05-07 双子、所により 1
「おにーさん。水原凪さんだよね?」
「おにーさん。刻の護り手だよね?」
二人のエコーのように見分けがつかない同じ声が、別々の質問を発してどっちに返せばいいのか困惑する。
だが、どちらも俺のことで。
返す言葉は一緒なのだが、答えづらい。
俺の無言を肯定と受け取ったのか、双子はぺこりと同じ動作でおじぎをし、改めて俺に笑顔を向ける。
「ねぇねぇおにーさん。この音出るの、なぁに?」
「今はそれ聞くのは後にし――」
「チャイムだ。細かく言うと、玄関チャイムとか、呼び鈴とか言うらしい」
「――答えるんだ……」
少年が驚いたような表情を浮かべた。
チャイムを知らないというのも不思議な話だが、言われてみれば必ずあるものでもないとも思う。
とはいえ、服装といい、不思議な感じがした。
「家に入る前に、在宅しているか確認するものだ。連打するもんじゃない」
ぴんぽーん
言った矢先に少女がチャイムを押し、家の中に音が響く。
「あははっ! これ、楽しいね!」
「へー……家のなかにすごい響くんだね」
玄関先で家の中に響いた音に、少年も興味をもち、少女を止めることさえ忘れている。二人とも好奇心旺盛のようだ。
だがしかし。
「押すの止めて、中入れ……」
うるさくてしょうがない。
中には皆がいるのだから、不必要に押されれば余計に怖がらせるだけだ。
「はいはーい。おっじゃましまーす」
「すいません。お邪魔します」
両極端な二人を俺は迎え入れ振り向くと、唖然とした男三人と目が合う。
「……普通に、いれるんだな」
「普通に、いれるのです、な」
「普通にいれるんだね」
だって。
可愛いじゃん。
悪さしそうに見えないし。
――がしゃん。
「「あ」」
靴入れの棚にあった花瓶の割れた音がしたが……まあ、悪さと言うほどでもないし、気にしないでおこう。
「……とりあえず。飯にしようか」
玄関先から見た外は、間もなく夕陽が沈みそうな時間だった。
・・
・・・
・・・・
リビングに二人を連れて行くと、皆が驚いた。やはり、知人ではないようだ。
「「人がいっぱい」」
二人のリビングに入った最初の感想はやはり同じ言葉で。
絶対双子だな、これ。
そう思いながら、驚く皆にテキパキと指示を出す。
客人である皆には悪いが、デザートだけはあるが、すぐにご飯を作れる訳でもないので、姫と巫女にお湯を沸かしてもらい、巷で人気の、華名家監修『かなっぷぬーどる』を人数分用意してもらう。
かなり旨いらしいとナオから前に聞いていたので、非常食として買いだめしていたのが役に立った。
醤油味と塩味、味噌味、とんこつ味と凪味があるらしいが、凪味ってなんなのかとてつもなく興味がある。これが一番売れているらしい。
「御主人様エキスが入っております」
姫よ……その御主人様エキスってなんなんだ。
俺の何かしらなら食べちゃダメだろう。入っているわけがない。
「たんまりと、入っております」
姫の真剣な顔と、かなっぷぬーどるの凪味を胸元に抱き寄せる姫が、疑う俺をじっと見て無言になる。
……嘘、だよな?
嘘だと、言ってくれ……っ!
つーか、エキスって、なんなんだよっ!
白萩と弥生、火之村さんには、ソファーをずらして話しやすい位置に移動してもらい、碧とナオには隣の家に飲み物を強奪しにいってもらう。
二人にしてみたら自分の家なんだから、勝手知ったるということで強奪とも言えないか。
「お兄ちゃん。持ってきたよ」
「お兄たん、これ飲むの」
天使が飲めと言うなら勿論飲むさ。
……腿の天然水?
待て。なんだこれ。
こんなもん作った責任者でてこい。
貴美子おばさんと眼鏡ちゃんを働かせるわけにはいかないので、一緒のテーブルに座っている、きょろきょろと辺りを見渡し続ける物珍しそうな双子を監視してもらう。
「水原君。僕らはなにしたらいいかな?」
「あの双子さん、みてますか?」
橋本親子にはしてもらうことがなく、手持ち無沙汰のようだ。
とりあえず、自分の家に電話してもらって遅くなることを伝えてもらおう。
「何で私達だけそんなのなのかなっ!?」
「皆さん動いてるのになんで!?」
親子揃ってうっさい。
俺はそろそろ橋本さんの奥さんに怒られるんじゃないかと怖いんだ。とっとと電話してこい!
