第050話 同じポンコツ
冒険者ギルドの前に今回の採取に4人集まった。
当初はカタリナと件の勇者のみの予定だったが、アギナがどうしてもついていくと聞かなかったため、渋々了承することにした。
一応、ギルドからの秘密依頼という扱いらしくギルド長でもあるディンクからもくれぐれも頼むとお願いされた。
集まった3人を見てギオニスは気づかれないように小さなため息をついた。
厄介事ならリリアに頼んでほしかった。
気づかれないほど小さな溜め息のつもりだったが、横にいたカタリナは気づいたようで、すみませんと小さく謝った。
「アギナはこう見えて凄腕の格闘家なんです。
必ず戦力になれます」
ギオニスの溜め息をアギナのことだと勘違いしたようで、彼女のフォローを始めた。
だが、アギナはそんな話には気にも留めず、カタリナの髪に顔を埋めていた。
カタリナにとっては日常なのだろうが、ギオニスにとっては異常なそれ。
溜め息がさらに重くなる。
「改めて自己紹介しておくか、俺はギオニス。今回のマジョネムの新種を発見したので、その案内を頼まれた」
「私はカタリナです。
と言っても、もう皆さん知ってますね」
その場の雰囲気を何とか保とうとカタリナが明るく振る舞う。
「私は……スゥー……アギナ、ハァ……よ。
よろしく、スゥー」
自己紹介の合間にカタリナの頭の匂いを必死に嗅いでいる。
「僕は――」
異界の勇者が自己紹介を始めてもなんの躊躇もなくスゥハァ続けるアギナ。余りにも脇目も振らない様で続けるのが気になりすぎて、異界の勇者の紹介が全然頭に入ってこない。
カタリナも振り払えばいいのに全く動じていない。
こうしてみるとアギナの身長は高い。
カタリナが女性の平均くらいだが、アギナは頭一つ分くらい高い。
そのおかげか、ちょうど彼女の顔が、カタリナの頭の部分となりいい感じに頭のにおいをかげるらしい。
こちらが引くくらい必死だ。
「薬草の新種はかなり遠いところにあるんですよね?」
「あぁ」
その言葉に、異界の勇者は嬉しそうに口を開いた。
「なら、僕の飛行魔法で一瞬ですよ!」
彼の言葉にギオニスとカタリナが驚いた顔をした。
「あれ? 僕何か変なこと言っちゃいました?」
確かに飛んでいくという手段もありだ。
が、このまま飛んで行ったりしたら一瞬で、依頼が終わってしまう。
そうなると、何も調べられないまま依頼失敗だ。
異界の少年がその原理を洋々と語っている間、カタリナと小声で打ち合わせる。
「どうする?」
「何とか歩いていきたいんですが」
「俺としては少なくとも戦闘はみたいな」
素人を装っても隠しきれない動きというのは分かる。
一見した感じだが、彼の動きは素人のそれだが、戦闘となれば変わるかもしれない。
「やはり、徒歩にしましょう」
「どうするつもりだ?」
カタリナは任せてくださいと小さく口を動かした。
「――というわけなんです!」
「すごいですね! さすが、異界の勇者様です。
でも、私、高いところに慣れていないので、歩いていきたいです」
「飛んでみたら意外と気持ちいいですよ!」
カタリナの交渉とも言えない言葉は彼の一言でばっさりと切り捨てられた。
自分の時もそうだったが、彼女に交渉役は無理じゃないだろうか。
彼女はどうしたらいいかわからず、異界のそれがうきうきと話しているのをあわあわと聞いている。
同じポンコツでもリリアなら強引に自分の都合を通そうとするが、カタリナはなまじ相手に気を遣う分、後手後手に回ってしまっている。
「アギナも歩いていきたいだろう?」
「いや、私はどちらでも――」
「歩くほうが、カタリナと長くいれるぞ」
「もちろん。歩いていきたいわ!」
素晴らしい変わり身だ。
アギナはカタリナのそばに行くと、異界の彼に徒歩に行くべきだと熱弁を始めた。
カタリナを天秤にかけたらおそらくアギナは絶対に折れないだろう。
放っておいたらそのうち、異界の彼のほうが折れるはずだ。
しばらくすると、予想通り異界の少年がアギナの熱弁に負け徒歩で行くことに決まったみたいだ。
これで、時間にして2日。
往復で5日程度戻ってこられないことが確定した。
彼を見定めるには十分な時間だろう。
「じゃあ、早速で悪いが行くとしよう」
>> 第051話 異界君




