第047話 補佐足り得る存在
数えて38回目の失敗。
原因ははっきりしている。まだ、フェリスの魔力調整が拙いからだ。
龍星石を溶かすだけの火力はあるが、その制御ができていない。
魔法陣が構築できないので、龍星石の粉末化作業も止まっている。
粉末化はそれだけ聞くとすり潰せばいいだけだが、厳密には、その粒の粗さが問題である。
あまりにも細かすぎるとトラップが発動せずにすり抜ける。
トラップが反応し、かつ、一発で溶けるほどのサイズ。
結局のところ、フェリス次第なのだ。
炉の作り方も形状から耐久性に移行していた。
発動時に耐えきれるよう対魔力コーティングを施したが、それでもフェリスの魔法陣の威力は止められなかった。
グレーフィルはそれでもこれだけの威力の魔法を連発できることに驚いていた。
魔法だけで言えば、フェリスは商人にしておくには惜しい存在だ。
「1つの問題に指向性があるな。やはりあとは制御機構だ。力感覚をイメージできればいいが……」
豆腐を箸で持つようなもので、力を入れすぎては壊れてしまう。が、弱ければそもそも持ち上がらない。
手では簡単だが、箸ならそれが一気に難しくなる。魔法の制御はちょうどそんな感じだ。
ギオニスはそう例えようとしたが、恐らくフェリスに通じないと思い言うのをやめた。
「力がいるのにかかわらず、繊細さを同時に求められるのは難しいですわね」
ギオニスは「それな」と心の中で同意した。いい表現が思い浮かばなかった。が、少し格好悪かったので「あぁ」と難しい顔でうなずいた。
炉が縦長なので、威力は上下に逃がすように向きを調整し、再度、挑戦する。
粉が落ちて魔法陣に触れた瞬間、ドンと大きな音がしたが、威力はうまく上に逃げたようだ。
39回目にして、ようやく炉を壊さないで、原石を精製することに成功した。
炉が壊れずしずくが下に行ったのを見て、フェリスは大きいく安堵の息を吐いた。
「均一に万遍なくより、多少威力があっても上下に逃したほうが良さそうですわね」
「一枚ならうまく行きそうだな。ただ、下に行く時には、すでに冷えて固まってしまってるから、実用化するには最適もう一枚必要だな」
理想を言うなら、雫の状態で落ちて、鍾乳洞の石筍のように大きくなってもらいたい。
「何にせよ。
初の成功じゃな」
エンケリが出来上がりを見てまんぞくそうにそう言う。
ここに行くまでにかなりの時間が掛かった。
ラグリットとの決着の時までそう遠くない。
「はい。ギオニス様の言うように、次は二枚で」
炉に新たな魔法陣を作り、もう一度頂部から龍星石の粉を落とす。
粉末が一枚目の魔法陣に触れた瞬間、今までとは比べ物にならない音ともに、天井に大きな穴が空いた。
あまりの出来事に全員がポカンとその穴を見た。
「1番目の魔法陣の威力に2番目の魔法陣が反応したらしい。やはり、制御機構は必要だな」
ギオニスの言葉にフェリスが残念そうに穴の開いた炉を見た。
「今日はこれで辞めてもよろしいですか?」
「よいよい、ずっと連続で高位魔法を使っておったからな」
さすがに、疲れたらしくエンケリの言葉にフェリスは謝辞とともに深いため息をついた。
「では、また明日にお願いしますわ」
力なくフラフラ出ていったフェリスにギルドのメンバーは心配そうにその背中を見ていた。
夢見る宝石の工房を出てもフェリスはボーッと遠くを見ながら心ここにあらずと歩いていた。
「大丈夫か?」
流石に見かねたギオニスがフェリスに声を掛けた。
「さすがに成功しそうな後の失敗は堪えますわね。わたくしの力不足が原因なら尚更ですわ」
魔法のことについては、さすがにリリアの方が詳しい。
助言はできても的確な対処はやはりリリアに頼らざる得ない。
やはり、リリアに残ってもらった方が良かったなと思ったが、過ぎた話。
なかなか帰ってこないリリアも心配だが、このまま成功しないのは提案者として申し訳ない。
「ギオニス様が気に病んでくださらないで」
ギオニスの顔を見てフェリスは力ない笑顔でそう答えた。
「解決の糸口は見えてますの。後は一押し、誰かが手助けをしてくれさえすれば……」
「他人の魔法を構成中に割り込むなんて、それこそリリアでも難しいぞ」
乗っとるや壊すというのはまだ可能だ。
が、補助をするとなると話は別だ。そんなことが出来るような奴はそう都合よくいない。
「……」
ギオニスはふと足を止めた。
フェリスは急に立ち止まったギオニスを不思議そうに見た。
補助となると、そこに魔力的繋がりがいる。まるで二人三脚のように、同じ魔力を媒介にして、違う作業をする。
前を見ながら後ろを見るためのもう一つの目。それは他人ではなし得ない。
そんな都合の良い存在。
「フェリス……」
フェリスはギオニスの言葉に首を傾げながら返事した。
「いるじゃないか。
お前のパートナーが」
いた。
彼女と魔力的な契約をして、その一部を持ち合っている存在が。
「シロだよ!
魔力にも長けているあいつなら可能だぞ!」
シロならフェリスの補佐足り得る条件が揃っている。
「そんな事ができるのですの?」
「多少練習はいると思うがな」
フェリスはそれならばと笑顔を見せた。
今まで落ち込んでいた足取りとは打って変わって、フェリスは今にも走り出しそうなほど軽快な足取りでその道を歩いていった。
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