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刻旅行 ~世界を越えて家族探し 戦ったり、恋したり、露出に目覚めてみたり?~  作者: ともはっと
防衛線

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04-25 乱心


 東の拡神柱の前。


 その場には射出音が響いていた。

 その音は町に向けられた音ではなく、間もなく町を蹂躙する黒い波となった新人類の群れに向けられた銃撃の音だ。


 その射出音は一つではない。

 秒間百発を吐き出すその射出音は、絶え間なく撃ち続けられ、その音が途切れる度に波の先頭が崩され黒い壁へと変わる。


 守備隊を追いかけ、町に突撃するため。

 新人類の左右の拡がる隊列は、次第に狭まり長い列のように連なっていた。


 その列を撃ち抜く銃撃からしてみると、その狭まった隊列を撃ち抜くのは楽な範囲だった。


「ロックしなくても撃てば当たるので楽ですね」


 町を守るように戦場に降り立ったそのメイドの放つそれは、的確に黒い波を突き貫いた。


 からからからと薬莢が射出音と共に落ち空回りすると、がしゃんと背中まで繋がる銃弾の束の鎖が地面に落ちる。鎖の束は背中からまた生えだし右腕に突き刺さるとまた射出音を辺りに豪快に鳴らし、波の進撃を防いでいく。


 鎖姫。

 そう呼ばれて人類を恐怖へ陥れたギアがいる。

 そのギアが、今度は人類を守るためにその鎖を解放した。


 その鎖は、今は『姫』と名乗り、一人の男に仕え、メイドとして、愛されたいと願いながら虎視眈々と彼を狙う。


 そのメイドの主武装。

 愛する男を窮地に追い込んだこともある小型のガトリングが、その銃撃の正体である。


 右腕に隠されたガトリングは、内部に仕込まれたスイッチで牛刀とガトリングを切り換えることができる。この機能はナオが着けたものだ。


 姫は辺りに響く銃声を聞きながら、以前凪にイラついてかちりとガトリングに武装を切り換えたことを思い出す。

 ぶっ飛ばすためにガトリングに切り換えたのだが、あの時を思い出して姫の口許に笑みが浮かんだ。


 その笑みを見て、機能を停止し動かなくなる新人類は何を思って倒れていっただろうか。

 姫にとっては思い出し笑いのようなその微笑みは、今撃ち抜かれ続ける新人類からしてみると死を喜ぶ笑みのような、悪魔の笑みとさえ感じてしまうだろう。


 ただ撃ち抜かれるままに向かい来る新人類は、撃ち放たれた銃撃に、目の前に出来上がる仲間達の壁を避け、よじ登り先を進もうとし、動きが緩慢になっていく。


 更に、その動きを止める元凶となった壁に、姫の左腕が伸びて襲いかかる。

 壁を貫き、壁を登ろうとしていた壁の向こう側の新人類さえを突き貫く。その左腕が蛇のように暴れのたうち動きを止めると、空へと昇っていく。貫かれて機能停止した新人類達がその動きと共に旗のように掲げられると、姫は残酷な笑みを浮かべ、右腕のガトリングがそれらを照準内に収めた。

 激しくがりがりと音を立てて機能停止した新人類を削りながら主人の元へと戻る左腕と共に、射出される数多の銃弾が宙に浮く新人類を不必要なまでに撃ち貫き、パーツを空からばら蒔いていく。


 空から落ちてくる同胞のパーツに唖然とする、新人類達。


 その光景に、いとも簡単に同胞を倒すメイドに。ガトリングの斉射に。


 新人類の波は遂に動きを止めた。


「道は作りましたよ」


 誰かに聞かせるように自分が切り開いた壁の向こう側に姫は声をかけた。


 そこから、一斉にわらわらと、必死に走る人間が現れた。


 波に押し潰されながらも、必死に町へと逃げるために走り戦い続けた守備隊達だ。


 その姿はぼろぼろに。

 服装だけに限らず、細かな裂傷を負うその体は、波の中で揉みくちゃにされて負った傷もあるのであろう。全員が似たような傷を負っている。


 その先頭を走るのは橋本。

 最後尾を白萩と達也が警戒を怠らずに努める。


 波に巻き込まれながらも、守備隊と合流し守り抜いた三人が、今度は姫に合流した。


 動きが止まった新人類の波に、遥か遠くで太名が両腕を高々と拡げると、波は後方へと下がっていき、町から少し離れた平らな草原で隊列を整えだす。


「姫さん! 助かったっ!」


 姫の横を通りすぎて町へと避難し泣きながら倒れ込む守備隊を見届けると、仕切り直しとなった戦いに、まだ戦う意思をみせる橋本が、壊れた近衛を中段に構えて次の戦いに備えながら姫に声をかけた。


