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林檎の木に桜の花が咲く頃に

林檎の木に桜の花が咲く頃に エピローグ

作者: RYO

「ねーカナー!」

「みーちゃんしつこいってば」


 驚いた。

 ここまでみーちゃんがお酒に弱かったとは……


 私たちは中学の同窓会に参加していた。

 地元の居酒屋に20人ほどの参加者が集まっている。

周りの笑い声と食器のぶつかり合う音の中、私はみーちゃんとサクラを両隣の席に構えていた。


「みーちゃんカナもそろそろ嫌がってるんだからやめなさいよーいい大人なんだから」


 私の右隣に座るサクラが仲裁に入る。


「えーいつもの調子じゃーんねぇ?カナー」


 め、めんどくせぇ。

 この暴徒化するみーちゃんを沈めるにはある方法が存在する。


「そろそろ頭ぶっ叩くよ?みーちゃん」

「ひぇ!?」


 中学の頃、こんな感じの暴走状態のみーちゃんに対し、私が思いっきし頭をぶっ叩いたところ、みーちゃんの右後頭部に傍から見ても分かるようなたんこぶが出来たことがある。


「そ、そういえばさぁ」


 急に大人しくなったみーちゃんが口を開く。


「オサム君とまだ続いてんの?」

「あぁ、そのこと言ってなかったっけ?別れたよもう」

「あっそうなんだ。成人式までは続いてたからてっきりこのままゴールインかと思ってたんだけどなぁ」


 オサム君とは大学4年生の時に別れた。

 理由は他愛(たあい)もない喧嘩が原因である。お互いストレスの溜まっていた時期に価値観のズレが生じてしまったのだ。

 そのオサム君とはもう連絡も取っておらず、今日の同窓会にも参加をしていない。

 右隣でサクラがチューハイを飲み干し、「プハァ」と豪快に叫んだ後に話し始める。


「でも長かったよねー。沢山惚気話(のろけばなし)聞いてたのが懐かしいよ」

「まぁそんなこともあったね」


 サクラとは大学まで同じで、腐れ縁とまでなるようになった。

 流石に職場までは一緒にはならなかったが、今でもたまに予定を決めて会うような間柄だ。


「でも今カナ同棲してんのよ」

「……え!?まって聞いてないんだけど!」


 再びみーちゃんのテンションが滝登りする。


「サクラってばほんと口軽いんだから」

「あ、言っちゃいけなかった?」

「く、詳しくっ!!」




 ◆




 私は街灯が照らすアスファルトの上でヒールの甲高い音を鳴らす。

 同窓会も2次会まで参加して、早めに切り上げた私は都内のアパートへ帰宅した。

 ガチャ、と戸を開くとそこにはひとりの男がソファに座っていた。その男は私に気づくとニコッとはにかんだ。


「ただいまー」

「おかえり、カナ。お風呂沸かしといたよ」

「えーありがとう」




 ◆




 時は経ち、私は30歳を迎えた。


「ねぇねぇママー!」


 ひとりの少年が私に駆け寄ってくる。


「ん?どうしたのハルト」


 彼は目をキラキラと輝かせて、私の書いた小説を両手で見せびらかして聞いてくる。


「ママがこの本作ったの!?」

「うん、そうよ」

「すごぉーーー!」


 彼はとても嬉しそうにもうひとりの親の方へと視線をずらす。


「ママすごーいよー!ねーパパー!ママすごいんだよー!」

「落ち着きがないなハルトはー。よし、ここに座りなさい」


 今度は少年が男の方へと駆け寄っていき、椅子に座っていた男の膝の上にちょこんと座る。




 ◆




「かーさん」

「ん?どうしたの」

「その指輪ってどこで買ったとか覚えてる?」


 身長が私よりも頭一つ分抜けている実の息子は、私の左手薬指にはめられている、輝きをいまだに保つ宝石を指差した。


「……都内のジュエリーショップ。私のお母さんがそこで働いてて、あなたのお父さんと一緒に選んで決めたの」

「へぇ。おれ、プロポーズしようと思ってさ」

「あら、素敵じゃない……お父さんにも言っておくわ」

「いやまって!まだ言わなくていいから!お願いだから!」

「そんなあわてなくてもいいじゃない」

「それこっちのセリフ!」


 家中に笑い声が響く。


 もう誰も失いたくない。

















 いつまでもこんな日々が続きますように。


































 林檎の木に桜の花が咲くほどの、その小さな可能性にかけて。








これにて「林檎の木に桜の花が咲く頃に」シリーズの完結となります。

プロローグでもいいましたが、プロローグとエピローグに関してはRYO自身が勝手に考えたエピソードだと思ってください。

分からないところがありましたら気軽にお尋ねください。

そしてこれからもこの作品をよろしくお願いします!

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