04-28 南に降り立つ
東の戦いに姫率いるギア勢が参戦した頃。
南の戦いは、間もなく終わりを迎えようとしていた。
「夜月様。なんとかなりますか、な?」
「いえ……ちょっと厳しいです」
「でしょう、な」
守備隊の敗北という結果。
残るは守備隊は二人。弥生と、火之村だけだ。
南の、砂名率いる新人類百体との戦いは、一瞬で勝敗の優劣が決まった。
「まだ、戦う? たった二人で。俺達選ばれし新人類を、止められると?」
砂名は、戦いの終わりの見えたこの場で、どこからか取り出してきた豪華そうな椅子に座っていた。
その椅子は、数人の新人類に担がせており、宙を浮いた状態で、まだ戦う弥生と火之村のすぐ近くで、小気味よさそうな笑みを浮かべながら、物理的にも見下しながら二人を見ている。
「ほら、後ろの雑魚と同じく、お前らも諦めて俺のために早く朱を連れて来いよ」
南の戦いは、新人類とぶつかり合って、すぐに結果が出た。
守護者候補生には多数の死者が出ており、全員が一度町へと撤退している。
砂名は、その候補生を雑魚と呼び、自分達の力に酔いしれ、盛大に笑い出した。
そう思われても仕方がない程の惨敗。
守護の光を纏った新人類の人具の一撃は、生身の人間に耐えられるレベルの威力ではなかった。
守護の光がなければ、もしかするともう少し耐えることができ、いい勝負も出来ていたかもしれない。
だが、それは『もし』の話である。結果は勝負にさえならなかった。
候補生の一人が砂名に無残に殺され、それが開戦の合図となり、候補生達は自分達より少ない新人類の群れへと、勇猛果敢にぶつかり合い、善戦した。
と、言えば、聞こえはいいかもしれない。
結果は、そうではない。
新人類は、戦おうと走り出した候補生達に、圧倒的な早さで一気に詰め寄り出鼻を挫いた。
慌てふためく守護者候補生に、ギアと同性能と思われる腕力をもって、人具である棍が振るわれる。
それを、ギアと戦うために集まった候補生達は、仲間達と切磋琢磨し、磨きあげてきた自身の武を持って対抗しようと、自分達の持つ棍型の人具を差し出すように横にし、新人類の一撃を受け止めようと盾にした。
鍔迫り合いのようにぶつかり合った棍型の人具から、キンッと金属音が聞こえたのはほんの一瞬。
甲高い音は次の音――ぐしゃっと言う音によって掻き消える。
盾にした候補生の人具は、接触と同時に簡単に腕力に弾き落とされ、盾として機能せず。そのままの勢いで、守護者候補生の頭に炸裂。
高い所から落とされたトマトのように、真っ赤な体液を飛び散らして先頭に立っていた守護者候補生達の頭は破裂。
中にはそのまま、戦いの狼煙となって割れた候補生のようになった者もいれば、踏み潰された蛙のように地面に叩き潰された者もいた。
第一陣としてぶつかり合ったほとんどの守護者候補生が、一斉に。
同じような末路を迎えて、その場に崩れ落ちていく。
「受けないで! 躱して!」
戦いの波に乗り遅れ、最後尾にいた弥生の大声で出されたその指示が、誰もが出来るのであれば苦労はしない。
目の前で頭部を弾け飛ばし、千切り飛ばされてぐらりと体を揺らす仲間を、茫然と見ていた一人の候補生に、突きが放たれた。
その突きは風を切り、突き貫く。
そこにある骨や肉は全く抵抗をなさず。貫かれ腹部や胸部から棒と血液をまき散らす。
次々と倒れていく候補生達を、弥生と火之村だけで助けるのには無理があった。
自分達も守護の光を纏って、熟したトマトのように破裂されるのを待つ候補生に助勢し下がらせる。
守護の光で強化された新人類の圧倒的な腕力は軽々と弥生達の一撃を受け止め、その張り付いた人の皮を被ったその顔で、にやりと残酷な笑みを浮かべた。
じりじりと、助けた候補生が逃げる間の短い攻防。
その間にも助けに向かえなかった場所で、死者は増える。
戦いになるわけもなく、蹂躙され、候補生達が必死に我先にと逃げたしたことで、二人に百体の新人類の目が向けられた。
損傷のない新人類百体が、愉悦にまみれ余裕を表情に浮かべて二人の前に立っている。
それが、短い時間の攻防で起きた、結果だった。
森林公園を戦い抜いた二人だ。
ギアであれば百体以上を連携して倒した二人であっても、そこに自分達と同じ守護の光を使う百体となれば話は別だった。
