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第044話 宛ならある

 ギオニスが変種のマジョネムを採集して戻ってきたのは、その5日後。


 カタリナとギオニスがフェリスの家の前で周囲を気にしながら静かな声で話し合っていた。


「詳細は後ほど。

 すみませんが、このことはくれぐれも内密に」

「あぁ、分かった」


 深く頭を下げてカタリナが去った後、入れ替わりのようにフェリスとワグザがギオニスの前に現れた。


「何か、深刻そうでしたが」


 どうやらカタリナの表情に気を使って、出るタイミングを伺ったようだった。


「帰りが遅くなったことと関係があったのですか?」

「ん……まぁ、そうだな」


 ギオニスの歯切れの悪そうな言葉にフェリスも追撃の言葉を控えた。


「大したことじゃないんだ。

 ただ、思ったよりも足が遅くてな」


 ギオニスのその言葉に、ワグザがなるほどと小さく笑った。

 フェリスは意味がわからなかったらしく、どういうことですのと訪ねた。


「ギオニス様の足が早すぎたんですよ。

 あの神速で1時間の道のりなら、我々の足でどれだけかかることやら」

「結局、つくのに2日かかってしまったってわけだ」


 フェリスもそういうことですのねと小さく笑った。


「そういえば、本日早朝ギルドから連絡がありました。

 試作版ができたそうです」

「まだ、5日だぞ?」

「よっぽど楽しみだったらしく、まずは動かしてみたいということらしいですが、どうされます?」

「そういうことなら行くか」


 ワグザは出かける途中にと朝に焼いたパンを手渡してくれた。

 ギオニスはそれお食べながら、フェリスとともに宝石ギルドである夢見る宝石の拠点に向かった。

 ギオニスとフェリスがギルドホームに入ると、疲れ果てた表情のエンケリとグレーフィルが出迎えてくれた。


「問題点は分かっておる」


 ギオニスの顔を見るやいなや、すぐさま言葉が流れ出すエンケリにギオニスは一つ一つ丁寧にうなずいて聞く。

 表情は疲れ果てているが、その目はまだ興奮冷めやらぬようで、ギラギラと光っている。

 話を聞きながら工房入った瞬間、目を閉じそうになるほどの熱気と多くの視線がギオニスに集まった。


「ここ数日、ギルドメンバー総力を上げての作業じゃ。

 依頼の遅延がいくつか出るほどにな」


 決して広くない工房だが、そこに二十人近いメンバーが何かしらの作業を行っていた。

 その中心に鎮座しているのがギオニスが提案した龍星石を溶かす炉だ。

 炉と言っても、窯のようなものではない。

 鈍色の長い筒のような形を模しており、そのサイズはヒトの身長を有に超える。


 その上部に取り付けられた龍星石の原石を砕いた粉末。それがその筒を通り、雫となって下に溜まる。


「見てみろ、これを!」


 エンケリはそう言って興奮気味に小さな青い砂粒を見せた。


「知り合いの魔術師に頼んで、一発やってもらったが、確かにお前さんの言うとおり、原石の粉末は溶けて下に落ちた。

 だが、龍の息吹ほどの高威力の魔法陣。これを維持するのが大変じゃ。

 頼んだ魔術師は、魔力を使い果たして寝込んでおる。そんなので、連発するなんてとてもじゃないが、現実的ではない」


 と言いながら、一滴ほどでも小さな龍星石ができたことに興奮しているようではあった。


「やるなら、トラップ型だな」

「トラップ型?」


 ギオニスの言葉に、フェリスが不思議そうな顔をした。


「典型的なものは対象者が魔法陣を踏んだら発動するあれだ」


 ギオニスの言葉にフェリスはすぐに想像できたらしくそれなら知っていますとうなずいた。


「筒の中にその魔法陣を幾重にも重ねて上から原石の粉末を散らすんだ」


 粉末は魔法陣を通るたびに、熱せられ雫として落ちていく。


「課題は、粉末の粗さ、魔法陣の持続力、魔力消費、そして、直接熱せられないにしろ、筒の耐久力だな」


 課題は多い。


「宝石と炉の事なら任せろ。

 じゃが、魔法陣はどうする。

 さすがに、ワシには宛がないぞ」

