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刻旅行 ~世界を越えて家族探し 戦ったり、恋したり、露出に目覚めてみたり?~  作者: ともはっと
二章:始まる世界

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02-04 少女と裸の俺


「……ふぃ~……」

 とりあえず、危機は去った。

 何の危機かと言えば、俺の精神的な危機、ではあるのだが。


 俺は《《クローゼット》》からひょっこりと顔を現す。念のため辺りを伺い、誰もいないことをチェック。


 クローゼットを開けられたときは流石に焦った。

 やはり気づかれないものなんだな。


 俺の部屋のクローゼットは二重構造だ。

 よく見ないととわからないが、クローゼットの外側と中を見比べると人が数人入れる程度の空間が中にはある。

 普段は開けると洋服などがかかっているからより一層奥行きがわからなくなっているが、今回は箱にたんまり入った鉱石が壁の役割を果たしてくれていた。しかも箱が黒いためダークブラウンの壁の奥行きをカモフラージュしてくれたようだ。

 その先に薄いベニア板で仕切られた引き戸の隠し部屋があるとは、パッと見ただけではわからないであろう。

 クローゼットにそこまで奥行きがあるわけでもないことも気づかれなかった要因でもあると思う。


 とはいえ、小さい頃は秘密基地のように見えて、よくかくれんぼで隠れたりそこに色々宝物を置いたりしていたものだが、大きくなってから入ってみると、かなり狭かった。そこに二人も入ればぎっちぎちだ。


「さて、と……」


 すでに誰もいないことを確認し、目の前の箱を脇にどかした後――石が大量に入っているので重いかと思ったが意外と軽く、もし軽かったら隠れる場所はなかったので見事に変質者とお嬢様が遭遇することになっていたわけだが――隠れていた裸の少女を抱き抱える。

 力が全く入っていない人を一人持ち上げるのは流石に労力を要すると思って気合いを入れて持ち上げてみたら意外と軽く。

 女性はこんなにも軽いのかと触れる柔肌を意識しないようにベッドへと運び、先程と同じようにベッドへと戻し寝かせ、ベッドに腰掛けてため息を一つ。


 色々あったのに少女は目を覚まさない。

 どれだけ寝相がいいのかと。


 ……そう言えば、直も何があっても起きない子だったな。

 

 寝相は悪くないらしいが、むにゃむにゃと何かを喋るかのように口を動かしているが、目を覚ましそうで覚まさない。


 直もどこに行ったのだろうか……。


 直なんて傍に誰かがいないとだめなのに。まだ何もわからない赤ん坊なのだから。直の傍には誰かいるんだろうか。


 父さん、義母さん、碧……直。

 皆、本当にどこに行ってしまったんだろう。

 少なからず、この家にはいないということはわかった。

 だが、そうだとしたら、どこにいるのか。

 それに、この家は何でこんなにも使われていなかったのか。


 あの二人の話を聞く限りでは父さんは行方を晦ましているようだ。

 だが、そうなると、どこかで生きているということになる。

 なぜあの二人が探しているのか、そこにシングとギアという言葉に関係があるのかもしれない。

 勝てないという単語から、ギアというのは恐らく敵なのであろう。それに対するはシング。といったところだろうか。


 そのシングを父さんしか作れないというのが気になった。

 作れないから枯渇状態。

 量産はされているが、量産されたものを量産しているから出来が悪い。

 となると、量産品を作れる人はいるということだろうか。


 父さんだけが新作を作れる。


 そうなると父さんはかなり重要なポジションにいたのではないだろうか。

 そうなったからこそ父さんは行方を晦ましている?

 ギアという敵に対抗するソレを作らなくなってまで?

 作れない、または作らない理由がある?


 先ほどの話からするとこの家のどこをみてもあるこの石が材料だとしたら、これだけの材料がそのまま放置されたままになっているということから行方を晦ました、というのは合っているのかもしれない。急いで俺の部屋にも置いたとしたら、何かに狙われてこの家を放棄するしかなかった、と考えるのが妥当かもしれない。

 そしてそれを誰にも伝えず、行方を晦まされたので、お嬢様達は困って行方を捜している。

 そう考えるとしっくりくる。

 そうなると、あのお嬢様は父さんと何かしらの関係があるのではないだろうか。


 次に会ったときはその辺りを聞いてみるといいかもしれない。


 もしそうだとしたら、この少女も父さんの行方に関係しているのかもしれない。 

 ある程度考えがまとまったところで、改めて少女を見てみる。



 そこに、目をぱちっと開けた少女が俺のことをじっと見つめていた。



「……」

「……」


 どうしたらいいのだろうか。

 いつから起きていたのだろうか。

 目の前の少女が上半身をむくっと起こして俺のほうをぼーと見つめていた。

 少女の顔をじっと見てみる。

 ショートの自分の髪が頬についていることが不快だったのか、頬に触れてその髪を払いのける。払いのけたその髪はまた所定の位置に戻ってきて、少女はその髪を不思議そうに触れている。「なんだこれ?」といった表情を浮かべて何度も触れている。

 食べてみようとしているのか、口にその髪を入れようと必死になっている。

 その時に自分の指にも違和感を覚えたのか、今度はその指を口に含んでいる。


「えっと……その……」

「?」

 俺のその言葉にやっと俺を思い出したのか、じっと見つめてくる。

 その瞳はきらきらと光り輝いている。

 きらきらと、生まれてきてみたものすべてが新鮮、世界は不思議に満ちている! と言ってるような穢れのない瞳。

 映るものすべて興味がある。瞳で語っているようだった。


 あれ……?


