05-20 戦後の残件
父さんの居場所も俺が元いた世界なら、俺のこれからの目的とも一致する。
俺は、皆が知りたがっていたことを、あの時話していた。
それは、俺の敵であるノアの居場所だ。
「ノアは、俺がいた世界にいる」
あいつが姫を乗っ取った方法は、ギア間ネットワークの穴から入り込んだのは分かっている。だけど、どうやってこの世界に介入したのかは分からない。
ギアを依り代としてこの世界にこれるのだとしたら、いくらでもこちらに来て、世界を陥れることができるだろう。
姫のような終末世代という絶機スペックのギアはいないと言うことだが、それに近しい――例えばポンコツくらいのスペックなら探せばいると思う。
あれだけの力を出せるわけではないと思うが、脅威には変わらない。
だから俺は。
元の世界へ戻る方法を知らなければならない。
知って、ノアを、倒さなければならない。
「じゃあ……ノアを倒すためには……」
「旅行する必要があるわね」
「……どうやって、戻るのかな?」
「それは俺も探していたんだけど……」
……あれ?
俺、あっちの世界に戻る方法を探していた……よな……?
いや、そうだよ。
家族がいなかったから家族優先で探してたけど、元々は俺はあの世界が自分の世界だと思っていたわけで。ここがどこかわかってからは家族探しの後に戻る方法を探そうとしてたはず?
でも、ナオは傍にいたけども、家族を探そうとして探せないまま。
碧を観測所から救い出すために観測所へ行く方法を探し始め。
碧が朱に生まれ変わっていることを知ってから、一気に色々ありすぎて、全く探せてもいなかっただけで……。
義母さんは貴美子おばさんとして傍にいたし、父さんとか何も情報なかったし。
実の母さんは観測所にいること知ってたし、常に一緒にナギっていう家族がいたこと知って、この世界が自分が本当に住んでいた世界だったって知って、あまり気にしなくなってきていたことは確かだ。
……ん? 考えてみたら……俺、家族も探せてないし、元の世界へ戻る方法も探せていなくないか?
まあ、意気込みだけはあったと思おう。
決して日々を生きるために必死だったなんてことはないはずだ。
……いや。必死だったけどね。
だが、その元の世界へ戻る方法も、もう少しで分かる。
その前に父さんの行方も知れて、目的地にいるということも分かったから、一石二鳥な気分だ。
義母さんも生きている。
貴美子おばさんが常に近くにいたので、義母さんが生きているっていうのも不思議な気分だ。
……一回くらい、貴美子おばさんのこと、義母さんって呼んでもいいかなって。
最近はちょっと思っている。
とは言え、近いうちにそう呼ぶことにはなるだろうとは思うけど。
だけど、その前に。
あっちの世界には行ってしまったら……
俺は、この、生まれた世界に戻ってこれるのだろうか。
俺は、どちらの世界にいたら――いや……いるべきなのだろうか。
東の凪様像が貫かれてなぜか俺にもダメージが入ってから数日。
俺は護国学園の理事長室に貴美子おばさんと母さんに呼び出されて座っていた。
「――確かに、色々確執が出てそうだなぁ」
呼び出されたのは俺だけでなく、お馴染みのメンバー全員が呼び出されていた。
中にはギア勢を取り纏めるポンコツと姫も呼び出されており、いくら理事長室が広いとは言え、狭く感じるほどの人の多さだった。
「でも、ああしなかったら新人類を退けられなかったわけだし、南の守備隊は自業自得だと思うよ?」
「あっちで何があったのかは報告書を呼んで理解はしたけど。だからと言って、今更不公平と言われても、って話だねぇ」
あの戦いは、守備隊だけでなく町民も頑張ってくれていたのは間違いなく、町が一丸となったからこそ退けられた、ということは全体が理解しており、その結果、町全体の意識と結束力が高くなっていた。
町は今、新人類を退けたことにお祭り騒ぎが収まらず、どこへ言っても賑わいを見せていることからそれはわかり、今まで以上に活気に満ち溢れている。
だが、中には、あの戦いに不満を漏らす輩もいた。
今はその不満を漏らす町民達――南で戦って逃げ出した守護者候補生達についての話し合いが行われていた。
