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第061話 俺だぞ?

「ヒト……いや、お前はあの時のオークか!」

「また、会ったな。

 あの時、食いちぎった腕は戻ったようだな」

「俺様はあの時とは変わったんだよ」

「ドライアドの恩恵を受けてか?」

「ちょっと、ギオニスどういうことなの?」


 リリスは弱った身体をなんとか保ち、ギオニスに問いかける。


「フェリス、支えてやってくれ」

「はい、ギオニス様」


 いつの間にか戻ってきていたフェリスはリリアの横に立ち、彼女の身体を支えた。


「ありがとう。戻ってきていたのね」

「はい。途中でギオニス様に会って。あの方はカタリナさんに預けました」

「そう。助かったわ」


 フェリスにそう言うと、リリアはギオニスに視線を戻した。


「なんで、大森林のドライアドが出てくるのよ」

「知らん。

 が、少なくともこいつらはドライアドに手引きされていたはずだ。

 じゃなけりゃ、あの大森林で俺たちの里を同時に襲うなんて芸当できるはずがない」

「そうだ。我ら魔王は大森林攻略のために管理者であるドライアドと手を組んだ。

 お前らは見捨てられたんだよ! 大森林からな!」


 リリアは混乱していた。

 森の管理者。正当なる裁定者。

 ドライアドは森そのものであり、森の秩序を守る守護者。

 森の民が行う樹霊祭はドライアドに魔力を捧げる儀式であり、ハイエルフとて例外なくそれに奉仕している。

 歓迎されるならまだしも切り捨てられる謂れがない。


「なぜよ!」

「さぁな。あいつらの考えることは分からん。

 が、俺様はあいつのおかげで強くなった」

「これで魔王に会わなければならない理由が増えたな」


 ギオニスはそうリリアに言った。

 おそらく今大森林に戻ったところでドライアドを見つけ出すことは難しい。

 確かに、ギオニスの言うとおりではある。


「悪いがさっさとお前を倒してこの戦争を終わらせるぞ」

「ふざけろ! ハイエルフさえ圧倒した俺様がオークごときに遅れを取ると思っているのか!」

「試してみるか」


 ギオニスは一足飛びにエンラの懐に飛び込んだ。


「バカが! 俺様の身は爆炎。

 精霊化したこの身にオークの拳なんぞ――がはっ!」


 振り抜いた拳がエンラを撃ち抜いた。

 くの字に折れたエンラの身体にギオニスは容赦なく次の拳を繰り出す。

 風に揺られる草のように、エンラが拳にうたれ左右に揺れる。


「貴様、なぜ俺に触れる!」

「黙れ!」


 大きく踏み込み、渾身の拳を打ち込んだ。

 エンラは支えるものもなく後方に大きく吹き飛んだ。


「凄い……」


 フェリスがそれを見て感嘆の声を上げた。

 振り返れば、ギオニスがまともに戦うところを見たのは初めてだった。

 これがギオニスの実力。


「貴様ぁ!」


 エンラの目の前に無数の魔法陣が浮かび、無数の焔の剣が一斉にギオニスを襲う。


「――戦闘態勢ッ!」


 その言葉と同時にギオニスの身体が本来のオークへと変貌してく。

 それを阻止するように、焔の剣が彼を襲いあたりに爆風と土煙を上げる。


「はははっ、これを喰らって無事に済むと思うな!」


 エンラの声に、フェリスが不安そうにリリアを見る。

 が、リリアはその視線を否定するように静かに首を横に振った。

 風が吹き、土煙が晴れるとそこには無傷のギオニスが立っていた。


「魔法無効化。

 あの姿になったギオニスを魔法で止めることは私ですら難しいわよ」


 万全のリリアが苦労した相手。

 エンラごときの魔法で止められるわけがない。


「くそぅ、いけ、マグマワーム!」


 エンラから飛び出したマグマワームがギオニスの身体にまとわりつく。


「ギオニス、そいつは魔力を食べるわよ!」

「食べる? 俺をか?」


 ギオニスが不敵に笑った。

 リリアの神籬ひもろき武装を貫いたマグマワームはその熱でギオニスの皮膚を焼く。

 が、マグマワームの燃える赤い光が徐々に暗くなり、土塊となって地面へ落ちた。


「不味いな」

「なっ、何をした!」

「何も? ただ、喰っただけだ」

「ふざけるな」


 マグマワームの焼け付く炎よりギオニスの自己治癒が上回っていたようで、そこに一つの傷もなかった。


「覚悟はできているんだろうな」

「くそっ、くそおおおぅぅぅ!」


 エンラが巨大な焔の塊を空に向けて打ち上げた。


「全員死ね!」


 打ち上がった炎が空で大きく弾け飛んで、焔のやりの雨となって降り注いだ。

 巨大な一撃ならまだしも、分散させて量で攻めたところでギオニスにとってダメージにすらならない。

 リリアとフェリスもそれらをかろうじてそれを避ける。


「それで俺を殺すつもりか?」

「はははっ……お前は強いよ。俺様よりもな」

「ようやく、諦めたか。

 さっさとこのどうでもいい戦争を終わらせろ」

「諦める? 俺様が?」


 エンラは不敵な笑みを浮かべた。


「お前は強いさ。

 だがな、こうしたらどうする?」

「ギオニス、マズイわ!

