいえ、まだそのままな場所もある。

 住宅街の背景のビル街は壊れたままで、電車等の移動手段も安全が確立されないため復興は後回しとなっている。


 復活すれば、大規模な物資の行き来もスムーズになるので復興もはかどるであろう。

 特に、今回の拡神柱の再稼働実験は、俺の周りの不穏な気配を高めることにはなるだろうが、町の復興、住む人達の役に立つのは間違いない。


 むしろ、今は、俺の服の復興を優先しなければいけないが。


 俺が通りすぎる度に驚く人達に、もしかしたら俺が見えているのではないかと心配になる。


 せめて、目に止まらない速さ、ではなく、どこぞの目に映らない速さ、ができたらいいのに。

 祐成と俺が出せる最大の力で走っているのだ。それくらいできそうだ。

 今も、半年前の襲撃時に隣町まで走った時より早いのは間違いない。


 ……よし。まだそう思えるなら俺は正常だ。


 こんな行動を起こさなければいけなかったのは、俺の不注意から裸になってしまったせいだが、


「お兄たん。ナオ、疲れたから離すね」

「ばっ! ちょっ! おっ! まっ!」


 そんな、ナオの一言が発端でもある。


 巫女の目を隠していたナオの手が、ゆっくりと離れていく。

 ほんの少しだけ目があったナオが、にやっと、笑顔だったのは覚えている。

 あの表情はよく見たことがある。

 神夜や父さんが俺を弄る時に見せる表情だ。


 そんなとこ、似なくてよしっ!


 町長さんと弥生が走り出し、巫女の視線を遮ろうと俺と巫女の間に入る。


 俺は、「きゃっ」っと声を出す準備と、両腕で自分を抱き締めるように体を抱きながらしゃがみこむ動作の準備。


 俺以外の動作はかなり早い。

 二人とも人具を稼働させているから、俺がしゃがみこむ前にはすでに俺の前で仁王立ちしていた。

 二人の背中が「ここは任せろ。お前は十分にこの往来での解放感を楽しめ」と、背中で語っているように見えた。


 なんて頼もしい。


 二人とも、さっきは使えないとか考えちゃってごめん。

 やっぱり持つべきものは友情で繋がった男仲間だ。


 正しくは、「とっととそのぶら下がったナニを隠せこの変態が」だったんだろう。


「何があ――」


 二人は懸命に俺を隠してくれた。

 はずだった。

 なのに、俺は巫女と目があった。


 二人が大きく股を開いているからだ。

 しゃがみこんだ俺の縮こまりが、ちょうど町長さんの開いた股の間からよく見えるくらい。


 え。

 町長さん……その大股開き、なんの意味あるの?


「き――」


 俺と、巫女の口角がひくっと上がった。


「「きゃぁぁぁーーっ!」」


 巫女と、俺の叫びが木霊する。



 すぐに服とともに地面に落ちた祐成を拾うと、ピアスと祐成を一気に解放。


 辺りに白い光が弾け、収まる頃には遥かに上空に。


 ……そして、今に至る。


 ナオのやつめ。

 どれだけ俺を楽しませ――弄れば気が済むのかと、自分の部屋で洋服を着ながら思う。


「お兄たーん」


 着替え終わって一階へと降りると、外からナオの声が聞こえた。


 その声に、「ありがとう、ナオ」となぜかお礼の言葉が出てきて、俺は何を求めているのかと、自分に不安になりながら玄関を開ける。

 塀の向こうできょとんとした三人と、ナオがいた。


 何をしているんだろう。

 とっとと入ればいいのに。


 そう言えば、このよく分からない世界で、家に人を迎えるのは初めてだ。

 家に入っていいのか躊躇しているのかもしれない。

 こんなご時世だから、そう言うセキュリティ面がしっかりしているのだろうか。

 いや、普通は躊躇するのが当たり前か。


 だからと言って、妹が案内しているのに入らず待つとか、律儀すぎないか?と思いながらも、木製の両開きの門を開け塀の外へと向かう。


「うおっ!?」


 そんな驚きの声を出す町長さん。


 なんだ? 俺が服を着ているのが珍しいのか?

