第039話 商人としての一面
翌日、皆に惜しまれながらリリアは街を出た。
驚いたのは、少し離れるとだけ説明しただけなのに、何人もの冒険者がリリアを見送りに来た。
不思議そうにカタリナを見ると、彼女は人気なんですと小さく笑った。
ギオニス的にはそうでなくても、南方ハレ的にはリリアは絶世の美女だ。
同じ価値観を持つヒト族にはさぞ美しく見えるのだろう。
強くて美しいハイエルフ。
言葉だけ並べると確かにと思うが、中身はただの戦闘狂だ。
本性を知って一緒にいられるのは俺くらいだろとギオニスは自嘲気味に笑った。
リリアを見送ると、ギオニスはフェリスとともにある場所に立ち寄った。
この街に拠点を置く鍛冶屋ギルド。それも装飾宝石を専門とする特殊職芸人があつまる専門ギルド《夢見る宝石》の拠点へと足を運んだ。
ギルドは巨大な親ギルドを筆頭に、小さな小ギルド、孫ギルドまである。
夢見る宝石もその例にはもれず、鍛冶屋ギルドという親ギルドの下につく小さなギルドのうちの一つだった。
規模も十数人という小さな規模であったため、拠点となるホームはは小さい工房だった。
その中でも一番広い部屋が応接間になっており、フェリスとギオニスはそこに通された。
装飾宝石を専門的に扱っているギルドの応接間なだけあり、中央には大きな円形の机があり、壁には美しい宝石が飾られていた。
ギオニスが見ても質がいい宝石だ。
そこに、年老いた白髪の老人と若い赤髪の女性、そして、短く髪を切りそろえた黒髪の男性が立っていた。
「突然の面会を快く受け入れて下さりありがとうございます」
部屋に入ったフェリスを見ると3人を見ると、そうにこやかに頭を下げた。
「いやいや、フェリス嬢にはいつもお世話になっていますからな」
3人のうち、白髪の老人はそう笑うと、フェリスに握手を求めてきた。フェリスはにこやかに微笑み返すとその手を握り返した。
「おや、今日はワグザ様はお連れではないのですね」
老人はそう言うと、ちらりとギオニスの方を見た。
「紹介が遅れました。
彼は、ギオニス。わたくしが尊敬している人物であり、今回の提案者ですわ」
老人はふむと頷くようにギオニスを見ると、ようやくフェリスの手を離した。
「ギオニス様、紹介が遅くなってすみません。
彼は夢見る宝石のギルド長であるエンケリ様です。
そして、その隣の女性がロゼッタ様、そして、男性がグレーフィル様です」
「よろしく頼む」
フェリスの紹介を受け、ギオニスが手を差し伸ばした。
それを見たエンケリは深く頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。ギオニス様」
エンケリに合わせて後ろの二人も頭を下げた。
あまりにも丁寧に頭を下げられ、ギオニスは空を切った手を居心地悪そうに引っ込めた。
「しかし、今回の話は驚きましたぞ。
龍星石の加工をしたいと」
「はい、ギオニス様がいい案があるということですので」
「大変、夢のある話ですなぁ」
フェリスの言葉に、エンケリが目を細めて何度もうんうんとうなずいた。
「いやいや、あの龍星石を加工しようなんて大変夢のある話ですな」
「では」
フェリスが言葉を続けようとした瞬間、エンケリがぴしゃりとフェリスの言葉を遮った。
「いや、我らは協力はしませんよ」
先程まで快く話を聞いていたエンケリからまさかの言葉に、フェリスは言葉に詰まった。
「な、なぜですか?」
エンケリはわざとらしく思案げに顎を触った。
「果たしてそれは可能なんでしょうか」
「それは……」
フェリスが心配そうにギオニスを見た。
「すまんが、それは断言できない。
だが、賭けてみたいと思ってその専門集団に声を掛けた次第だ」
はっきりとできるとギオニスが言わなかったことに、フェリスは心配になった。とはいえ、フェリスも商人だ。分かりもしないことを声たかだかにできると言い張ることほど不信になるということも知っている。
「しかし、試して見るにしてもその出費は誰が持つつもりで?」
「それは、わたくしたちブラン商会が全部持ちます!」
エンケリの不安を吹き飛ばすようにフェリスがそういった。
確かに、ギルドからしてみれば、支出のすべてを商会が持ってくれればそれほど美味しい話はない。
だが、美味しすぎるからこそ余計に疑わしく感じてしまう。
「我らがギルドも龍星石の加工は長年の希望」
「なら――」
「ならばこそ、宝石をよく知らないあなた方の案に易々と乗るわけにはいかんのですよ」
フェリスの言葉にエンケリが強く否定した。
「……たしかにそのとおりだ」
ギオニスはエンケリの言葉を肯定した。
「分かってくださいましたか。
では、本日は――」
「どうせ追い返すなら話を聞いてからでもいいんじゃないか?」
ギオニスはそう言うと手のひらから青く光る小さな宝石を見せた。
その瞬間、疑いの眼差し手でギオニスを見ていた3人の目がカッと見開いてギオニスの持つその青い石を見つめた。
「そ、それをどこで……」
「さぁ?」
ギオニスはそれを隠すように握り込むとニヤリと笑った。
「む……むぅ……」
エンケリは苦虫を潰したような顔を見せた。
「ロゼッタ、グレーフィル……どうじゃ?」
「あたしの見間違いじゃなければ……」
「俺もロゼッタと同じです。あれは……」
ロゼッタとグレーフィルの言葉を聞いて、エンケリは頭をうなだれ深く左右に振った。
「理由はどうであれ、それを目の前にして、追い返したら宝石ギルドの名折れじゃわい!
いいだろう、話だけでも聞きましょう」
「助かったよ。とはいえ、さっきも言ったが、成功するかは分からんぞ?」
「なに、支出はすべてブラン商会が持つんじゃろ?」
ギオニスの言葉にエンケリがニヤリと笑った。
「いいのか? フェリス」
エンケリの笑いを見て、ギオニスはフェリスに小さく耳打ちをした。
「もちろんですわ。
もし失敗したらブラン商会はラグリットのもの。
そう考えればここで資本を出すのもありですわ。
それに――」
フェリスの商人としての一面が一瞬垣間見えた。
「ギオニス様ならきっと成功していただけると信じていますわ」
フェリスのその屈託のない笑顔を見て、ギオニスは少し困ったように頭をかいた。
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