??-?? 白き世界は侵略され
私は負けた。
でも、負けは負けでも、負けたことについては意外と何も思わない。
だって、やっとここから開放されるんだから。
むしろ、何でここまで護り続けないといけなかったのかなって。
護ることを諦めた今は、本当にそう思うわ。
何もないこの世界を、最後の刻族として護り続けて、下界は何年経っただろうか。
愛する旦那と別れこの世界のために残り、この世界に何年も一人で生き続けた。
私のために泣いてくれた旦那は、最後まで私のことを離そうとしなかったけど。
でもそれよりも。
旦那なんか、ほんっとーぅにどうでもよくて。
愛してやまない幼い息子と離れるほうが私は辛かった。
今でも思い出す。
息子のために家族全員で文字通り全てを捨てて旅行し降り立って。
ギアなんていない、人類が死に脅かされにくい平和な世界。
ギアのいるあの世界より命が軽くない世界。
息子が楽しく生きていけるであろう世界。
こんな世界があったのか。
私達の生きてきた世界はなんだったのか。
あの世界に生きてきたことに後悔はないけど、それでもこんなにも優しい世界があったのなら、最初からこの世界に降り立っていればよかった。
誰かこの世界に降り立った同種族がいたのなら、なぜこの世界を教えてくれなかったのか。
そんなことをほんの少しだけ思ったこともあった。
でも。
あの世界に私は降り立ったから。
愛する旦那ができて、それなんかより比べ物にならないほどに愛する息子ができたから後悔しているわけじゃない。
誰も知り合いのいない世界でまた親友と出会い仲良くなって。
この世界でも金持ちな令嬢なんかやってる親友と一緒に仕事して。
また知り合いができていって。
短い間だったけど、楽しい世界が私を待っていた。
でも、私は戻らなければいけなかった。
最後の刻族として。
あの世界――刻族が護らなくてはならない観測所に。
遥か昔に先祖が約束した、あの世界を護るという役目の為に。
全ての生きとし生ける者の生と死を廻し続けるあの世界。
魂が帰るあの場所。
なぜこの世界を護るという選択肢をしたのだろうか。
この世界は、私なんていなくても勝手に回り、循環する。
世界の歯車の中心地なんて、結局そんなもの。
だから、いっそのこと、元の世界に戻って、また暮らせばよかった。
でも、この世界はそれを許してくれなかった。
でも、だからこそ。
私は成長した自分の息子を見ることができた。
色んな意味で成長した……ふふっ。本当にいろんなとこ成長しちゃって。好きな子なんて出来ちゃって。
私の前で感情ごちゃ混ぜで熱いぶちゅーなんてしちゃってまー。
お母さん、感動したわよ。
……あーあ。
そうなるまで、ずっと見たかったなぁ。
……あ。でも。
そうなるとしたら、私と《《貴美子》》の戦いが勃発するのね。
あんな浮気者、貴美子にくれてやって息子だけを愛でたいけども。
それでもあの子を授けてくれた愛しい旦那様だもの。
……半殺しで許してあげなきゃ。
「おばさん、何とか助かったね」
「おば……」
「駄目だよ。こういうときはそう思ってもおねえさんって言うんだよ?」
「え、そうなの?」
「女性の気持ちがわかってないねー」
そんな私を助けてくれた同種族の末裔である二人の子供から見たら、確かに私はおばさんだ。
でも、これでも……まだ若いのよ!?
「あの人達、残念だったね」
「あー……いいのよ」
この白いどこまでも広がる世界で、私達は逃げきることができた。
細かく言うと、観測所と呼ばれる刻族のいた場所から逃げて、この世界の浅い場所まで逃げ切ることができた。
あの《《絶機》》には、どう足掻いてもあの観測所は扱えない。
いえ、扱えるものなんて本当になにもないの。
刻族であっても、この世界には何も出来ない。
刻族も、ほんの少しだけ弄ることが出来るだけで、本来の役目を忘れてこの世界の管理者なんて言ってた種族なんだから。
だから、護ることなんかせず。
息子の愛しい女の子を守るためだけの時間稼ぎをしただけ。
でも流石に、あの子がここの力を使って私を守るために二人の別世界の息子を呼び出したのには驚いたし、息子たちを守るために戦ったのは本当。
……結局、守られて亡くしちゃったけど。
二人の犠牲があったからこそ私は逃げられたということもある。
本当の自分の息子ではないとはいっても、やっぱり成長した自分の息子が八つ裂きにされて消えていく姿を見るのは辛かったわ……。
でも、そのおかげで。
あの二人がいたおかげで私達は生き残り、私の愛する息子も、あの二人があの子より先に道を進んでくれていたから。そこから知り得た情報を元に、二人とは違う道を歩み始めることができた。
感謝してもしきれない。
ありがとう。私の息子の為に頑張ってくれて。助けてくれて。
あの二人も、できれば一緒に生きて欲しかったけど、それは観測所が許してくれない。許してくれたとしても、二人があの世界に降り立ったら、観測所はその知識を元に世界を修正しようとしたと思う。
もっと早くに《《統合》》しようとしたと思う。
世界の統合がされたらきっと……
人類は、滅ぶ。
でも、世界は。統合を選ぶのだろう。
その統合が人類に……この世界の特異点な私の愛する息子にどう影響を与えるのか。
きっと。
いい方向に動いてくれるはず。
だって、あの子の傍には、あんなに可愛い女の子達がいるんだもの。
「あーあ……噛まないとやっぱりやってられないわ」
「噛むの?」
「え、噛むって……」
《《双子》》が意味もわからずきょとんとしてる。
ああ、この子達も可愛いけど、噛まないわよ。
「絶対に……ぜぇーったいに、がじがじするんだからっ!」
なんて。
負けたけど。
私の息子達に守られて生き残ったんだから。
私は本来の息子の為に生き抜くわよ。
もうすぐ会えるよ。
なっくん。