 町長さんの前では初おはだけのはずだ。むしろ、はだけた所はナオさえ見たことないはずだ。


「みんな、おうち、見えないって」

「……はあ?」


 ナオの一言に、俺は自分の背後の我が家を見てみる。

 そんな大きくはないが、芝生有り小さな庭付きの、周りを目隠しフェンスで囲んだ一戸建てがそこにはある。

 子供二人が住むには大きい家ではあるが、流石にこの家が小さくて見えないとか、虐めじみたことを言っているわけではなさそうだ。


「何もないところからぬっと出てきたから。僕らにはなにも見えないよ?」

「凪君。そこに本当に家はあるのかしら」

「ナオとお兄たんには見えてるのに、お姉ちゃん達には見えないんだって。ねねっ! 二人にしか見えないなら、ここはもう、お兄たんとナオの愛の巣だねっ!」


 ……ナオの発言はこの際置いといて。

 むしろどこで覚えた? まさか、町長さんの息子か? だとしたら処するしかない。


 ナオがどこでそんな言葉を覚えたのかは最重要な話ではあるが、「家が見えない」ことに、違和感を感じた。


「……じゃあ、あの二人はどうやって入った?」


 俺の脳裏に浮かぶは、一年前のお嬢様と爺。

 あの二人は、「巧妙に、隠された」と言っていた。


 つまりは、こう言うことだったのか?

 何かしらの力が作用していて、見えなくなっている?

 俺とナオにしか見えないと言うなら、この家に住む人にしか見えない家?


「三原君。そこに家があるとしても見えないと入りようがないのだが」

「じゃあ町おじさん(まちおじさん)はそこにいていいのっ。ナオは疲れたから入るのっ! 巫女姉ちゃん、行くよっ」

「え、ええっ? ちょっと、ナオちゃん、私もーっ!?」


 俺が出てくるまでに家が見える見えないでひと悶着でもあったのか、ナオが巫女の手を引いて家の門を潜ろうとする。


 見えないからか、巫女が酷く焦っている。

 確かにあのまま行けば片門に顔面をぶつけてしまうだろう。

 いや、その前に、たゆん、か?


「あ、あれっ!?」


 急に声を出し、ぶつかりそうになっていた巫女が、門に触れた。


「見える……家が見える……え、なんで?」


 ぺたぺたと、門に何度も触れながら、その先にある家を見て驚いている。


 なるほど。

 条件がわかった。

 何で見えないのかは分からないが、この家は、入ったことのある人と一緒に入ろうとすればその人も認識できる仕組み、なのか。


 なんと言うセキュリティ……

 ……あれ?

 だとしたら……鎖姫と出会った時、この家に戻っていれば、戦わなくても……。


「……うむ。いい実験になった」

「私を実験台にしないでーっ」

「早く入るのっ!」

「ま、待ってっ、ナオちゃーん!」


 何をそんなに急いでいるのかと思うくらい、ナオが巫女を引っ張っていく。

 ナオも、初めて友達を家に招くのだから嬉しいのかもしれない。


「で、だ。三原君」


 町長さんが咳払いしながら声をかけてきた。

 心なしか、少しだけ恥ずかしそうではある。


「凪君……どうしようか?」

「なにが?」

「なにがって……ナオちゃんと巫女が家に入ったわけだけど、まだ僕らには見えないんだよね……」

「うん? そんなの一緒にはい――っ!?」


 なるほど。納得した。

 二人が先に行ってしまったということは、俺が二人を連れて入らなければ行けないということか。

 なにが悲しくて、おっさんと同級生と手を繋いで家に入らなければならないのかと、今更ながらに気づいた。


「あ、あー……うん? とりあえず、手、繋ぐ、か?」

「う、うん……よろしく……」


 女性に見間違うほどの可愛げがある弥生が、恥ずかしそうに遠慮がちに手を差し出してくると、少しだけ意識してしまった。


 そう言えば、さっきはこいつの前で全裸を披露したな。

 そう思うと、なんだろう……妙に弥生が可愛く見えてきた。

 おい、待て。頬を赤らめるな。なんか変な感じがする。

 あれ? 何だか、こいつの手を握っていると、妙に胸がどきどきする。


 まさか、これが……恋?


「なわけあるかぁーっ!」

「いや、さっきからその叫びはなにさ!?」

「三原君。私は最近、息子とも手を繋ぐこともめっきり少なくなってだね」


 恥ずかしそうに頭をかきながら手を差し出してくる町長さんが弥生に続く。


 弥生ならまだしも。おっさんが恥ずかしそうに手を出してきても、何も思わないから安心しろ。おっさん。


 そんな解放ぜんらから。

 なぜか新しい扉を開きそうになった。


 ただ、自分の家に招待して、拡神柱の起動の祝いをしたいだけなのに……



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