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第032話 オークの面汚しだな

「改めて、こちらはギオニス様、そして、こちらがリリア様。

 ご存知の通り種族はオークとハイエルフですわ」


 フェリスの言葉に合わせてディンクとカタリナが2人を交互に見る。


「お二人は古タダスの大森林からいらした方です」

「おい、まじかよ!」

「ほ、本当ですか!?」


 フェリスの言葉にディンクとカタリナは驚愕の声を上げた。

 フェリスもその驚きは理解できた。

 あそこに住むものがいるとは思ってもいなかった。


「詳しくは省きますが、訳あってお二人は魔王を追っています」


 事情に配慮してか、フェリスはギオニスたちの事情をぼかした。

 こちらとしてもそれはありがたい。


「それは、魔王軍と戦ってくれるということなのか?」


 ディンクがそう言うと、ギオニスは「いや」と前置きをして言葉続けた。


「俺達は、単に魔王に対して借りを返すだけだ。

 それ以外の、ましてやヒト族のために動くわけじゃない」


 森の外の世界だとはいえ、同じオーク族がここまで嫌われているのだ。

 ギオニスとしてそれは好感が持てるものではなかった。

 と、本来なら話はここで終わるのだが、ギオニスの中にはもう一つ厄介な記憶があった。

 南方ハレ。

 彼の記憶。

 ヒトであった彼の記憶は、そうはいかなかった。


「とはいえ、利害は一致している。

 できるだけ力になろう」


 ギオニスの言葉にリリアは意外そうな顔をした。

 実際、他者の争いの介入なんぞ厄介事にしかならない。

 あえて首を突っ込むなど物好きのすることだ。

 リリアもそれをわかっている。


「フェリス嬢。

 私からいいですか?」


 カタリナがおずおずと手を上げる。

 フェリスがギオニスとリリアを見ると、2人はこくりと頷いた。


「リリアさんはハイエルフと聞きましたが、円卓のハイエルフと関係がないんですか?」

「関係ないわよ。

 大森林には、ハイエルフはもっとたくさんいるわよ」

「えっ!? 本当ですか?」

「そりゃ、そうよ。

 なに、ここじゃ、ハイエルフってそんなに珍しいの?」

「珍しいってものじゃないですよ。

 永遠に近いほどの寿命を持ち、その魔力と知識は並ぶものはないと言われています。

 彼らを怒らしたら、国が滅ぶと言われています」

「それは、戦ってみたいわね」

「やめとけ。わざわざ、問題を起こしに行くなよ」


 ため息混じりにリリアを諌めるギオニス。

 が、そのハイエルフってのがそれほどまでに強いならギオニスも若干だが興味がある。


「すまん。俺からも質問がある。

 その、オークのことについてだが……」


 ディンクが口ごもりながらそう訪ねた。


「なんだ?」

「オークというのは、みんな、そのなんだ」


 ディンクはいいにくそうに口ごもる。


「みんな、お前みたいに変身するのか?」

「森の外は知らんが、俺達はそうだな。

 戦いに赴くなら尚更だ」

「とするなら、ヒトの姿で街に入り込んで、オークになることも考えられるということか……」

「ん? それは、オークが奇襲をする可能性か?」

「あぁ」

「ふざけるな! 俺たちオークがそんな卑怯な真似をするはずないだろう!」


 ギオニスの怒気がこもった声に場にいる全員がビクリと身体を震わせた。


「俺たちオークは一度たりとも奇襲なんぞしない!

 すべて真っ向からしか、挑んだことはないぞ!」

「あら、私の国を襲ったオークたちは、奇襲だったわよ」


 ギオニスの言葉にリリアが冷たく返す。


「オークの面汚しだな」


 ギオニスが吐き捨てるようにそうつぶやいた。


「とにかくだ。

 今、現状として、俺たちヒトは魔王とその配下たちと争っている。現実、その魔王軍にはオークがいる」


 ディンクはそう彼らに言い言葉を続ける。


「冒険者ギルドとして、積極的に関わることはないかもしれないが、それでも魔王軍防衛の仕事はないわけではない。

 場合によっては、強制参加もありうる。

 このギルドに所属する以上、オークとの戦いは避けては通れないことになるぞ」


 それは同族争いということだ。


「それが真っ向勝負なら問題ない」


 ディンクはギオニスの言葉に少し考え込んだ。

 その正体がオークである。

 それは冒険者であるディンクにとって、ギオニスの言葉は到底信じられるものではなかった。

 本当なら、今すぐにでも冒険者を集めて彼を退治しておきたいところだが、彼の実力がそれを止めさせていた。

 リリアという謎のハイエルフ。

 一戦して分かるその桁違いの実力。そのハイエルフたる彼女の実力と同等、それ以上と語っている。

 そして、バックにつくブラン商会。

 いや、正確にはフェリスだ。

 フェリスにはワグナとエジャという黄金級の冒険者がいる。

 クラスこそ中級だが、その実力はジュエルクラスと同等と言われている。

 彼を敵に回すということは、仮に彼の実力がなかったとしても、ハイエルフとフェリスの従者である2人の冒険者を相手にすることと同意だ。

 最悪2人の冒険者はともかくとしても、ハイエルフは敵に回したくない。

 

 幸運なことに彼が好意的であるならそれを一旦は受け入れたほうが良さそうだ。

 ディンクは顔を上げて、ギオニスとリリアを見た。


「分かった。

 リリア、ギオニス。

 特例だが、両名をこれから白銀クラスの冒険者とする」


 ディンクは2人を特例で白銀クラスにすることに決めた。

 だが、内心では何かしらの手を打っておいたほうが良いだろうと考えていた。


「ギオニス様、リリア様。

 すごいですよ。一日で、白銀クラスになるなんて!」


 ディンクの言葉にフェリスが喜びの声を上げた。


「とはいえ、異例も異例だ。

 手続きで少しばかり時間がかかるから待ってもらいたい。

 それと――」


 ディンクは慎重に言葉を続けた。


「古タダス大森林から来たことは伏せておいたほうがいいだろう。

 後、ギオニス、君がオークであることもだ。

 残念ながら、ヒトはオークに少なからず恨みと恐怖を抱いている。

 無用な推測を起こさないためにもここは秘密にしてもらいたい」

「俺は問題ないぞ」

「ギオニスがいいなら、私は問題ないわ」


 ギオニスの言葉にリリアが続いた。


「助かる。

 では、手続きが完了したらまた連絡しよう。

 それと、低ランクの依頼はこれ以上受けないでくれ」


 ディンクは困った顔でギオニスたちにそう願い出た。


「一応、他の冒険者の仕事がなくなるとギルドとしても困るからな。

 カタリナを通したら特例で高ランクの依頼をこなせるようにする。

 それも程々にしてくれ。

 ギルドの仕事がなくなるなんてことになったら他の冒険者が困ってしまう」


 ディンクの言葉にギオニスはすぐさま問題ないと返したが、リリアは少し不満げだった。



>> 第033話 逃げなさい

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