04-09 ポンコツギアのおしゃべり
「お前の御主人様は?」
「私の御主人様は、水原凪様。世界を統べる、我らが王です」
ナオに弄られ、
ポンコツは更にポンコツになった。
「お前の名前は?」
「ポンコツですっ! 御主人様を愚かにも卑しくなじった私の名前はポンコツ以外あり得ません!」
ポンコツは、自らをポンコツと名付けた。
先程まで敵なのか味方なのか、中立を保ち、回答次第では自らが慕うナギにさえ敵対すると息巻いていたはずだが。今はうって変わり……忠誠を誓う直立不動なその姿に、ナオは満足そうに頷いた。
「お前の使命は?」
「ポンコツの使命は、御主人様に尽くし、なじられ、貶され、罵声を浴びせられることに興奮し、糞味噌に痛め付けられることを至上の喜びとし、御主人様に歯向かうものには断罪の剣となり、御主人様に全てを捧げる盾となり、守り死ぬことを御褒美として御主人様のために生き抜き、盾として先に滅ぶことが使命です!」
自分の胸に手を翳し、俺に深く敬礼の意を表するポンコツが、「御主人様! ご命令をっ!」とばかりに、赤から黒へと変わった純粋で曇りもないその瞳で俺の言葉を待つ。
まさに、綺麗なポンコツだ。
「放置プレイも可でございます! 何百年放置されようがギアなので問題ございません!」
もう、止めてあげて……
そんな悲しさを胸に秘め、俺はナオの頭をがしっと掴んだ。
「はっ!?」
ナオが、やり過ぎたと気づいたのか、恐る恐ると言ったように、背後の俺を見始める。
「……な?」
「に、にゃあ……」
ぐにっと、俺の指に力が入る。
「にぎゃあぁぁぁーっ!」
「わかるよ、な?」
「やり過ぎたの! ごめんなさい!」
だが、もう元には戻せないようだ。
「そんな哀れみも、私にとっては御褒美ですっ!」
「黙れっ。もう、お前が聞きたいことをとっとと話せ」
「初めてのご命令ですね。興奮します!」
姫がうんうんと頷き、「自爆したくなりますね」と共感しているが多分違うと思う。
「崇高で偉大なる我が主を私が卑しく惨めに疑ったのは、一年程前にまで遡ります!」
待て。さっきからなぜ俺を主と従う。普通は弄った本人のナオを崇めるだろ。と疑問を抱いたが、話の腰をこれ以上折るのは止めておこうと思った。
「一年前? 俺がお前と森林公園で遭遇したのは数ヶ月前だぞ?」
「私達からしてみれば、人類は同じでした。所詮は飲み物だと考えていたあの頃が今となっては恥ずかしく罵倒していただきたいくらいです!」
「罵倒するなら私を是非」と、奇妙な対抗心を燃やし出した姫が俺の傍に来て、罵倒されるのを今か今かと待ち構え始めたが気にしないでおこう。
「ギアのバグは、人を食べて処理するようプログラムされてるの。だけど、ギアは食事をする知識はあるけど、体内に摂取する必要はないから、液体だけを飲むようになったの」
ナオが俺の指から解放されて自分の頭をすりすり撫でながら俺に説明した。
そうか。ナオは姫を解析した時に、そう言う一面を見ているのか。
「あ。それならボクも命さんから聞いてるよ? ギアは人の血液を飲むって。確か女性の血液が好物だって聞いてるよ?」
「その通りです奥方様」
「お……奥……? そ、そう! ボクはお兄ちゃんの奥様だよっ!」
碧が「二人とも聞いたっ!?」とナオと姫に嬉しそうに言うと、「ナオは第二夫人でいいの」「私は愛人枠で」と、よく分からないやり取りをしだした。
お前らはいい加減俺の意見を聞こうな? と思いつつ、ポンコツに話を促す。
「人が一年前に来たのです。ちゃちな武器を持ち歩いた百人程の人の群れが、警戒しながら我らの隠れ住む屋敷に辿り着き、一斉に襲いかかって参りました」
屋敷というのは、俺達が侵入したあの家だろうか。
あそこに一年前に人が訪れていたと言うことに驚いた。
「あの者達は一体のギアに多大な犠牲を払いながら四肢を切り落とし無効化すると、奇妙なボックスに同胞を入れていきました。数日に渡ってそれを繰り返すと去っていきました」
「ギアを、捕縛、した?」
ナギが捕縛と言う言葉で返した。
ポンコツは頷きで返し、続きを話し出す。