守護の光を纏う相手同士の戦いは、守護の光の大きさと、自身の素の力がものを言う。
二人からしてみると、新人類の守護の光はそれほど強い光を放つわけではない。
光の力の恩恵は、二人のほうが有利に働いている。
だが、素の力は圧倒的に向こうが有利。
ギアであればバターナイフが蕩けきったバターを切るように簡単に切り裂くことはできる。新人類もギアのパーツを使っているからこそ守護の光に弱いはずだが、それを自身達の人具から発せられた守護の光が遮る。
体に纏っているわけではない。人具のみがその光を放つだけだ。
だが、その力の恩恵はギアの性能を格段に向上させることにも成功しているようだった。
二人で戦い始めてまだ数十分程度ではあったが、まだ百体の新人類のうち、倒せたのは数体のみである。
「援軍をっ!」
そこに、東からの救援要請が入った。
東から走ってきたであろう守備隊の一人が、息も絶え絶えに、だが、周りに聞こえるような大声で叫ぶ。
「東は数千の新人類に襲われています!」
「す……」
「……桁が、違います、な」
その新人類が、目の前の砂名率いる新人類と同じく守護の光を扱えていたとしたら絶望的だと、二人は今の町の状況に焦りを感じた。
「ここは、私達でなんとかするしかありませぬ、な」
火之村の言葉に、弥生も覚悟を決めて頷き、火之村が町へと退避していた守護者候補生達に東へ向かうよう指示した。
だが、その候補生達の足取りは重い。
目の前で虐殺された何百人とも思われる仲間達を間近に見て、東の絶望的な数に、どこへ行っても自分達には死がまとわりつく。
中には、自分の身恋しさに逃げだそうとする輩がいるのも分かる話である。
「東は全力だな。いいさ。俺の朱が俺の手に戻ればそれでいい。逃げたければ逃げるといい。逃げればそれだけ、こちらも楽に朱を迎えに行ける」
砂名の言葉が、何人もの候補生の心を砕いた。
逃げてもいい。
甘美な言葉に、町を守ることと、自分の命を天秤にかけた結果――
「「うあぁぁぁっ!」」
一斉に町へと逃げる守備隊に溢れた南の町は、一気に混乱を極めた。
「……くくっ。これで、田舎者から朱を救い出せる。可哀想な朱。……すぐに救い出して旦那の胸の中に飛び込ませてやるからな」
見るものの鳥肌を一気に逆立てるような笑みを浮かべ、砂名は進軍を開始する。
「やらせないよっ! 成頼!」
弥生が椅子に座り続けて進む砂名の前に立ちはだかり、自身の神具の名を叫ぶ。
いまだ凪のように純白の刃は出せないが、守護の光は、辺りの新人類が放つ光とは比べ物にならないほどの光を放ち、弥生を包み込む。
火之村もその姿を見て、自身の宇多を発動させる。
弥生とは違い、その光は自らが持つ宇多へ吸い込まれていき、鞘走る必勝の一閃へと。
「まだ俺の前に立ちはだかるか。なら、死ぬといい」
砂名が吐き捨てるように言った言葉に、二人に群がるように百体近い新人類が襲いかかっていく。
弥生が向かい来る新人類に狙いを定め、火之村が自分達に向かい来る一陣に、渾身の一閃を放つ為に力を溜め、腰を落とす。
少しでも、数を減らすため、二人は死を覚悟し、特攻する。
南に残った唯一の守備隊の二人と、新人類がぶつかり合う――
――そこに。
光が走った。
まるで新人類を薙ぎ払うかのように放たれた空からの光は、地面を焼き、町と新人類を分かつかのように一筋の焼け野原を作り出す。
その焼け野原に、互いがその場に立ち止まってしまった。
何が起きたのか、今のはなんなのか。
ぐるぐると、いきなり現れ焼き払った光に、思考だけが加速する。
そんな戦場に。
空から、人が舞い降りた。
「あ……あぁ……」
ずどんっと、重々しい衝撃とともに地面に軽いクレーターを作り出したその人は、もくもくと辺りに砂埃を撒き散らし、着地の反動に俯いていた。
救援。
二人は、南の絶望的な状況に降り立った人に、誰か心当たりがあった。
このような登場をするのは。いや、出来るのは、この町で、東で戦う三人を抜けば、一人しかいない。
そして、目の前にいる砂名とも少なからず因縁のある男を二人は連想し、砂埃が消え、ゆっくりと立ち上がる男を、二人は見た。
「な、なぎく――……? だれ?」
「誰と言われても……私がお前を知らない。お前こそ誰だ」
そこにいたのは――
ポンコツだ。