 あいつの狙いは私達じゃない!」

「もう遅い! 俺様に力を与えよ! 流転ノ魂ッ!」


 あたりに飛ばされた焔が魔力の塊となったエンラに戻ってきた。

 

「俺様が負けるはずがない――負け……負け……ああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 エンラが天に向かい咆哮を上げた。


「こいつ、意識が!」


 エンラが両手を上げると激しく地面を叩いた。

 エンラの身体が薄黒い溶岩になり目は真っ黒にくぼみ落ちた。


「やばいわよ。

 魔力落ちしたわ」

「な、何ですのそれは?」

「フェリスが自分の命を魔力に変換したときに言ったやつよ。

 あいつ、生命体としての命が完全に魔力に変換されてる。

 もう生きてはいないのよ」

「でも、あれは……」

「魔力生命体。

 災害と同じもう事象と化しているわ」


 エンラはリリアとギオニスをくぼんだ黒い闇色の目で見た。


「コロス。俺サマがマける……マケルわけガナ――イッ!」


 生命体としての命がなくなってもその恨みはまだ2人に向けられていた。


「厄介だな。恨みだけは残してやがる。

 リリア、俺がこいつを止める。

 その間に、周り全員どこかに持っていけるか」

「どこかって、この数を!?」

「これ以上、死人が出たら、俺でも止められんぞ!」


 ギオニスの言うとおり、これ以上命を使って強くなられると絶望しか見えない。


「分かったわ。

 でも、大丈夫?」

「はっ、何言ってんだよ。

 俺だぞ!」

「理由になってないわよ」


 エンラが唸り声を上げてギオニスに飛びかかった。

 鞭のようにしならせ振り下ろした手をギオニスが受け止める。

 その瞬間、激しい痛みに襲われギオニスが唸った。

 マグマのようなエンラの身体に触れギオニスの皮膚が焼け爛れる。


「早くいけ!」


 オークの自己治癒を上回る攻撃にギオニスの余裕がなくなった。

 リリアは分かったわと言うとフェリスと共にステップに蹴ってこの場から去った。


「さて、これで気兼ねなく殴り合えるな!」


 ギオニスが力を込め、エンラの腕を弾き返す。

 体勢を崩したエンラの胸に肩を当てると力強く地面を踏んで、その威力を相手に通す。

 エンラの身体がほんの僅か宙に浮く。

 ギオニスは両腕をぐっと後ろに引き、宙に浮いたエンラに向かい渾身の掌底を叩きつけた。


「オーク流 無手ノ型 葉止はどまり


 エンラの身体が空中で激しくのけぞる。が、衝撃を受けながらその身体は後ろには飛ばなかった。

 そのまま腕を折り、深く肘をエンラに差し込む。


流雷ながれかづち!」


 まるで空中で時を止められたかのようなエンラだが、ギオニスの肘を受けた途端それが解かれ、弾かれたように後ろに飛んだ。

 ギオニスは、自分の手のひらを見た。

 触れただけで両手が焼けた。

 肩も肘もだ。

 すぐに癒やされるが、それでも連続して殴り続けると自分にもダメージを受ける。


「オオオォォォォ!」


 獣のような遠吠えと共にエンラは立ち上がると自らの身体からマグマを撒き散らした。

 マグマはあたりの岩を溶かしながら、泉のように広がっていく。

 高熱で空気が歪む。

 相性が悪い。

 ギオニスはそう思った。

 近接格闘が主な攻撃手段のギオニスにとって相手に触れることは必須だ。

 それが同時に向こうの攻撃になる。

 そして、このマグマ地帯だ。

 いるだけでダメージを受け、さらに足場が悪くなる。

 いくらオークの回復が優秀だと言っても、マグマの中を駆け巡るほど優れてはいない。

 魔力生命体と言ってもそこには核がある。

 それを狙い胸を打ったが、どうやらそこではないようだ。

 リリアとのほうが相性が良いが、魔力喰いのマグマワームと戦場という環境がその実力を制限させていた。

 そういう意味では対策はバッチリだということか。

 これもドライアドの入れ知恵だろうか。


 じっと待っていてもいいが、今も断続的に魔力がエンラのもとへ流れこんできている。

 取り返しがつかないうちに早くけりをつける必要がありそうだ。

 だが、近寄るためには溶岩の海に入り込む必要がある。

 さすがにオークといえども溶岩の海に入ることはできない。


「なんて考えてるんだろうな」


 オークの武術の無手の型には相手を破壊する技のほかに様々な技術がある。

 例えば、呼吸法や睡眠法。その中に、歩行術もある。

 さすがに、溶岩の中を歩く方法はなかったが、それでも似たようなものがある。

 ギオニスは溶岩の中に一歩足を踏み入れたが、彼の足は溶岩の中に沈み込まなかった。

 本来は水面を歩く歩行術。

 それを応用した。


 ギオニスはそのまま溶岩の上を走り、エンラに向かっていった。



>> 第062話 第062話 助けたいの。ヒトも魔族も

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