「私達も応戦し、ほぼ殲滅しましたが、それでも、捕縛された同胞は誰一人戻らず。残ったのは奴等の死体だけ」
「捕縛が目的だったと考えるべきだね」
「……お前達が処理してたのはその時の人、か?」
「はい。数百人ともなると時間がかかります。当時は血液を求めていたため分離する必要もあり、数も多いため腐り始めた人の処理を行っていた時になります」
聞いてみて、あまりいい気がしなかった。
腐っても煮ながら焼くとこんがり芳ばしい匂いになると言われても、気味が悪いだけだし、ポンコツ自身も以前はどうかしらないが今は嫌な気分を感じていたようだ。
だが、今の話には少し不可解な点がある気もする。
「おかしいね」
ナギの声がどこからか聞こえるが、姫に叩きつけられてからどこに行ったのか分からない。
声に反応して碧がアタリをつけて探しているが見つからないようだ。
「捕縛して何かあるのか? むしろよく捕縛できたなと思うが」
「御主人様。私もそれを知りたいのです」
「百人程いたって言ったが、お前らは何体ほどいたんだ?」
ギアは人類なんぞ一体だけで圧倒する力もあり、睡眠などの無防備な時間も必要ない。あの時、あれだけの数がいたのだから、そう簡単に捕縛されるはずがないと思う。
「当時は私を含め、十体ほど稼働しておりました。私以外は第四世代のため、私からはこの拠点の警備と言う簡単な指示しかしておりませんでしたが、それでも人に遅れをとることなどはあり得ないと考えます」
それであれば、尚更おかしい。
「あ。見つけた」と、碧が地面に埋まっていたナギを見つけて掴みあげる。
ナギは何か考えることがあるのか、無言だった。
姫が地面に叩きつけたのかはなぜかは分からないが、こんな風に見つからなくなるようなら、今度からナギをもう少し優しく扱ってもらうよう言わないといけない。
仮にも、コアパーツとはいえ、ギアの頂点である絶機の一体で、俺の情報源で信頼のおける相棒だ。
碧からナギを預り姫に伝えると、「御主人様と内緒話ができるナギ様が羨ましく」と、どうやらギア間ネットワークを使って俺達が会話していることがうっすら分かるような発言をしだした。
ナギと俺は、物理的に繋がっているからネットワーク等を介して会話しているわけではないと思うが、それを検知できるとは……十世代とは、ここまで性能が高いのかと驚いた。
「んー? お兄ちゃん。ナギと会話しているお兄ちゃんって、結構分かりやすいよ?」
「何話してるかは分からないの。でも羨ましいの」
妹達にも分かるとは。
こいつら、まさか、エスパーか!?
そう思ったが、ただ左目が赤くなっているかららしい。
……成る程。よく分かる違いがあったようだ。
「……ポンコツ。その相手の中に、守護の光を使う輩はいたかい?」
「忌まわしき守護の光……そう言えば、数人光っていたような気がします」
次に襲われたときに、このままではこの拠点が守れない。
危機感を覚えたポンコツは、地下で眠っていた第四世代を一斉に起動させたそうだ。
それ以降、人が襲ってくることはなくなったようで、死体の処理中に俺達がまた乗り込んできたので、敵討ちのために全勢力で襲いかかったという、経緯があったようだ。
そう聞くと、一年前にこの森林公園を襲った人類は組織だっているようにも思える。その組織はなぜ大勢の被害を出しながら襲ったのかは分からないが、ギアを捕縛していることから何か目的があったのだと思える。
だが、そうなると……俺達が森林公園に向かう切っ掛けになった、隣町の襲撃、そしてその際に連れていかれた斥候や行方不明者がどうなったのかが気になった。
「半年ほど前だが、お前達は、報復として、町を襲ったのか?」
「いえ? 私達はこの拠点からは出ていません。絶機様の命は、この場所の死守ですから」
おかしい。
そうなると、半年前の隣町襲撃は、突発的なギアの襲撃ということになる。
「いや、凪。違うかもしれない」
俺の考えを読んだナギが、俺の肩に飛び乗り、そう言った。
「もしかすると……僕達は、大きく思い違いをしているかもしれない」
少しずつではあるが。
点と点が、繋がりだした気がした。