「殺す気か!?」

「無駄口を叩く元気があるなら死なないでしょう」

「あんなの飛んできたら死ぬってのっ!」

「御主人様は至近距離で切り裂き、消し去り、避け、私に近づき熱い抱擁をなされました。……ああっ! あの時の逢瀬を思うと……今すぐにでも自爆したいっ!」

「すんなっ! 今度こそ死ぬわっ!」

「……おにーさん……あんなの向けられてよく……」


 同じく姫の元へと合流を果たした白萩と達也が、弾幕を非難し、恥ずかしそうに普段見せることのない、くねくねと、身を捩りながら恍惚の表情を浮かべる姫の言葉に恐怖する。

 だが二人も、あの圧倒的なまでの新人類の波から逃げ切れたことに安堵の表情を浮かべ、強力な助っ人の登場にへなへなと力が抜けて、その場にへたりこむ程に安心しきっていた。


「ひ、姫? あなたどうして……」


 守備隊を支援していた貴美子が、向かい来る波に逃げ惑う支援隊を町奥へと逃がしながら、最後尾で状況をみていた。

 今はその波が収まり、逃げることも忘れて皆が呆けているところだ。


 いざとなればその体一つだけででも壁として使えば、皆の逃げる時間を稼げるのかもしれないという、浅はかに考えた結果、その場に最後まで残っていたのだ。


 もし、彼女が考えるように最悪の結果としての町に新人類が雪崩れ込む結果があったとしたら、彼女の体一つで何とかできるはずもなく、なんの抵抗もなく押し潰されるという、無駄な行動であったことは間違いない。


 本人もそう内心では感じていたのか、それとも波が収まったことで麻痺していた思考が少しは回復して自覚し、今更死の恐怖が溢れだしたのか、がくがくと震える足を必死に奮い立たせながら、姫へと近づくために拡神柱の外へと出てきた。