「あー」

 少女が声を上げた。それと同時に、両腕を俺に向けて伸ばしてくる。

 その腕は俺に抱きしめるよう求めてるかのように伸びてきていた。

 表情もとても嬉しそうな表情でにこにこと擬音が出ていそうなほどの笑顔を浮かべている。


 あれ?


「あー」

 再度の声。今度は少し不満があるような声だった。


「ひぐっ」

 俺がすぐに何かしらのアクションをしなかったことに悲しくなったのか、急に目に涙を溜め始める。

 直後、一気にそれは開放された。


「ぅあぁああああーーーーっ!」


 響き渡る泣き声。その甲高い泣き声は、まるで癇癪を起こした赤子のような泣き声で、至近距離の俺の耳を突きぬけ、頭痛がしそうなほど脳内を揺さぶる。


「ま、待て! 落ち着け!」

 何をしたらいいのか分からなかったが、とにかくさっき感じた印象通り、抱きしめたほうがいいのだろうと思い、思わず抱きしめる。


「あー」

 抱きしめるとすぐに泣き止み、少女の顔に笑顔が戻る。


 よかった。

 これで間違ってたら裸と裸だ。それはもう、事件だな。


「きゃっきゃっ」

 とても嬉しそうに俺に抱きつく少女。頬ずりもセットだ。

 何でかは知らないが懐かれている。そう思った。


「……う~ん?」


 俺は健全な男だ。それは間違いない。


 義理の妹とはいえ、碧に好きという感情を覚えていたし、昔の話でもあるが、巫女のことも好きだったから女嫌いでもない。もしかするとかなりお盛んな男なのかもしれない。


 そこはある程度断言できる。お盛んなほぼ高校生で女性にかなり興味のある正常な男子中学生でさくらんぼだ。


 なのに、この裸の少女に抱きつかれても、何も感じない。


 普通、可愛い少女に抱きつかれれば、俺の、あの、その・・・・・・ナニ?も主張をするはずだ。

 碧に抱きつかれた時は服を着ていたが今は肌と肌を密着させている状態になっている。碧のときでさえ、あの、その……アレ、だったわけだから更に密着感がすごい今なわけで。

 なのに、それさえもない。


「えーっと・・・・・・」

 何度このフレーズを使えばいいのかと思う。


 それだけ、どういう状況なのかがわからなすぎて、混乱する。

 ただ、この少女に対する俺の感情は、そういった欲は皆無で、慈しむ心が強い。

 この感情は、どちらかというと――

 

 ――血を分けた家族に対する、愛情?


 いや、そんなはずはない。

 父さんと義母さんの間にもう一人子供がいたとかは考えられないし、俺はこの少女のことを知らない。

 別の子というわけでもないと思うし、こういうことに関して隠し事はしないタイプだ。父さんはなんだかんだで責任感ある人だ。


 いや、むしろ俺が知らないだけかもしれないがそうであって欲しい。あの年になってまだ色んな関係を持っているとかはちょっと息子としてうらやm――やめてほしい。


 それに、俺とほぼ変わらない年齢の子がいたとなると大問題だ。いたと仮定しても、ではなぜあのタイミングで結婚するとか言ったのかも分からないし、義母さんの連れ子だったとしても、碧だけを紹介して一緒に住まないのもおかしい。


 義母さんと碧の家庭についてあまり聞いていなかったが、実は離婚していて、父方に連れて行かれた子供というのであれば分かる気もするが、そうだとしたら俺に懐く理由もない。


 それにその子がいたとしても、俺と血を分けているわけでもない。

 であれば、正直に言うと、おっ立つはずだ。

 俺が、血を分けた兄弟にもそういう感情が出る男なら話は別だが。――あれ? もしかしたらそういう感情って起きるのか?




 こほん。

 だとすると、二つの可能性に行き着く。

 だが、尚更不可解だ。

 一つは、俺のこの脳内で先ほど起きた、いきなり押し寄せてきた知らない記憶。

 そこには俺が知らない『母親』がいた。

 その記憶に関係して、実は俺には妹がいた可能性。


 だが、あの記憶の中には妹はいなかったと思う。あの時しか記憶が流れてきていないから確証が持てないが、おそらくはいないと思うし、いたとしてもこの少女が俺のベッドで寝ていることも不可解だ。


 それに、この子はどこか碧とも似ている。

 だとすると、父さんとあの母親の血であれば碧に似ているというのもおかしい。

 そしてもう一つの可能性。


「お前。直、か?」

「あー」


 俺のその言葉にまだしっかり発声できない声で肯定のような言葉を上げて、少女はきらきらと目を輝かせながら、笑っていた。




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