03-60 すべてを話す 2
「刻族は元々茶髪だ。勿論、前の世界で凪は茶髪だ」
ナギが刻族について話し出した。
「朱が茶髪に凄い反応してたわね」
「あれは凄かったねー。飽きずにずっとだったねー」
貴美子おばさんと巫女が愉快そうに笑った。
確かにあの時はトリップしたかのようにずっと触っていたが、あれは朱の中にいた碧がそうさせたのだろうか。
ちらっと碧を見ると、ぷいっと反対側を見てしまった。
「でも、ここにいる凪は茶髪じゃない。これは、この世界に来る前に全ての力を使い果たしてしまったからだね」
「そう言えば……命も綺麗な茶髪だったわね」
「刻族の純血は観測所の力を体に内包しているから髪が変異する。刻族がまだ多くいた時は茶髪の人が多かったみたいでね、昔は刻族を真似て染めた人もいたみたいだよ」
染めようが刻族になれるわけでもないと思うが、当時はおしゃれやファッション的なものだったのだろうかと思っていると、ふにっと、頭を誰かに触られた。
「茶髪じゃない……」
「お前はどこまで茶髪好きだよ……」
「ち、違うよっ!? 見た目変わっちゃうから不思議だなぁって!」
「変わったら何かあるか?」
「……ないけど」
よし、茶髪好きなんだな。いや、これはもう茶髪フェチかもしれない。
「? 朱さん? なんかやっぱり……」
そんな俺と碧の会話に、皆が違和感を覚えているのがよくわかった。
「まあ、失わせたのは僕だ。凪を助けるために観測所に世界移動した。観測所へ繋がる穴は空いてたから後は力を流せばそのまま流れに身をまかせるだけだったから楽だったよ。でも、それだけだと凪が可哀想だから、直と碧も力を使って復元した。流石に直の体を戻すには力が足りなかった。君が想ってなかったらこんな無茶、しないよ?」
……おい。今凄いことさらっと。
ん? 穴が開いていた? それは、あのギアが開けた穴のことだろうか。
「魂を固定化させることには成功したんだけどね。そこで力尽きちゃって。君に記憶を見せることくらいしか出来なくなってね」
佑成を作ったときの記憶か?
今にして思えば、あれは戦う術を教えてくれていたのか。
「いや、その前に……お前は碧も蘇生させていたのか」
「そうだよ? だから弥生を蘇生させるのは二回目だったから比較的楽にはできたよ。問題は、君の引き出す力が完全に戻ってなかったってことだけだったよ」
巫女が弥生にがしっとしがみつき、困ったような苦笑いをしながら弥生が頭を撫で始める。
それを見て「少しは感謝してほしいんだけどね」と、ナギが少し困ったような声を出したが、丸い塊なので表情が見えない。
「……まあ、そんなことを俺は初めて知ったが、ナオに夢を見せてもらって、なぜか俺は碧の記憶を追体験して、気づいたら観測所にいたんだ」
「え……?」
とりあえず、碧の驚きは無視だ。
後、ナオの不思議な力は伏せておく。
俺は皆に観測所で碧と会って、そこで彼女をあの場所から救い出すために観測所の情報を得ようとしていたことを話した。
「待って。じゃあ、ナオちゃんはどうして生きて私達の前にいたの?」
やっぱりそうなるよな。
でも、よく考えたら、この時に気づけたはずなんだよなぁ……。
碧が生きていたこととかが嬉しすぎてすっかり頭から抜けていた。
「碧が母さんに頼んで、自分の体をナオにあげたんだ。だから、碧は観測所から出れなくなった」
「え……じゃあ、ナオちゃんって……」
「碧お姉たんの体だからお兄たんと血が繋がってないの。だから大丈夫なの」
……何が?
