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第037話 犯し殺されそうになった相手

「それどういつもりなの!」


 リリアの怒声が屋敷中に響き渡った。

 フェリスの屋敷に戻り、ギオニスがリリアに事の顛末とこれからの作戦を話したら、これだ。

 同席したワグザとエジャその微妙な空気に沈黙を守った。


「急に怒るなよ」

「怒りたくもなるわよ。

 さっきのこともう一度言ってみなさいよ」

「いや、俺は今から魔王軍に入るつもりだ」


 今度はリリアは怒声を挙げなかったが、その目つきは一層鋭いものになった。


「私達の旅の目的を忘れていないわよね」

「もちろんだ」


 その言葉にリリアは無言で剣を抜くとギオニスに向けた。


「なら、あなたは今からエルフの民のかたきになるのね」

「待てって! あくまでもフェリスのためだ」

「どういうことよ?」


 それはだなと前置くとギオニスは説明を始めた。

 もちろん、商人の誓いで秘密になっていることは喋れない。


「で、あんたはその取引している魔王軍を潰すつもりね」

「あぁ。オークの俺なら自然に入り込めるはずだ」


 リリアは少し黙ると、心を決めたように口を開いた。


「その役割は私がやるわ」


 ギオニスは何いっているんだという顔でリリアを見たが、彼女の顔は真剣そのものだった。


「聞いてたか? 俺がオークだから行ける作戦だ。お前はエルフだろ」

「あなたには任せておけないわ」

「そうですよ。リリア様。ギオニス様のようなオークならまだしもハイエルフが魔王軍なんて不自然ですわ」

「あら、でも、ギオニスの村を襲ったのはエルフよね?」

「確かにそうだが……」

「恐らくそれはダークエルフですわ」

「なら、こうすればいいわよね」


 その言葉とともにリリアの肌が黒くなり、その瞳が赤く光った。

 フェリスはその姿を見て寒気が走った。

 残虐で嫉妬深いと噂される深淵に落ちたエルフ。

 噂に聞いたそのものの容姿がそこにあった。


「り、リリア様? その姿は?」

「魔力で表皮を少し変異させたのよ。これなら幻術じゃないからそう簡単に見破られないわ」

「魔力で身体を変異なんて考えられ――」


 そこまで言うとフェリスは口をつぐんだ。

 そんなこと考えられないというセリフはもう何度も言った。明らかに魔力への理解が彼女と自身とでは差がある。


「ギオニスあなたはにはやらせないわ」

「お前、もしかして……」


 ギオニスはやっとリリアが魔王軍に入りたかった意味を察せた。


「ただ暴れたいだけだろ!」

「な、何よ、悪い!?

 ついでに魔王軍も撃退できたらお得じゃない?」

「ただ暴れたいだけに大層な理由をつけてんじゃねぇ!」

「いいじゃない。私だって羽を伸ばしたいの!」

「冒険者ギルドで散々暴れてるんじゃねぇのかよ」


 その言葉にリリアの頬が軽く膨れた。


「足りない」

「むくれてんじゃねぇ!」

「いいじゃない、やらせなさい」


 こうなったら絶対に譲らないのがリリアだ。

 確実に自分の方がうまく立ち回れる自信がある。それでも、彼女なら実力的に危険なことはないだろう。

 万が一失敗したら盛大に笑ってやろう。


「分かった……なら、それはお前に任せる」

「任せなさい」


 何故か自信満々のリリアの顔にギオニスは諦めたように首を落とした。あたりの魔王軍が壊滅すればそれはそれでラグリットの思惑を潰すことになる。


「じゃあ、俺はフェリスを手伝うか」

「嬉しいお言葉ですが、もう販売ルートもほぼ確保いたしましたし」

「俺らの知識でもうひと手間加えられるかもしれないからな。

 あとで詳しく聞かせてくれ」


 フェリスは不思議そうにハイとうなずいた。


「じゃあ、私は明日から魔王軍の方に行ってくるわ」

「お前、簡単に言うけど宛はあるのか?」

「あるわけ無いでしょ。

 適当に行けば何とかなるわよ」


 まるで散歩に行くような軽いのり。

 この計画性のなさに、本当に大丈夫か心配になる。

 ギオニスとしては魔王軍に潜入して調べたいこともあったのだが、それはまたの機会にしたほうが良さそうだ。

 仮定の話をリリアにして真に受けて暴れられたら余計にたちが悪い。


「何よ、不満そうね」

「別に……」


 ギオニスはずっとあの大森林の出来事が気にかかっていた。

 あの広い大森林の中で迷わずエルフとオークの集落に行けるなぞよっぽどの運がないとありえない。

 誰かが手引きしたのだろうと。

 そうなれば誰が。というのが当然の疑問だ。

 やはり、もう少し魔王と呼ばれるものを調べる必要がありそうだ。

 ギオニスは図書館通いだなと頭を掻いた。


「よし、じゃあ、俺はちょっと調べたいものがあるから、フェリスさっきの話は夕食の時に、リリアは……まぁ、適当に明日のために準備しておいてくれ」

「じゃあ、しばらくギルドに行けないから挨拶でもしてこようかしら」

「わたくしはもう一度商談の資料を見直しますわ」

「では、夕食の時に」


 午後はそれぞれ思い思いの時間を過ごした。



----



 最初に部屋に戻ってきたのはリリアだった。

 中を一瞥するとつまらなさそうに席についた。


「お待たせして申し訳ございません」


 次いでフェリスが部屋に入ってきた。


「ギオニス様はまだ来られていないのですね」

「まったく、あいつが一番遅いのが腹立つわ」

「明日からしばらくリリア様は帰ってこないのですわよね」

「まぁね。まったく、あいつはなんであんなまどろっこしい作戦を考えたのかしら」


 単純に魔王軍を潰すだけなら二人で十分だ。それをわざわざ冒険者にまでなってやることだろうか。

 確かに世界を回るのに身分を保証するものがあれば楽なのは理解している。今ではその立場がある。

 でも、今回は違う。

 魔王軍に忍び込むと言っている。


「またあいつ何か企んでるのよ」

「ギオニス様は身体を動かすよりも頭を動かすほうが好きそうな感じですからね」


 フェリスの言葉にリリアは笑った。


「あははは、ギオニスには似合わない言葉ね。

 ったく、絶対、あれは私に気を使って勝手に抱え込んでいるのよ」

「優しい方ですから」


 フェリスのその言葉に、リリアはこれでもかと不満そうに声を漏らした。

 少なくともリリアにとって、犯し殺されそうになった相手だ。

 民の弔いと呪印が解決したらもう一度戦いたい相手なのだ。


「遅くなってすまない」


 ようやくギオニスが部屋に入ってきた。

 それを見たリリアは「遅い」と不満の声を漏らした。


「ちなみに、街にダークエルフが出たって噂があったが、お前だろ」


 ギオニスのその言葉に、リリアはゲッと嫌な顔を見せるとそのまま両手で耳をふさいだ。


「やっぱりな。

 あのまま行ったんじゃないかと心配したが、まさに的中か」

「フェリス、早く食事を持ってきて、ギオニスの小言が始まったわ」


 フェリスはくすくす笑うと分かりましたというとワグザを呼んできた。



>> 第038話 南方ハレの記憶

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