04-30 インターバル
凪様像の落下により、敵である新人類達の姿はみえず。南の外周辺は、先程まで戦いがあったとは思えないほどの静けさだった。
「ご、御主人様……ポンコツは、やりまし……た」
いまだ空から粉塵が仄かに舞い散る南の拡神柱の前に、どこかから弱々しい声が俺の耳に聞こえた。
ポンコツだ。
辺りを見渡すと、座り込んで髪もぼさぼさになっている弥生と火之村さんが見えた。
碧とナオを下ろし、二人が無事だったことに、改めてほっと一息つく。
遠目に見て、二人で新人類達に向かっていっていたのが見えたから、ポンコツに頼んで牽制してもらうために先行してもらったことが正解だったと感じる。
二人が無事だったことは嬉しいが、二人の背後には、ここで戦って命を落としたと思われる人の死体があり、外壁近くの南の町が崩壊している様が見えた。
……町にとんでもない被害を与えた。
まさか、あそこで死んでる皆は、さっきので死んだわけじゃないよな……
不安と、起こした惨状に気持ち悪くなってきたが、気にしていたらこの先やっていけないと考えを切り替える。
これから、更に死者も増える可能性が高いし、自分だってその仲間入りするかもしれない。
だけど、もし……あの中にさっきの衝撃で死んだ人がいたとしたら俺は……
気持ちを切り替えようとするが思うように切り替わってくれない。
被害にあってないことを祈りつつ町から目を反らし、改めてポンコツを探した。
ポンコツは、少し離れた所にいた。
いたのだが……
そのポンコツの姿は、頭部と足のみだった。
「お、お前っ!?」
胸部が吹き飛んで頭部と脚部のみが残ったその姿に、焦りを感じて走り近づく。
まさか、ブレーキもなく落ちるだけだった俺達のために先行して、あんなどでかいレーザーを撃って助けてくれたポンコツが、こんな状況になってしまっているなんて思ってもみなかった。
……考えが浅かった。
あの質量が、勢いをつけて落ちたら辺りがどうなるかとか、それを破砕するほどの威力を放つほうがどうなるかなんて考えてもいなかった。
ギアだから堅いだろう。
ギアだから壊れないだろう。
そんなわけがない。
ただ、自分達が助かるために、ギアと言う存在を犠牲にしただけだ。
ギアだって、ただプログラムを書き換えられて、その通りに動いて人類を滅ぼそうとしているだけだ。
姫や仲間となったポンコツ含むギア達と接して――プログラムをナオに書き換えられて正常に戻って、俺のことを慕って戦ってくれているギア達を思い出す。
他とは変わったギア。
人のように喜び笑い、楽しみ悲しむことが、ギアもできる。
それを知ってしまったから、ほんの少しだけの交流だけだったが、情も沸いてしまっていた。
その姿を見て――
――ギアだって生きている。
ギアだって、思考して生きているから、死なないで欲しいと、そう、思っていたのに。
俺のために死ぬなって、言ったばかりなのに。
俺は、何を……もっとやりようがあったのに、なんで、こんなことに……。
悔やむ気持ちが溢れだし、ポンコツの間近まで近づいて、死なないでくれと、状況を再確認する。
ポンコツは、埋まっていた。
「御主人様の愛でリミッターを外したら、踏ん張りが効かず。埋もれてしまいました」
巨大なレーザーを放った直後に、その反動に耐えられずに地面に、埋まるとか……
「いかが、でしたで、しょうか」
「ああ……」
埋まりながら、「誉めて誉めて」という感情を全面に出すポンコツは、必死に起き上がろうとしている。
「ぬおっ!? 抜けませぬっ!」
臀部が深く地面に埋まり、抜け出せないようだった。
「お前は……」
なんて、残念なやつなんだ……。
凪様像を破砕したこいつのレーザーは凄かった。おかげで凪様像と共に落下することは防げた。
くるりと、自分の背後にある、クレーターを見る。
もし、あのままだったら、俺達は間違いなく死んでいた。
半分ほどの質量であんなにも大きなクレーターが出来ているのだから、全質量で着弾していたら、今頃は……
がしゃんっと、空から機械が降り落ちてきて、俺の目の前でばらばらに破砕された。
それは、この南を侵略しようとしていた新人類の塊なのだろう。
元は人であったはずのその成れの果てに、あのまま凪様像に乗っていたら、このようにばらばらに千切れ飛んで辺りの肥料となっていたのかと想像すると体に寒気を感じた。
