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第038話 南方ハレの記憶

 ギオニスがどんなものを売るんだと聞いてきたので、フェリスはワグザに声を掛け、いくつかの品を見せてもらうことにした。

 そんな会話を横で聞いていたリリアが思いもよらず私も見たいと言ってきた。

 戦うことにしか興味なさそうだったが、あれでも音に聞こえるハイエルフの姫だから目利きはできるはずだと期待して、リリアも含めてそれらを見ることにした。


「これになります」


 フェリスが袋からたくさんの石のかけらを机に出した。


「今回取引が成功したサンプルはこれだけですわ」


 フェリスが見せたのは鉱石のかけら。

 確かに高価なものもある。

 だが、どれも原石だ。そして、それ以下のクズ石も多い。


「言いたいことは分かりますわ」


 フェリスはギオニスの言わんとしていることを察た。

 鉱石は大体が発見者か加工手段を持つものが独占的に持つ。

 残りはおこぼれか価値のない鉱石。

 今の現状がまさにそうだ。


「これでも食い込んだほうですの。

 最も高価なものでコルメット星聖石。これ1つで馬が買えますわ」

「これなんかどうだ?」


 ギオニスはその中から、青い小さな石をつまみ上げた。

 それを見たリリアがあらと声を上げた。


「これ龍星石よね。

 加工されたものは小国なら傾くほどの価値を持つという宝石。原石みたいだけど……」


 リリアがギオニスの持つ石の説明を始めた。

 やはり、仮にもエルフの姫。目利きはそこそこできるらしい。


「価値があるのは加工した場合なのよね」

「はい。わたくしたちも同じ価値観ですわ」

「お前ら、加工方法は知っているか?」


「ドラゴンの喉笛ですわね」

「龍の喉笛よね」


 ギオニスの問いかけにリリアとフェリスが同時に答えた。

 龍星石は一度溶かして、再度結晶化すると息を飲むほど美しい青色の宝石ができる。

 その石は見た目の美しさだけでなく高い魔力純度を保ち、それを使って魔道具を作れば凡人さえ賢者になると言われるほどだ。


 口を開けば美辞麗句が並ぶその魔石だが、作り方の難易度が常軌を逸している。

 火龍の口の中、それも火を生み出す火炎袋のすぐ側にその石を置き、龍に炎を吐かせる。

 石の融点が高く、龍の吐息でしか溶けない。火炎龍の口から青い夜空のように垂れることから龍星石。


 龍種の中でも火龍はことさら神聖視されている。

 その実力も去ることながら古代種に連なる血統を持つ。

 実力的に言うなら、ギオニスやリリアでさえそれ相応の覚悟がいる。


「ショートブレスならまだしも、ロングブレスでしか作られないってのもまた難しいんだよな」


 威嚇ではなく、殲滅用ブレス。


「一応、過去の記録を遡りますと、何度か成功している例もありますの」

「ほう。どんなやり方だ?」

「牛のお腹に龍星石を詰め、ドラゴンに食べさせ、攻撃するという方法です」

「うまく行ったのか?」

「村が32個、街が4つ。

 数多の街道と港が壊され、死者の数は計上不明。

 その結果に目をつぶればうまく行ったと言えますわ」


 どう聞いても目を潰れる被害ではない。


「そもそも、ドラゴンという厄災の最中、そんなこと思いつき実行すること自体が異常なのですわ」


 龍との戦いとなればリリアもギオニスも総力戦だ。己の利益のためにそんなもの仕込んでいる暇はない。


 期限を考えても更に新しい商品を見つける時間はない。

 やはり、一発逆転を狙うならこの価値のない原石で龍星石を作り上げる他ない。


「龍星石を溶かす炉か……作るか……?」


 ギオニスが思案げにそう呟いた。


「あんた知らないの?

 龍星石を溶かす熱量の炉なんてできないわよ?」

「そうですわ。龍星石が溶ける温度になった時には炉の方が先に溶けてしまいますわ」


 龍星石を溶かす温度に耐えられる物質が存在しない。

 あるとすればそれこそ龍の喉笛だけだ。


 いっそう、龍を倒してそれを材料にと思いつくが、龍の死骸は生きている龍よりも耐久性に落ちる。

 死んでもなお一級品ではあるが、龍星石の温度には耐えられない。

 ギオニスもそれは知っている。

 が、ギオニスの中にある南方ハレの記憶がもしかしたらの可能性を思い浮かべた。

 彼にとっても信じられないが南方ハレの記憶の中には融解炉を使用せず宝石を純化する方法があるらしい。


「いや……いけるかもしれない……」


 成功するかは分からないが、南方ハレの記憶に挑戦するしかない。

 リリアとフェリスはギオニスの言葉にキョトンとした表情を浮かべた。



>> 第039話 商人としての一面

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