「当主様。御無理をせずに、避難ください」

「い、いえ、避難はするけど。あなたがなぜここに?」


 もっともな意見である。


 森林公園からこの場へは、辿り着くには半日は最低でもかかると想定していた。

 なのに、あまりにも早い。

 貴美子が凪達に状況を知らせてから、数時間程しか経っていない。

 知らせても間に合うはずがないからこそ、今の状況を説明したのだ。


「私だけではございませんよ」

「ま、まさか……凪くん達も……?」

「その前に、ですが――」


 そう、前置きすると、姫は空を見上げた。

 太陽が雲に遮られたのか、辺りに黒い影が降りた。


「失礼ながら、皆様方には、恐らく恐怖が降り立ちます」

「「「……は?」」」


 そんな姫の視線の先を。言われた意味が分からず皆が姫が見つめる先を一斉に見上げた。


 そこにいたのは。


 黒。

 どんどんと空から『黒』が落ちてくる。


 がしゃりと、機械音を鳴らしながら次々に降りてくる黒が、着地時に地面を削り、草原の草花を弾けさせて、顔を地面へと向けた黒が――


 五十体の黒が姫の前に降り立ち、一斉に蒸気を口から吐き出しながら顔をあげた。


「ひっ――」

「ぎ……ギア!?」


 その黒い五十体の物体は――


「人類の脅威――私と同じギアが降って参りますので」


 真新しく空に輝く太陽の光を反射し、輝く黒を纏った、第四世代のギアだった。


「こ、こんなときに!」

「最悪だっ!」


 白萩と達也が、すぐに立ち上がり自身から守護の光を立ち上らせた。


「ひ、姫っ!? あなた何を!?」


 いきなり現れたギアに、貴美子が腰を抜かして座り込む。


 新人類の波はまだ離れた先に控えているにも関わらず眼前に現れた新たな敵――本来の人類の敵の襲来に、今度こそ惨たらしく死ぬと、自分の死ぬ瞬間が脳裏に浮かぶ。

 壊れた拡神柱の先の町へと必死に逃げ込んでいた守備隊や、避難しようとしてまだ残っていた支援隊も貴美子と同じ考えだったのか、口を開けたまま、絶望を味わっていた。


「……? いや、おかしい」


 橋本が、目の前に規則正しく立ち並ぶギアを見て違和感を感じ、貴美子に手を貸し立ち上がらせながら呟いた。


「御明察でございます」


 姫が橋本の言葉に、ふっと笑うと、ギアへ向かって命令を発した。


「跪け」


 それと同時に、がしゃがしゃと金属の擦れる音を立て、一糸乱れず総勢五十体のギアは姫の言葉に従い片膝立ちに頭を垂れる。


 その光景に、橋本達だけでなく、町へと非難していた守備隊や支援隊が驚愕の表情を浮かべて言葉を失った。


 満足そうに姫は頷き言葉を発する。


「お前達の御主人様は?」

「「ワレラノゴシュジンサマハ、トウトキオカタ!」」

「お前達の使命は?」

「「ゴシュジンサマノタテトナリ、ツルギトナリ、ワレラガゴシュジンサマニ、アダナススベトヲメッスルヘイキトナリ!」」

「では、貴方達に、御主人様の名を皆に伝える許可を与えましょう」

「「オオオッ!」」

「さあ、高らかに、歓喜を持って呼びなさい。……お前達の御主人様は?」

「「ミズハラナギサマ! トウトキオカタ! ワレラガアイスルシコウノオカタ!」」


 ギアの大合唱が辺りに響く。

 ギアは名を呼べたことに彼に一歩近づけたと思えて歓喜し、ナオによって弄られ、赤から黒へと変わったその瞳から液体を流し出す。


 だが。


 その大合唱の更に上を行く轟音が響き渡った。


「黙りなさいっ! 誰がお前達にあの御方の寵愛を渡すと! 私さえまだ頂いていないのにっ!」


 姫が地面に足を叩き下ろした音だ。

 バキバキと音を立て、叩き下ろした先の地面に亀裂と、まるで爆弾でも落ちたかのような小さなクレーターが出来上がっている。


 その音に、ギア達の合唱は静寂へと。

「エー」というなんともやるせない想いがその静寂に混じる。


「御主人様の寵愛はこの姫が。代わりに思う存分頂きます」


 ギアから一斉に「セッショウナ!」「オウホウダ」と悲痛な叫び声が上がるが、姫が一睨みするとすぐに俯き姫から目を反らす。


「御主人様の為。我等ギアは、この町を守ります。と言うわけです」


「……ああ、うん……?」


 余りにも目の前で起きた光景が橋本達には理解できず。

 よく分からない話を聞かされて、目の前に忌むべきギアがいるということさえ忘れ、ただ、そう言うしかなかった。


 分かったことは、姫は凪への愛を欲しすぎていると言うことだけだ。


 そんな姫が、左腕を振り上げると、ギアが一斉に整列する。

 同じように、遥か遠くで整列する新人類の先頭に立つ太名が腕を同じように振り上げていた。


「御主人様。姫は、姫は……御褒美をお待ちしております。きっと、この戦いが終わったらきっと……」


 惚けるように呟く姫が、遠くの南の空を見つめながら。


 太名が、目の前に突如現れたギアとそれを統率するメイドに狼狽えながら。


 互いが、同時に、腕を振り下ろす。


 また、何千もの新人類が、波となって町へと。


 五十体のギアが、中央に姫を置き、二列横並びに拡がり新人類へと。


 ギアと姫の介入によって仕切り直しとなった東の戦いは、人類対新人類から、新人類対ギアへと移り変わり、新たな局面へと向かい出す。




 守備隊や支援隊によって、後にこの戦いは町に語り継がれていく。



 その戦いの名は――




 姫様、ギアと御乱心。




 黒い影は南へと向かう。


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