だが。
そんなことは今はいい。
ポンコツが無事だったことに嬉しさもある。
まだ後悔もあるが、俺が起こしたこの惨状に酷く落ち込み、その上ポンコツも壊れてしまったのかと思って必死に駆け寄った結果が、埋まっているとか。
じろりと。
先程までのポンコツに対する悔やみが、なんだったのかと。
ふつふつと、怒りが湧いてきた。
そして、もう一つ。
このポンコツには、言いたいことがある。
「とんでもない、一撃で、被害も……比較的? 少なかった。でもな……」
ずぼっと。俺は埋まったままのポンコツを引き摺りだし、言わなきゃいけないことを言う。
「おめぇ。何でいつも股間を集中攻撃するんだっ! 何か俺の股間に恨みでもあんのかっ!?」
ぱこーんと、思わずポンコツの頭を叩いてしまった。
堅い。じんじんと叩いた手が痛い。
「おおおっ! 御褒美ありがとうございます!」
叩かれて嬉しそうに五体投地とか。何て残念やつなのかと。
喜ばすためにやったわけじゃない。
二度目だ。
凪様像が爆散するときのレーザーが直撃した場所は。なぜかこいつが狙ったのは凪様像の股間だ。
じりじりと執拗に長く焼かれてひび割れ、自分そっくりな像の股間が爆散する光景をみたらどう思うか。
痛くないけど痛すぎて、俺の股間はきゅっと縮まりこんだわ。
絶対、確信犯だ。
「凪君」
ポンコツに更に文句を言おうとした所で、弥生が声をかけてきた。
火之村さんも、碧達と一緒に集まってきた。
「どういう、状況、なのかな? ギア? ポンコツ? あれ、なに?」
説明を誰かから欲しいのか、ポンコツや凪様像を指差し忙しそうだ。
「……姫様だけでなく、他にもギアを従えた、と?」
火之村さんの言葉に、ナオがどや顔する。
でも、説明はない。
俺から説明しろということだろうか。この、面倒くさがり屋の天使め。
「話ははしょるけど、森林公園にいたギア五十体程がナオに弄られて仲間になってますよ。今は東を、姫と押さえてくれてます」
「おおっ……東にも援軍が……」
あちらの状況を知っていたのか、二人はギアの援軍が東にいることに安堵していた。
「だけど、数に押されるかもしれない。こっちが片付いたらすぐに向かった方がいい」
「そう、ですな?……片付けといいますか……な」
「さっきので……」
二人が苦笑いしながら、先程まで新人類達がいた場所を見る。
「あ、あ、えっと……ここにいた守備隊は?」
「新人類があまりにも強すぎて、町へと逃げました、な。仕方ないとは言え……東へ向かっている彼等が何人いるか、です、な」
火之村さんがため息混じりに呆れを表現する。
「凪君、あそこの死体は……戦って死んじゃった仲間だよ。……助けられなかった……」
「気に病む必要はありませんぞ。あれがなかったら、町でもっと死者が増えていたでしょう、な」
弥生は、「東は凄い数相手に頑張っているのに僕は……」と悔しがり、火之村さんは「東が抜けられたら結局同じですが、な」とそれぞれ一言ずつ付け加えた。
何があって守備隊が逃げたのかは分からないが、あの凪様像で死者がいないことが分かって心にあった不安が少しだけ取れた気がした。
「そちらの、ギアも、信用していいということですか、な?」
「ポンコツはお兄ちゃんが好きみたいだから信用していいよ、爺」
「崇拝しております!」
「水原様は……ギアに好かれる体質でも?」
そんな火之村さんの呆れに皆が笑う。
俺も、何で御主人様と呼ばれているのかさっぱりだ。
「ここが、安全と確認ができたら、すぐに東へ向かおう」
そう提案すると、皆が辺りをぐるりと見渡した。
俺達以外に動く気配は、風に乗って揺れる草花や木々だけで、新人類の気配はしない。
ただ《《地形が変わっているだけ》》で、大きなクレーターが、そこにあるだけだ。
「激しい、です、な」
「凄いね……跡形もないよ」
「お兄たん発案なの」
「素晴らしい案でした! 殲滅です! 流石御主人様です!」
「えーっと、ボクも何か言ったほうがいい?」
「……言わないでくれ……」
皆して俺が起こした惨状に感想を言うが、責められているように聞こえてへこむ。
「凪」
そんな中、ナギが俺を呼んだ。
その声は緊張を孕み、何かを見つけたようで、弛緩していた俺の意識は引き締まっていく。
がしゃりと。
少し離れた場所で、機械が動くような音がした。




