第026話 楽しい地獄
「この度は本当に申し訳ございません。」
従者ともども深く頭を下げたのは、他でもないフェリスだった。
事実だけ見れば、粗相をしたのは従者の2人だ。
それも主人であるフェリスに内緒にというだけに弁解の余地はない。
もっとも、二人共フェリスを思ってなのだから、ギオニスからしたら同情の余地はあったが、エルフのお姫様はそうはいかなかったみたいだ。
「フェリスの罰ゲームをきつくするか、2人にも参加してもらうか……」
不吉なことをブツブツとつぶやいている。
「それもこれも主人であるわたくしの責任です。
ギオニス様とリリア様にはどのようなお詫びでもいたします」
「いえ、お嬢様は関係ありません。
わたくしめの独断でございます。
責任はわたくしめに!」
責任は自分が取ると主張するワグザに、従者の責任は主の責任とするフェリス、エジャはずっと青ざめたまま黙り込んでいる。
「暗闇……いや、一層、五感を封じようかしら……」
フェリスやワグザには悪いが、早く結論を出さないとリリアの罰ゲームがどんどんときつくなっていく。
もうすでに想像の罰ゲームが楽しくなっているようで、ニコニコしながら妄想を楽しんでいる。
「えーっと……」
収集がつかなさそうだと判断したギオニスが口を開いた。
「大森林にもワーウルフはいる。
彼らは律儀で義理深い。フェリスに忠義を尽くしているならあの行動も納得できる。
ので、俺からは不問にしたい」
「ギオニス様の慈悲深いお言葉感謝いたします」
フェリスはホッとした表情を浮かべると、ギオニスに深々と頭を下げた。
そう、ここは忠誠心のための小さなミスで温情措置という心温まるエピソードで終わるべきなのだ。
にもかかわらず、ギオニスの言葉に空気を読まず驚きの顔を見せているのは、横で楽しい妄想に耽っていたリリアだった。
「えっ? 罰ゲームは? 楽しい地獄の猛特訓は?」
楽しい地獄の猛特訓という矛盾に満ちたパワーワード。
楽しいのはお前だけだ。
という言葉は口にはしなかった。
「五感を封じてバトルロワイヤルまで考えたのよ?」
リリアはフェリスたちに地獄でも見せたいのだろか。
ワグザやエジャは知らないだろうが、リリアは本当にそれをやる。
フェリスだけはその事実を知っていたので、リリアから出た地獄しか想像できない言葉に冷や汗が出る。
「リ、リリア様がやれ……というなら……」
ギオニスは「俺は」不問とすると表現した。
フェリスもその意図を理解していてた。
「このワグザ、フェリス様のためなら何でもいたします!」
「わ、私もです」
ワグザに続いてエジャもうそう言葉を放つ。
安易に言うなよとギオニスは心の中で思った。もちろん、これも言葉にはしなかった。
「じゃあ、いいのよね」
リリアの顔がパッと明るくなった。
なんで、そこで喜ぶのだろうか。
「もちろんだ。このワグザ、お嬢様のためなら何でもやろう」
それはさっきも聞いた。
フェリスはワグザの言葉を聞いてそこら辺で抑えてほしそうにあわあわしながら彼の顔を見る。
気持ちはわかる。
たいてい無茶なことをするので、やりたくないのだろう。
だが、ここまで乗り気のリリアを誰が止められようか?
少なくともギオニスは止めたくなかった。
なぜなら、巻き込まれるかもしれないからだ。
「フェリスに感知魔法って教えてないわよね?」
「は、はい」
「まぁ、実地で覚えてね。今、フィールドを作ったから」
「作った?」
その瞬間、何もない空間にぽっかり穴が空いた。
まるで、目の前に虫食い穴が空いたようにポッカリと暗闇が空いた。
「異空間魔法ですの!」
フェリスはそれを見て大声を上げた。
「ありえない……そんなことができるなんて」
エジャが目の前のそれを見てまだ受け入れないでいた。
収納結界の応用版だ。
一軒家くらいの広さならギオニスもできる。
この中では魔力が満たされており、ある程度所有者の好きに設定できる。
が、リリアの魔力ならその広さは更に上だろう。
感覚封印とつぶやいていたのだから、状態異常から呪いの類まで大盤振る舞いだろう。
「ギオニスも来る?」
「遠慮しておくよ」
誰が好き好んで地獄へ行かなければならないのか。
ここはきっぱり丁重にお断りだ。
「じゃあ、しばらく遊んでくるわね」
リリアがその中に入った瞬間、フェリスたち3人の足元が急に消え失せ暗闇へと落ちていった。
音もなく落ちていった彼らを見送ると、その穴は閉じた。
何もないいつもどおりの空間。
静かだ。
「ふむ……」
朝早くに起こされたのだ。
もう一眠りするとしよう。
ギオニスは、部屋に戻ると二度寝を楽しむことにした。
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