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第031話 お前が試験するほうじゃないぞ

 ディンクに連れられ、2人は別室に移動した。

 そこは何もない広い部屋で壁や天井に衝撃吸収の障壁がはられていた。


「模擬戦場だ。

 気兼ねなく戦ってくれ。

 じゃあ、どちらから行く」


 リリアが嬉しそうにギオニスを見る。

 もちろん私からよねと目が訴えかけている。


「はいはい、どうぞ。

 あと、手加減しろよ」

「何でよ」

「お前はやりすぎるところがあるからな」


 ここでリリアの魔法なんてぶっ放したらこんな薄っぺらい衝撃吸収の障壁なんてたちどころに消し飛ぶ。

 もともと、リリアの魔法には障壁貫通の特性がある。

 ギルド支部消滅なんてなったら当初の目的が達成されるかさえわからない。

 一応俺たちは、身分証をもらいに来たわけだからだ。


「じゃあ、エルフのお嬢ちゃんからだな。

 相手はカタリナと俺とどっちがいい?」

「あっ、ちょっとそれは――」


 ギオニスはリリアを制しようとしたが遅かった。


「両方かかってきなさい」


 彼女は嬉しそうにそう口を開いた。

 絶対リリアならそういうと思った。

 ギオニスはリリアの笑顔を見てため息をついた。


「おいおい、流石に俺たち2人は無理だろ。

 ちょっと、舐め過ぎじゃねぇか?」

「早くしなさいよ」


 リリアが早く早くと挑発する。


「ったく、俺だけでいいだろ?」

「何よ。腰抜けね。

 二人してかかってきなさいよ」


 その言葉にディンクが一気に距離を詰め、リリアを蹴り上げる。

 が、それとほぼ同時に氷の障壁がディンクの蹴りを止める。


「自動防御壁か……いるんだよ。

 自分のそれに過信するやつが」


 ディンクが拳を繰り出すが、それを氷の壁が受け止める。

 リリアはカタリナの方を見ると、手をちょいちょいと向けて

挑発をする。

 ギオニスは知っていた。

 リリアのそれは自動防御のたぐいじゃない。

 ディンクの攻撃は完全に見切られている。


「来ないなら私から行っていい?」


 リリアが氷の剣を一本作り出すと、それをカタリナに向けて投げつけた。

 瞬時にカタリナが炎の壁でそれを受け止める。

 強制的にリリアが2対1に持っていく。

 普通、そう仕向ける場合は、2が自分なのだが、リリアは好んで自分が1になっている。

 戦闘狂といっても過言ではない。


「リリア気をつけろよ。

 そいつメインは格闘じゃないぞ」

 