守護者候補生は、あの戦いの後、二種類に別れてしまった。
東の戦いに勇気をもって参戦し、守護の光の力を得、ギアと対等に戦える術を持った候補生と、あの時新人類から逃げて、戦いが終わる最後まで避難していた、力を持たない候補生。
あの時、俺が『刻の護り手』としての力を使って力を与えてしまったからだ。
圧倒的な劣等感。周りからの非難。
それ等が集まり、生き残った二百人もの、南を守っていた守護者候補生達は、後がなくなっていた。
「あの力はどうすれば手に入るのかっ!」
「なぜ私達にはその力の使い方を教えてくれない!」
なぜ東にいた者は力を得たのか。
自分達も欲しい。
あればあの場所を逃げなかった。
短時間で得た力なら自分達もすぐに使えるはず。
誰かから得た力なら、その人物を。
一部の力持つものの特権制度でも作る気か。
公開しろ。
等と、必死に自分達も戦ったのだから力を寄越せと言い出す始末に、誰もが憤った。
東で。あの場で。新人類の大軍を見ても怖じけず、町を守ろうと支援していた町民や、戦った守備隊等が怒るのは当たり前だ。
どちらかが大変だった、ではない。
どちらも、死人が出ているのだ。
そんな優劣をつけるなら、間違いなく南より東のほうが大変だったはずだ。
圧倒的な武力ではなく、圧倒的な量で襲われていたのだから。
「じゃあ、あの時前線で戦っていた全員に、守護の光の力を渡すとかしたらいいのか?」
「それしたら別のとこからふこうへーいって話でるでしょーねー」
南で戦い、命惜しさに逃げてしまった候補生全てがそのように言っているわけではない。
町を守りたいと思い、その結果逃げたことを後悔し、自身を戒め気持ちを新たに頑張ろうとしている候補生がほとんどなのだ。
だが――
「今日は、また面倒なのに捕まったわよ」
「あんなのこの町から追い出せばー?」
「出来たら苦労しないわよ……ここ以外ないんだから」
財閥に近しければ近しいほどに。
まるで一昔前の貴族のように権力を振りかざしていた一部が、自分達にも力を寄越せと言ってきていた。
自身が逃げてしまったことを省みず、力だけを欲しがる輩に、財閥のトップである三人はどうすべきか迷ってしまったようだ。
「ごめん。俺があそこで力を使わなければ……」
「んー。変わらなかったと思うよ凪君。だって、僕らはあの時、大勢の前で使っちゃってたし」
先に力を得ていた弥生達がいる。
その力は何なのかと、結局は同じように問われていたのだと考えると、確かに変わらなかったかもしれない。
彼等の神具や人具もまた特殊なのだ。
それこそ贔屓をしているようにも見えても仕方がない。
「彼等の態度が問題なのよ」
「今はそんな言い争いをしている場合でもないのですが、な」
「事実があるからこそ、厄介ですよね」
火之村さんの言う通り、今はそのような話で揉めている場合ではない。
いつ新人類が攻めてくるか分からないのだ。
それに、俺もこの世界から離れる必要もある。
戦力を整える時間も少なく、だからと言って彼等のような者に力を渡せば別の問題もでる。
俺としては、この話を聞くまで分け隔てなく力を開放することは賛成だったが、問題を残して向こうに行きたくないと言う気持ちが芽生え出していた。
だが、あの力――守護の光は、誰もが使えるわけではない。
刻族の血が混じっていないと、使えない。
色々分かってきた今にして考えれば、町民全体に力を開放したとしても、混じっていない人もいるはずで。
そこにまた劣等感が現れ、優劣が現れてしまう可能性も考えなければならなかった。
「毒を抜く、いい機会かもしれませんね」
今まで生還していた眼鏡ちゃんが意見を述べた。
長く続いていればそれだけ腐敗していく。
人類が少ないなかで、苦渋の決断になるのかもしれないが、それでもやらざるを得ない。
そんな決断に至るまでに、彼等の考えが変わってくれればいいのに、と。
ただ、そう願うだけしか出来なかった。
「あ。それはそれとして」
少し沈んだ空気に、母さんの声がよく響く。
何となく。
話の腰を折る天才が腰を折ろうとしている気がしたのは、俺だけじゃなかったと思う。




