??-?? 私の弍つ名は『鎖姫』
私がいた世界は地下にある世界でした。
私が産まれ、御主人様と出会ったあの世界のように、秩序が崩壊した世界です。
違うのは、あちらは世界も崩壊しているといった違いでしょうか。
どこへ行っても御主人様は見つからず。
御主人様から聞いていた世界とは全く違う世界に、私は困惑しておりました。
御主人様や碧様がこんな世界で生きていたわけがない。
生きていたならあんなに純粋なわけもなく。
ナオ様がこんなところで育ってしまったら、あんなに綺麗な瞳を持ち得るわけがありません。
そう思うと、御主人様のように。御主人様がいない世界に来てしまったのではないかと不安になりました。
不安になった私は。
暴れに暴れ。
群がる無法者を潰しに潰し。
気づけば。
命を狙われる存在にまでなっておりました。
賞金首と言うそうで。
元いた世界でも、人類から恐れられる存在として稼働しておりましたが、こちらでもそのように恐れられる存在となってしまったようです。
後で知りましたが、この世界では人を殺すのは禁忌だそうで、法の元裁かれると聞きました。
とはいえ、私のいた世界ではそれは日常茶飯事。
気兼ねなく倒していたらそうなってしまっただけのこと。
それに、私は元ギアですからね。
人なんて、私の御主人様に連なる方々以外はいらないのです。ふふっ。
賞金首となった私は、それからも禁忌を犯し続けます。
問答無用に襲いかかってきて、強くなっていくお相手。
次第に、この世界にはどれだけの強者がいるのかと興味が出てきました。
そして、一人の女性と出会います。
その女性と出会い、この世界を知りました。
ここは、裏世界。
地上から遥か地下に潜り、地上世界――表の世界から独立した世界でした。
「あなたみたいに力ある人が野放しになっていると危険なのよ」
「……あなたも大概ですよ?」
「私はこの世界に属しているからいいの」
私を裏世界の秩序のために倒しに来たという女性から聞いた、この世界の仕組み。
表世界を人知れず守り、無法者が蔓延る裏世界の秩序を守る存在。
私はその女性から色々聞きました。
この上には、地上があって。
そこはこことは違って秩序がしっかり成り立つ平和な世界と聞きました。
よかった。
御主人様はこんな世界に住んでいたわけではない。
あちらが、御主人様が住んでいた世界で、御主人様がいるはずの世界。
私の目標は、その地上――表世界に出て御主人様を探すことに変わりました。
でも、私には身分を証明するものがない。
だからこの世界からは出られないそうです。
……なくても、気が向いたら出口から出ていきますけどね。
「身分なら、あなたくらいの強さなら、さらっと手に入るわよ」
私は女性に興味が湧き、共に行動しました。
身分がなければ、御主人様とも共にいることができないとも気づきました。
……御主人様は、この辺り、こちらの世界に私を連れてきた時にどのようにしようとしていたのでしょうか。
……考えてなさそうですね。
なんとお可愛い御方。
「はるー」
「お前は……飯くらい作っ――……ん? それ、誰だ」
「拾ってきた」
「猫じゃないんだぞ……」
その女性の恋人とも知り合い。
二人から薦められるままに。
彼等の所属する、世界の秩序を守り、抑止力である『高天原』という組織が発行する許可証を得ました。
これで、私の身分を証明するものができました。
次は外。
御主人様が待つ、御主人様が生きてきた世界へ――
と。思ったのですが。
私は些かやり過ぎたようで。
自身の賞金と同じ金額を返済しないと表世界にはいけないことになってしまいました。
いえ。私は別に。
手に入れるものも手に入れたので。
無視して表世界に行ってもよかったのですが、知り合ったお二人に迷惑かけっぱなしと言うのもなんだろうと思い、従うことにしました。
それに。
借金のように、払わなければならないお金がある女性なんて御主人様に嫌われそうです。
ランクというものを上げ、賞金首としての金額を返済するために、裏世界で任務をする日々。
気づけば、私のランクは上位ランカーまでに至り。
「く……鎖姫……ぎゃぁっ!」
戦い方から、懐かしの『鎖姫』という弍つ名を頂き。
返済もあっさり済ませ、やっと、外へと行けることになりました。
……ただ、気になることが。
任務で裏世界の殺し屋や組織を壊滅させたり、賞金首を倒したり……。
身分を得る前と、全然変わらなかったのですが……。
……まあ、いいでしょう。
外……。
ついに私も地上へと。
「はーい。この任務をついでに受けて地上でよろしくねー」
「……あなたは……まあ、いいでしょう……」
「姫、諦めろ。こいつはこんな感じだ……まあ、俺も傍にいるから安心しろ」
私と同じ身分証を手に入れる為に、試験を受ける少年を、傍で見守る役目を受けまして。
「御案内させて頂くのは私、水原姫でございます。そして私達を無事にお届けする運転手さんは、遠名雪さんです」
身分証に名字が必要だったので、御主人様の名字を頂きました。
どうやらこの世界では……
け、け、けけ結婚した場合に、どちらかの名字を名乗ることが多いそうで……。
「私の名前は、水原姫。B級殺人許可証所持者、弐つ名は『鎖姫』。また、会いましょう」
嬉しくて、いろんな方へ名乗りました。
水原姫……。
ふふっ。まるで夫婦のよう――
い、いえ! まるで、ではなく、夫婦ですっ! そうです! 私は御主人様の奥様になることができるのですっ!
碧様やナオ様より先に、私が御主人様の妻にっ!
抜け駆けなんて、しませんよ?
……しませんよ?
…………しませ……
しますよ? ギアでないのですから、気兼ねなく遠慮なく。
なんてことを思いながら、晴れて地上へと。
地上は裏世界とはまったく違った世界でした。
私のいた世界がもし壊れていなければ――いえ、私達ギアが破壊の限りを尽くしたのですが――このような世界が広がっていたのかと思うと、ギアという存在がとても歪に思えます。
大きなビルが建ち並び、所狭しと人が歩く。
あまりの人口密度に目の前がくらくらします。
あちらでは滅多に見られなかった自動車も、こちらでは見飽きるほどに綺麗な車道を走り、線路しか見たことがなかった電車というものも見ました。
乗ってみると意外と広く。
ただ、人がどこからそんなに、と言うほどに乗り出すので、あまり好きにはなれませんでした。
じろじろと、乗客は人のことを見てきますし。
メイド服がそんなに珍しいのでしょうか。
あちらより発展はしておりませんが、平和そうないい世界ですね。
御主人様と幸せに住めそうな、いい世界です。
……隣に御主人様がいたらもっとよかったのに。
さあ。御主人様を探しましょう。
次でこの閑話は終わりです。
この姫様の続きの話は新作で公開予定です。
ぜひそちらの作品が公開されたらお願いいたします。