 その言葉と同時に、ディンクがいつの間にか手にした剣をリリアに振り下ろした。


「もう遅い、その程度の障壁では持たんぞ!」

「別に受け止めるだけが障壁じゃないわよ」


 リリアが障壁を斜めにして剣を受け流す。


「なっ!」


 ディンクが受け流され、驚き後ろに飛び跳ね距離を取る。


「距離を取ったらダメよ」


 剣と魔法の融合で戦うリリアに取ったら中距離が間合いだ。

 その瞬間、氷でできた剣が四方からディンクを襲う。

 彼はそれをなんとか凌ぐが、手数が多すぎて防戦一方になる。

 カタリナがなにか呪文を唱え、ディンクにかける。

 突如、彼の動きが倍速化し、放たれた剣をすべて叩き落とした。


「あら、早いわね」

「剣速倍加のバフです。これで手数では勝負できませんよ」


 カタリナがディンクを補助する。

 傍から見ると、どうしてもリリアが悪者に見える。


「穿て炎帝の矢!」


 カタリナがリリアに向かって炎の矢を打つ。

 が、同時にリリアの氷の剣がそれを迎えうち、炎の矢は空中で凍りつくと落ちて砕けた。


「甘い、甘い」

「だろうと思ったぜ」


 ディンクがいつの間にか低い姿勢でリリアの足元にいた。


「少しは痛い目みるが我慢しろよ」


 剣を振り上げリリアの額を狙う。

 殺すつもりじゃないだろうなと思う攻撃。一応、よく見ると刃は潰している剣だ。

 とはいえ、金属の塊で頭を殴られて無事とはいかんだろうとギオニスは思った。


 完全にリリアを捉えたと思ったディンクの剣が宙を空振る。

 もっとも、リリアにそれが当たればだが。

 あの程度の剣速で当たるなら俺が苦労しない。


「少し遅いわね」


 空振った剣の少し後ろにリリアの顔がある。

 完全に遊んでいる。

 というか、ドラゴンを倒したと言う割には2人が弱すぎる。

 これが大森林の外の実力なのだろうか。


「ちゃんと本気だしなさい」

「おい、リリア、お前が試験するほうじゃないぞ」


 一応こちらが試験される側なのだが。

 リリアはそんなことお構いなしだ。


 氷の剣が宙に浮かびそれがカタリナを襲う。

 同時に、リリアは剣を取り出すとディンクに斬りかかる。

 氷の剣は一本ずつ、カタリナを襲う。

 カタリナは必死でそれを魔法で撃ち落とすが、性格が悪いことに、その速度はカタリナが丁度防御できる速度よりも少し早い速度で襲ってくる。

 同時にディンクに対しても鋭い剣戟をくり続ける。

 それもまた、ディンクが防御するよりも少し早い速度で斬りつける。


「ほら、集中しなさい」


 どっちが試験する側かわからない。

 ディンクはくっと悔しそうに声を上げる。


「まったく、だらしないわ。

 あなた達が遅いからできちゃったじゃない」


 リリアの後ろに巨大な魔法陣が浮かび上がった。

 氷の剣とリリアの剣戟が止まった。

 その瞬間、巨大な氷塊が魔法陣から飛び出し、カタリナとディンクの目の前で止まった。


「これで、実力は認められたかしら?」


 リリアは2人を見てニコリと笑った。

 呆然としている2人。

 リリアがだした氷塊は砕け、宙に霧散した。


「あら、足りない?」

「あっ、いや……」


 なんとかディンクが言葉を返した。

 最初の勢いはどこへやら、ディンクは言葉をつまらせ、カタリナは床に座り込んでいた。


「やっぱり、室内じゃ中型の魔法くらいしか使えないわね」


 リリアは少し不満そうだった。


「ちょっと待ってくれ、これよりも巨大な魔法が使えるのか?」


 ディンクが驚いてそう叫んだ。


「こんな小さい魔法で何驚いているのよ」

「小さいっていや……あんたはハイエルフみたいなことを」

「みたいじゃなくて、ハイエルフよ!」


 リリアは自分の耳を指しながら怒り出した。

 どうも、大森林の外の人間はエルフとハイエルフとの差がわかっていないようだ。


「まさか……古代の円卓に選ばれた36のハイエルフだとは……」

「だから、何なのよその36人は。

 私はそれと関係ないわよ!?」


 ディンクはリリアの言葉に完全に言葉を失った。


「んじゃ、次は俺か」


 疲れているところ悪いが、リリアだけ例外にされたら困る。

 俺も免除してほしい。


「ちょっと、待ってくれ、あんたも彼女と同じくらいの強さなのか?」

「いや、同じくらいじゃないぞ」


 その言葉にディンクは安堵の表情を浮かべた。


「俺のほうが強い」

「はぁ!?」


 ギオニスの言葉に真っ先に噛み付いたのは他でもないリリアだ。


「何だ、文句あるのか?」

「私のほうが強いに決まってんでしょ?」

「俺に負けたくせに」

「樹霊祭のあとで襲っておいて勝ったとはいい度胸じゃない。

 どっちが格上かわからせてあげるわ」

「リターンマッチなら受け付けてやるよ」


 ギオニスは大きく息を吸った。


「――戦闘態勢!」


 その言葉と同時にギオニスの身体が変異していく。

 それを見たカタリナが小さく悲鳴を上げた。


「お、オーク――」


 目の前の青年が魔王の尖兵と恐れられたオークに変わり、カタリナは恐怖に襲われた。オークの噂は知っているし、冒険者として彼女はその惨劇を見たこともある。

 が、臨戦態勢に入った2人にはそんなことお構いなしだ。


「呪印は使うつもりじゃないでしょうね」

「そんなので負けても納得しねぇだろ。

 きっちり負かしてやるよ」

「後悔しないでよ」


 リリアの身体に黄金色の魔力が覆う。


「ギオニス様! リリア様!」


 まさに、ギオニスとリリアが戦いを開始しようとした瞬間、その部屋にフェリスが飛び込んできた。


「ギルドから問い合わせがあって来たのですが、一体どうなっておられるんですか」


 フェリスとしては身を案じて来たのだろうが、なぜかそこには本気になっているギオニスとリリアの姿があった。


「フェリスか。商談の方はどうなった?」


 ギオニスがフェリスの方を向いた。

 オークの姿に慣れていないフェリスはその顔に一瞬躊躇したが、それがギオニスと知っているからこそ止まらず近寄ってきた。


「まだ準備ですわ。

 冒険者ギルドからお二人について質問がありましたの」


 リリアが小さくため息をついて、神籬ひもろき武装を解いた。


「まったく、気が削がれちゃったじゃない」


 それに合わせてギオニスも戦闘態勢を解いた。

 オークの姿から青年に戻ったのを見て、ディンクもカタリナも何が何やら理解できなかった。


「ちょっと待ってくれ、フェリス嬢。

 状況を説明してくれ」


 憎むべき魔王の尖兵がヒトの姿をしたのか、その逆か。ハイエルフがなぜここにいるのか。

 ディンクにしてみれば、唐突にわけのわからない状況に整理しきれないでいた。


「わたくしからお話します。

 まずは、場所を変えましょう」


 フェリスの言葉に全員が一旦その場を離れることにした。



>> 第032話 オークの面汚しだな

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