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第030話 私たち疑われてるの?

 依頼分を抜くと、2人はギルドに戻ってきた。

 ギルドの依頼で動いている場合は、別の城門から出入りすらしい。そこからならすんなりと入れた。

 中の住人が出て入る場合は、簡単に出入りできるようだ。


 ギルドに入るとカタリナと視線があった。


「お疲れ様です。採集できましたか?」

「あぁ、ばっちりだ」


 ギオニスとリリアが嬉しそうに取ってきた薬草を見せる。


「確かに、マジョラムですね。お疲れ様で――ん?」


 笑顔で出迎えてくれたカタリナだが、その薬草を見た瞬間怪訝そうな顔つきに変わった。


「えーっと、それは?」

「マジョネムじゃないのか?」

「えーっと、たしかにそう見えますが……」


 カタリナは複雑な顔を見せた。

 受付にいた他の女性に何度か言葉を交わすと、受付から出てきた。


「鑑定所にいきませんか?」


 カタリナに連れられて鑑定所に向かう。


「依頼書と依頼アイテムをだしてください」


 鑑定所にそう言われ、依頼書をカタリナが、ギオニスがマジョネムを出す。

 その2つを見比べ、鑑定所に座っていた男性がじっとそれを見る。


「確かにマジョネムですが……」


 意味深な言い方にギオニスとリリアは困った顔をした。

 確かに、マジョネムを見たことがなかったので、間違っているかもしれないが、そんなに変なものを取ってきたわけじゃない。


「間違ったものを持ってきてしまったか?」

「いや、間違いないが……」


 鑑定所の男は黙り込んだ。

 男は困ったような顔で視線をカタリナに向けた。

 カタリナもそれ受けて、ギオニスの持ってきたマジョネムを取りじっと見る。


「これ……木漏れ日の林から取ってきたんですよね」

「おう。ここから走って1時間くらい走ったところにある場所だろ?」

「えぇ、そこです」


 カタリナの困惑の表情は取れない。


「間違いないです。マジョネムの変種ですね」

「えっ、間違ったものを持ってきちゃったか?