ぎりっと、俺の頭を撫でていた碧の手に力が入って何本か髪の毛が頭皮からおさらばする痛みがあった。
そこからは一気に話を飛ばす。
貴美子おばさんが碧とナオの体を入れ替えることができたことに改めて疑問を感じたようで、質問したそうだったからだ。
後、碧からも追体験について、じとっと睨まれている気がするので話を変えてしまいたい。
考えてみたら人に記憶見られるとかやばいだろ。
目を覚ましたら朱と火之村さんが来て、そこで俺はこの世界で暮らしていた時の記憶を一部だけ思い出したことや、後は森林公園でナギが助けてくれたこと等を話した。
そして、ここからが本題だ。
「――おにーさん、碧さんを助ける方法は、分かってないんですよね? だったら、これからは僕も手伝いますよっ!」
達也がふんすっと、鼻息出しながら嬉しいことを言ってくれ、橋本さんも頷いてくれる。
……まあ、遅いんだが。
「その気持ちだけ受け取っておく。碧は体ないからどちらにしろ、な」
「おにーさん……」
「……あれ? でも、碧さんって、ナギが生まれ変わらせたって言ってなかった?」
「そうだよ。……生まれ変わらせた、はずだったんだけど……ねぇ?」
言葉振りからナギは碧をちらっと見た、と思うのだが、丸い塊なのでよくわからない。
「……生まれ変われなかったんですよ」
「……え?」
弥生と巫女が怪訝な表情を浮かべて、それを伝えた碧を見る。
「……色々あったらしくて、死産したそうだ」
「そんな……じゃあ……」
巫女が青ざめてぽろっと涙を流した。
やはり、別世界とはいえ、自分のお腹に宿った命だ。それが産まれなかったと聞けば辛いだろう。
「水原君……それは、つまりは……その……残念だったね、と……しか……」
言葉を選びながら言葉が出てこない橋本さんが、辛そうに俺を見た。
そう思ってくれるのは嬉しい。
嬉しいのだが……最後まで話した上で感情移入してほしい。
後、そろそろ食事にも手を出したい。
「……貴美子おばさん」
「……なに?」
「実は、俺の記憶では、貴美子おばさんも死産しているんです」
「……何を。朱がいるでしょうっ!」
いきなりそんなこと言われたら怒るだろうとは思う。
「……そう。そこが、ずっと俺も気になっていたことなんですよ」
「あなたは実は朱がいない世界からここに来たってこと?」
「いえ、それが。俺にも朱との小さい頃の記憶が少しあるんです。言質とられた記憶とか」
「じゃあ、急にそれを言う意味はあったのかしら? それとも、それをナギが回避させたとか言わないわよね?」
貴美子おばさんが不機嫌そうに捲し立てきた。
流石にナギがそれをやってたら万能すぎて俺も怖い。
「お母様」
今までほとんど喋らなかった碧が貴美子おばさんに声をかけた。
「碧の母親はあちらでも、華名貴美子です」
「……そうね。そうなるわね」
「こちらで、死産するはずだった、朱の母も華名貴美子です」
「……まさか……」
自分の娘からの言葉に、元々感じていた違和感と合わせて気づいたようだ。
「碧……なの?」
「はいな。朱でもあり碧ですの。お母様」
「じゃあ……碧さんは……」
「なんか知らんけど、生まれ変わって朱として同じ母親から産まれていたらしい」
「何か知らないってひどいよぉ! 結構、ボク頑張ったんだよ?」
「いや、まあ……そうなんだが。どうやったか分からないからな」
「そうだけど……頑張ったよっ!」
唖然とする皆と、俺達家族の温度差が激しい。
「えーっと? つまり、朱さんは、碧さん?」
「うん。ボクも生まれ変わって記憶とか失ってたけど、ナギが頭の中に入ってきた時に思い出しちゃった」
よく考えてみたらナギのおかげで色々助かっているなと思う。
ナギがいなかったら今頃どうなっていたのかと改めて感謝したい。
そう思いながら、騒ぎ出した皆を見ながら茶碗を持ってご飯を箸で掴み、久方ぶりの米を――
「まあ、ここまでが、彼に起きていた色々だね。後はお互いに時間があるときに擦り合わせてね。……さて、ここからが本題だ」
ぴたっと、その騒ぎが止まり、俺も箸を置かざるを得ない雰囲気に。
「遅れました、な」
「あー……水原、無事でよかったよ」
遅れていた、火之村さんと白萩が到着して、より一層飯のタイミングが……
というか、白萩の隣に知らない眼鏡っ娘がいるのだが。
……せめて、一口だけでも食べたかった。