皆の準備が終わり、一段落した所で姫と火之村さんが皆のかなっぷぬーどるにお湯を入れていく。
双子には席を移動してもらい、ソファーに座ってもらった。
「ふかふかー」とソファーの感触を楽しみゴロゴロする同じ見た目の二人に、妙にほっこりする。
「「では、改めまして」」
しばらくして、はっと我にかえった双子は、ソファーから立ち上がり、自身の服を軽く叩いてぴしっと直立した。
「イルですっ!」
びしっと、挙手するかのように手を上げて楽しそうな笑顔を浮かべる少女が、自分のことを『イル』と名乗った。
「スイです」
イルとは違い、しっかりと丁寧におじぎする少年――スイ。
両極端な二人が何者なのか。俺には興味があった。
その口から何が語られるのか。
見ていると妙に落ち着く二人の正体を、俺は知りたかった。
何となく、俺だけに聞こえる声や神鉱がついた杖に、うっすらと正体には感づいてはいるが……確かめたかった。
恐らく、この双子は――
まだ警戒心のある皆は、静かに双子を見ている。
達也が唯一、「イル、ちゃん……」と呟くくらいだが……
おい、達也……お前、まさか……
イルが、挙手した手を、ゆっくりと、自分の頭に。
両手を頭に添え、まるで、ウサギの耳のように、ぴょんぴょんと動かし出した。
なんだ? 何をする気だ?
「二人揃ってー……」
「ふた……え?」
……
…………
………………
「「なにもないんかいっ!」」
全員が一斉に立ち上がり、一斉に双子に総ツッコミだ。
おい、俺達……仲良すぎだろ。
「なによー、少しはノッてくれてもいいでしょ、スイのケチ」
「いや、イル。いつもそれ言うけど、僕に何を求めてるのさ」
イルに呆れるスイ。
何となく、二人の関係が分かってきた。
ボケと、ツッコミだ。
「ま、まあ……イルちゃんとスイ君かな? 君達はどこから来たのかな? お父さんやお母さんが心配して――」
「「あ。そういうのいいんで」」
ハモる。
驚くほどのその双子の息ぴったりの橋本さんへの拒絶に、あのいつも冷静な火之村さんが、「な、なんというセンス……」と絶句する。
「水原君! この子達なんなのかな!? 私に妙に冷たいんだけど!」
いや別に。まだ全然話してないから橋本さんだけにって分からないだろ。
だが、ナイスだ。橋本さんの扱いがよく分かっている。
火之村さんじゃないが、確かに逸材かもしれない。
周りも、「橋本さんだから……」と妙な納得をしている。
橋本さんはもう泣きそうだが、いい年のおっさんの涙なんて見たくもないからそこまでにしておこう。
一応、この町の偉い人だし。
「そーもーそぉもー。おじさんはあたし達のお父さんだからそーいうの傷つくよー」
イルがふんぬっと鼻息荒く言った言葉に、辺りが一瞬で静まり返った。
一斉にカウンターキッチンに座る橋本さんを皆が見る。
「橋本さん……あなた、まさか……」
「やだ……橋本さん……」
「え? え? お父さん? 私が? なんの話? 私の子供は達也だけだよ?」
「パパ……」
「え? え? 達也? 疑ってる?」
達也が携帯を取り出す。
それは今は家庭不和という凶器となりうる最強の武器だ。
「ま、待った! 達也待った!」
「誰との子ですか、な?」
「誰も何も私は妻一筋だよ!?」
「いや……橋本さんってモテるからな」
達也の指がすらすらと動き出すのを必死に止める橋本さんを見ながら、白萩がにやにやして見ている。
「白萩君! 君に言われたくないよっ!? 君、元アイドルだよね!」
「流星さんも……そうなるんですか……?」
白萩のにやつく笑い顔が、眼鏡ちゃんの悲しげな顔をした質問に凍りつく。
「いやいやいや、ならんけど! なんでそうなる!?」
「それ言ったら、凪君なんて真っ最中だよ」
おい、弥生。白萩の助け船だったのかもしれないけど……自分だけ安全圏みたいな顔してなぜ俺を巻き込んだ!?
「お兄ちゃんはいいの。巫女ちゃん見てればいいだけだから」
「お兄たんは大丈夫なの。巫女お姉ちゃんだけ危険なの」
「御主人様は七巳様にだけ気を付けておけば大丈夫ですので」
「なんで私!?」
なんだこれ……混沌だな。
なんで俺とたゆんは警戒されなきゃならんのだろうか。
なんだか、橋本さんの浮気問題が色んなところに飛び火して、収拾がつかなくなってきた。
かなっぷぬーどるは皆の前で。
ゆっくりと、温くなっている。




