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第065話 まったく。遅いのよ

 ギオニスは爆心地になるはずだった場所で満足そうに立っていた。

 身体に魔力が少しだけ戻ってきた。


「これで魔力が――」


 戻るはずだった。

 が、魔力の飢えはより一層強くなった。

 中途半端に魔力を食ってより飢餓感が増した。


「タリナイ――タリナイ。

 モット魔力ヲ!!!」

「ギオニス殿!」


 ガブラが声をかけるが、今のギオニスには届かない。


「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」


 ギオニスが天空を仰ぎ咆哮をあげる。


「なんという声だ――」


 ガブラは耳を抑え、身をすくめた。

 リリアの威圧とは違う。

 どう意識を保とうとも、自分が捕食対象にされているイメージしか浮かばない。

 恐怖や恐慌ではない。

 純粋な死の予感。


「オマエ――」


 ギオニスの目が真っ赤に燃えていた。

 その深紅に染まった目が、ぎろりとガブラをにらみつける。


「ひっ」


 怯んだガブラはリリアからもらった氷の剣の切っ先を向けた。

 一瞬で距離を詰めたギオニスは切っ先を口に入れるとかみ砕いた。

 口の中が刃で斬れ、血が噴出したが、それも一瞬で完治していく。

 流血を気にせずギオニスはリリアの剣を食い散らかす。


 その姿は獣のようで、普段のギオニスを想像できるものではなかった。


「なぁにやってんのよ!」


 威勢のいい声とともに飛び込んできたリリアがギオニスの頬を思いっきり殴り飛ばした。


「いったいわね」

 リリアは殴った手を痛そうにひらひらと動かす。

 殴られたほうのギオニスはまるで揺れる葉にでも会ったかのように平然としていた。


「完全に我を忘れているじゃない。

 ギオニスらしくないわね」

「ぐおおおぉぉぉぉ!」

「なによ、私がおいしそうに見える?」


 リリアがギオニスを見てクスリと笑う。


「リリア殿……」

「大丈夫よ。

 あいつも魔力が尽きるまで頑張ったんだからね。

 私が温存してちゃだめよね」


 リリアの身体が淡く黄金に光る。


「少し下がってなさい」


 リリアの稲穂のような黄金の髪が、茶色く土のような色に変わり、瞳の色が深い森のような緑に変わっていった。


「≪森の恩寵≫。

 草よ木々よ。私に従いなさい。

 さぁ、ギオニス! 私も空っぽになるまで付き合ってあげるわ!」


 リリアが足を踏み出すと、そこの草が一気に伸び花咲いた。

 次の足がステップを作り上げ、宙に飛ぶと、足元の草がリリアを追うように伸びた。


 リリアが空中で身をひるがえし、ギオニスに指先を向ける。

 それに従うように、草が槍のように身を尖らせ、ギオニスに襲う。


 空中にステップを複数枚重ねてリリアはそれを踏み抜いた。

 ステップの欠片が、氷のつぶてとなりギオニスに降り注ぐ。


「フェリスから借りといてよかったわ!」


 リリアが木剣を抜くとギオニスに斬りかかった。

 その鋭い一撃をギオニスは手で受け止めた。


「はっ、相変わらずの馬鹿力ね」


 ギオニスはリリアの言葉も分からず叫び声をあげる。


「あんたが死んだら誰が私の復讐に付き合うのよ!」


 一気にリリアの魔力が膨れ上がった。


「私の寿命を魔力に転換したわ。

 こうなりゃ、とことんあなたと付き合ってあげるわ!」


 ギオニスと近距離で勝つ手段なんてほとんどない。

 剣をつかまれた時点で勝つ術がないなら寿命を使っても使わなくても変わらない。

 どうせ死ぬ。

 回復した魔力で、体力を回復し、木剣に魔力を通す。


「ったく、どこまで世話を焼かせんのよ!」


 リリアの腕から生気が亡くなり、枯れたようにしわがれていった。


「――木化が始まったわね」


 ≪森の恩寵≫は使いすぎると自分が森へと還る。

 特に魔力がない今は簡単に身体が変化してしまう。


「深き揺り(かご)の森よ――

 荒き廟所(びょうしょ)の大地よ――

 死は果てにあらず、生は始まりにあらず。

 輪廻は迷い子を捕らえる深謀となる。忘却こそが血路なり!

 唸れ! 森羅万象の理――」


 木剣から枝葉が生え始めリリアの手を埋めつくす。


「降誕せよ七枝が一つ樹剣・クサナギ!」


 剣から伸びた細かい根が、リリアの皮膚を貫き魔力と血肉を吸う。

 それはにらみ合っているギオニスも例外ではなく、その根は容赦なく皮膚を貫き、枝は巻き付く。


「そんな……これだけやっても……」


 突如、リリアの魔力がはじけ飛んだ。

 体力が唐突に限界に達し、魔力を維持できなくなった。

 どれだけ寿命を使ったのだろうか、もうそれもわからない。

 ただ、分かるのは自分が森へと還る時が来たということだけだ。


「ギオニス……」


 ギオニスを元に戻せなかった。

 自分なら何とかなるという根拠のない自信が今崩れ落ちた。

 こんなことなら、もっとこいつと仲良くしてたらよかった。


 今更ながらに、ギオニスといがみ合っていた時間がもったいなく感じた。


「……ごめん」

「謝るな!」


 突如、リリアの身体を強く抱きしめる者がいた。

 そして、同時に枯れた魔力が身体中を廻った。


「何よ……」


 ぼやけた視界に映ったのはギオニスだった。

 あの我を忘れたギオニスじゃない。

 いつものギオニスだった。


「お前の魔力を喰いすぎたみたいだ。

 今少し返すから」

「……まったく。遅いのよ」


 そういうとフェリスがやってくるまでの少しの間、リリアはその腕に身をゆだねた。



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