「あぁ、宛ならあるぞ」


 と、ギオニスはフェリスを見た。

 ギオニスの視線に誘われるように周りがフェリスを見たものだから、彼女は驚いて一歩下がってしまった。


「わ、わたくしですか?」

「なるほど。ブラン商会のツテじゃな」

「いや、フェリス自身だ」


 ただでさえ、ブラン商会のツテでもそれほど高威力の魔術師が用意できるかわからなかったにもかかわらず、まさかその本人が指名されるとはフェリスも思ってなかった。


「さすが、わたくしでは……」

「いや、もうそのくらいはできるだろ」

「ギオニスさん。

 フェリス嬢は商人であって魔法使いではないですよ」


 フェリスの困惑にグレーフィルが助け舟を出す。

 が、ギオニスはそんなことお構いなしに話を続ける。


「リリアにあれだけ鍛えてもらっただろ?」


 鍛えるという言葉が合うかどうか分からないほどの苦行だったが、たしかに日が経つにつれ魔力量は上がっている。


「しかし……」

「どのみち、リリアが不在の今、フェリスしかいないんだ。

 お前が無理ならこれは頓挫するぞ?」


 ギオニスのその言葉に断れるはずもなく、フェリスは渋々うなずいた。


「彼女で大丈夫ですか?」


 不安そうなフェリスを見て、グレーフィルはギオニスにそう尋ねた。

 確かに一介の商人であるフェリスが魔術師が倒れるほどの魔法を使えるとは考えづらい。

 普通は、だ。


 ただの商人である彼女だが、その魔法の師匠はリリアだ。

 それも一度死にかけるほど魔力を通したのだからそれこそそこら辺の魔術師よりも力はある。

 ギオニスはいけるなと再度彼女に尋ねた。

 後に引けないことを分かっている彼女はグレーフィルの不安を掻き消すように勢いよく頷いた。


「リリア様には炎の魔法は教えてもらってないですが……知っている魔法でなら」

「それでいい。大事なのは密度だ」

「お前さんの宛がどうなるか分からんが、ワシらは続きに入るぞ!」


 エンケリの言葉にギルドメンバーはワッと湧いた。

 夢見る宝石に炉は任せるとして、こちらは炉の中の火力だ。

 フェリスを炉の前まで連れていき、改めて説明をする。


 円柱状に伸びたひと目では炉とわからない不思議な構造。その中に魔法陣を形作り、瞬間的に龍の吐息に近い温度に上げる。

 炉の温度を維持する従来とは違い、その瞬間だけで良い。

 だが、原石はその瞬間で溶ける程度のサイズまで粉砕しなければならな。

 好ましいのは下に落ちるまで断続的に発動する構造。

 ギオニスの言っていたトラップ型の魔法陣がそれに当たる。


「魔力供給はどうなさるおつもりですか?」


 トラップ型の魔法陣は魔法陣に有する魔力が尽きると自壊する。

 定期的なメンテナンスが必要となる。


「理想を言えば、炉の中を魔力で満たし、そこの魔力を使うようにしてほしい。一から魔法陣を組み立て直すよりも効率がいいはずだ」


 フェリスは不安そうにうなずく。

 彼女の人生で学んだ魔法の知識ではどれも高等な技術だ。


「まずは試しにやってみようか?」


 ギオニスのその言葉に、フェリスがうなずき、試作型の炉に魔法陣を張り巡らす。


「上手く行きますの?」

「まぁ、やってみないと分からんぞ」


 エンケリに頼み、原石の粉末を一掴みもらう。

 それを炉の上部にセットして、魔法陣の上にふりかける。


 降り落ちた青い粉がフェリスの魔法陣に触れた瞬間、激しい爆発音とともに、青い蒸気を噴き上げた。

 炉の周りを囲った青の蒸気が晴れると、そこには、まるで巨大なハンマーにでも殴られたようにいびつに傾いた炉があった。


「ははは、先は長そうだな」


 ギルドのメンバーは飛び散った青いかけらが龍星石だと気づき、歓声を上げた。

 飛び散ったかけらを見る感じ、火力は問題なさそうだ。後は調節だ。

 もっとも、これが一番難しいのだが。


 歓声の中、ギオニスは苦笑いを浮かべた。






>> 第045話 最弱の捨て石部隊

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