 依頼失敗?」

「いや、えーっとそうですね。

 依頼としては……どうしましょう……」


 カタリナも困ったみたいだ。


「木漏れ日の林でマジョネムの変種……

 これってどこに生えてました?」

「入ってしばらくした場所にあったよな?」

「ええ」

「たくさんあったからそんなに隠れた場所じゃないぞ」

「たくさん? マジョネムは群生しませんよ!」

「えっ? そうなの?」


 確かに、古い大きな木の根本にたくさん生えていた。


「依頼は完遂とします。

 これはちょっと預からせてもらっていいですか?」

「依頼を完遂させてくれるなら問題ないぞ」

「ありがとうございます」


 カタリナは鑑定所の男となにか話すと、奥へ行った。


「じゃあ、依頼の続きやるか」

「そうね。どんどんやっていきましょう!」


 どうも、リリアは楽しかったらしい。

 リリアと相談した結果、依頼を端から順番にこなすことにした。


 薬草の採取、迷い猫の捜索、害獣退治。

 薬草も場所が分かれば、簡単だった。目的地が分かれば、そこにつくまで10分もかからない。

 さらにリリアのステップに乗れば、往復10分もかからない。

 迷い猫は感知で見つけ、害獣は害獣退治後、害獣よけの魔石を渡す。

 退治や捜索は完了証明書を本人に書いてもらうことでそれを受付に持っていくだけで終わる。

 こなれ始めると、二人して別々に動くことにした。

 どちらが多く依頼をこなせるか勝負をし始めると更に依頼達成の速度は上がっていった。


 日が傾き始め、あたりに夕方の気配が忍び寄ってきた。


「っしゃ、最後の一枚!」


 左の壁にある最後の依頼を目的のアイテムとともに鑑定所に持ってくる。


「あっ、ありがとうございます……」


 鑑定所の男が戸惑い気味にそう答えた。

 と同時に、リリアが戻ってきた。


「あっ、私がやろうと思ったのに!」

「へへ、残念だったな」


 後半、城門を通るのが面倒だったので全部飛び越えていった。

 お陰で達成スピードが飛躍的に上がった。


「で、何枚こなした?」

「35枚よ。そっちはどうなのよ」

「勝ったな! 38枚」

「あぁ、悔しい!」


 よっぽど悔しかったのだろう。今にも地団駄踏みそうだ。


「明日は勝つわよ!」

「どうかな?」


 ギオニスはリリアに勝って上機嫌だった。


「すみません。よろしいですか?」


 2人の会話に割って入るようにカタリナが言葉をかけた。


「どうした?」

「あの、少し奥に来てもらっていいでしょうか?」


 カタリナの言葉に、ギオニスはリリアに視線を送った。彼女も問題ないらしくいいわよと答えた。


 カタリナに連れられて、ギルドの奥に入っていく。


「この部屋で待ってもらっていていいですか?」


 カタリナが通した部屋は大きな机といくつかの椅子があった。

 壁には見たこともない絵に、見たこともないモンスターの羽や牙が飾られていた。


「すぐに戻ってきますので、お待ちください」


 そう言うと、カタリナは部屋の外に出ていった。


「なんか、俺たちまずいことでもしたのか?」

「そんなの私に聞かれても困るわよ」


 それはそうだが、不安になってしまう。

 大森林の外の常識がないのは自覚しているが、それほど変なことをした気もしない。


 少しすると、カタリナと見たこともない男性が部屋に入ってきた。


「はじめまして、ここのギルドマスターをしているディンクだ」

「ギオニスだ」

「リリアよ」


 席につくように促したので、ギオニスとリリアは席についた。

 ついで、ディンクとカタリナがその対面に座った。


「話は聞いている。

 やってくれたもんだ」


 ディンクは困った顔を見せた。


「なにかしたか?」


 ギオニスは警戒しながら言葉を返した。


「なにかしたかだって?

 大アリだよ。一日、いや、半日で、低ランクの依頼をすべて片付けただって? そんなこと前代未聞も甚だしいぞ。

 それにだ……」


 ディンクは机の上にマジョネムをだした。


「マジョネムの変種。いや、新種だ。

 こんなもの見つけやがって」

「まずかったのか?」


 ギオニスの言葉にディンクは天を仰いだ。


「カタリナから報告を受けて木漏れ日の森に何人か派遣したが、この新種は見つからなかった。

 君たち2人はブラン商会と繋がりがあるようだな」


 確かに、ここを紹介したのはフェリスだ。


「商人から買ったもので依頼達成することは認められている。

 が、今回はやりすぎだ。いくら払ったんだ?」


 要するにギオニスたちは不正を疑われている。

 彼らの実力ではなく、バックにいるブラン商会の力で解決したと思われているわけだ。


「生憎だが、フェリスは関係ない」

「なに? 私たち疑われているの?」


 リリアもようやくそれに気づいたようで、不機嫌な顔をした。

 

「状況からの推測だ。

 いくらなんでも解決が早すぎる」

「とは言われてもな。

 どうやって無実を証明したらいい?」


 ディンクはもう一つ机の上に石を取り出した。


「これは?」

「あぁ、害獣よけのお守りね。

 困っているようだから渡してあげたのよ」


 リリアが変わりに答える。


「どうやって作ったんだ?」

「単純に魔石を精製しただけよ。

 一定周期で魔力波を出すだけの単純な代物よ」


 弱い獣はそれを受けて逃げ出す。

 リリアの言葉に、カタリナもディンクも困った顔を見せる。


「率直に言おう。

 こんなものは我々では作られない。

 君たちは錬金術師かなにかか?」

「違うわ」


 ディンクはため息をついた。


「君たちは何者だ?」


 その言葉に、2人は口をつぐんだ。

 大森林からというのは簡単だ。

 が、すでに、自分たちはフェリスとの関係を示唆されている。

 下手なことをすると彼女にまで迷惑を被る。


「そこは黙秘をするわけか。

 いいだろう……」


 ディンクは立ち上がった。


「もともと、冒険者ギルドは『身元は関係なくできるやつがいればいい』というところから始まったんだ。

 2人の実力を見せてもらおうか!

 俺を認められるくらいの実力なら、今回の問題は不問にしてやる」


 それだけで不問にしてもらえるならありがたい。

 相手はドラゴンを倒すほどのものだ。

 一筋縄では行かないが、実力を示すだけなら問題ないだろう。


「タッグ戦でもソロでもどちらでもいいぞ。

 相手は俺とカタリナでやる」


 カタリナは軽く会釈をした。


「この子も戦えるのか」

「ははは、冒険者は荒くれ者が多いからな。

 それくらい受け流せるやつじゃないと受付にもできないからな」


 拳で解決できる。リリアは単純で楽だわと喜んだ。

 さすが脳筋エルフ。

 ギオニス的にはあまりやりたくなかった結果だが、後腐れないならそれも致し方ない。


「じゃあ、それぞれやらしてもらうわ」


 真っ先にリリアが提案した。

 こいつはただ戦いたいだけのようだ。

 ギオニスはため息をついて、それでお願いすると続けた。



>> 第031話 お前が試験するほうじゃないぞ

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