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第023話 ポンコツ感

「私は魔法使いを出すわ!」

「お、お前……」


 リリアはじゃんけんをする前にすでに勝ち誇ってそう言った。

 リリアの言う魔法使いはじゃんけんのパーにあたる。

 彼女の言った必勝法とは、どうやらこの事のようだ。

 リリアの言葉は、真実か嘘か計りかねる。

 そう、リリアは虚言を呈することでギオニスを混乱させようとしたのだ。

 ギオニスが言葉をつまらせたのを見て、リリアは満足そうに微笑んだ。

 

 が、ギオニスはどちらかというとまさかの小学生レベルの必勝法に笑いを隠すので精一杯だった。


「ギオニス、あなたには想像できなかったでしょうね!

 盤外の話術。私はこれを甘き誘惑カリオルージユと呼ぶわ」


 リリアは小学生から中学二年生にレベルアップした。

 では、なく、その自信満々の顔がリリアのポンコツ感を更に際立たせる。


甘き誘惑カリオルージユ……凄まじいな……」

「ふふ、そうでしょ」


 凄まじい恥ずかしさだ。

 ふふじゃねぇよと突っ込みたい。

 俺、パーを出すからなレベルの戦術に大層な名前がついた。


 まぁ、所詮、じゃんけんを覚えたばかりのレベルだ。

 小細工なしの大人の厳しさを教えるには丁度よいかもしれない。


「そっちが、その気ならこっちはこうだ」


 スッと大きく息を吸った。


「戦闘態勢ッ!」

「なっ、卑怯よ!」


 ギオニスの姿がヒトのそれからオークに変わる。


「さすがに、呪印の力は使わねぇよ。

 言葉は発しないと約束しよう」


 命令にならないように言葉を選びながらリリアに弁明した。

 彼女からしたら、呪印で強制的に勝負しに行ったように見えたんだろう。

 が、そこまで卑怯ではない。

 正々堂々勝ちに行くわけだ。


 先程、リリアにルールは公平だといった。

 そう、ルールは公平だ。


 あくまでもそれは勝敗に関することで、それ以外の方法は定めていない。

 戦闘態勢に入ったギオニスの目ならじゃんけんの最後の瞬間まで相手の手が見える。

 そこから高速で手を変えればいい。


 いわば、ルールに則った究極の後出し。

 これが、ギオニスの必勝法だ。


「そういうことね。なら、私も考えがあるわ。

 じゃんけん――」

 

 突然、リリアはじゃんけんの掛け声を始めた。

 リリアはすでに手が決まっているらしく、手を出している。

 どうやら、最速でだしてこちらの後出し負けを狙ったようだ。

 次から次へと小細工を思いつくやつだ。

 だが、戦闘態勢に入っているギオニスにその程度の小細工は無意味だった。

 リリアに合わせて高速で手を出し、読まれないように手をすばやく入れ替えていく。


「ぽ――」


 その言葉とともにリリアの手が止まった。

 手は格闘。要するにグーだ。

 こちらは、パーを出せば勝ちだ。

 ギオニスは自身の手をパー変えた刹那、リリアが再度手を振り上げた。

 最後の「ん」の掛け声がない。

 ギオニスは卑怯だぞと言いかけたが、ギリギリでその言葉を飲み込んだ。

 言葉を発しないという約束だ。

 これはルールの上の戦術。

 が、どのような策を練ろうとも戦闘態勢の目からは逃れられない。

 次の瞬間、リリアの右手のみが黄金色の魔力に包まれた。

 ひもろぎの部分開放。

 ギオニスの戦術を理解して、それについていくつもりだ。

 ご丁寧に、目の部分も強化してある。


 二人位の間で、高速で手の変更が繰り返されている。

 ここにきて、ギオニスは若干の後悔を感じた。


 掛け声をリリアに任せたことだ。

 これで彼女は好きなタイミングで手を決定できる。

 最悪そこから手を変えると後出しになる可能性もある。

 ギオニスは視線を上げた。


 ならば、見るべきは喉。

 気道を動かし、発生の瞬間を探す。


 リリアは残り一文字を残し、終わりのタイミングを自分のタイミングで決められるようにして、ギオニスを追い詰めたようだが、逆に発生するということは、同時にはじゃんけんの終わりを指す。

 発声の瞬間、さえ逃さなければ勝ちだ。

 リリアを凝視しながらも手は高速で変えていく。

 段々と、手先が重くなる。


 次の瞬間、リリアの気道に僅かな動きが走った。

 発声の前触れ。

 ギオニスは瞬時にリリアの手を見た。

リリアの手はパー。

 ならば、チョキだと自分の手を見た瞬間、自分の手を見て驚いた。

 いつの間にか手がグーのまま氷漬けになっていた。

 視線を自分の手からリリアに移した瞬間、手先が重くなったのを感じたのはこれが原因だった。

 手が拳を握ったまま固まってしまった。

 これでは敗北は必至だ。

 リリアがニヤリと笑ったのが見えた。


 やりたくはなかったが、先に手を出したのは、リリアだ。

 小さく息を吸い込んで、リリアに向ける。


「ハッ!」


 指向性の咆哮。天帝の慟哭デンタロウスをリリアにぶつける。

 強制的に身体を縮こませ、麻痺状態にする。

 声は出したが言葉は出していない。

 約束通りだ。

 ギオニスの声に、窓ガラスが揺れる


「んっ!」


 リリアが天帝の慟哭デンタロウスを受け、身体がこわばった。

 縮こまった腕は強く握りしめられていた。


 少しの沈黙。

 お互いの手をじっと見合った。

 ギオニスもリリアも強く握りしめられた手。

 要するにあいこだ。


「……」

「……」

「仕方がないわね」


 先に口を開いたのは、リリアだった。


「引き分けってことで、許してあげるわ」

「はいはい」


 ギオニスはため息をついてもとの姿に戻った。

 たぶん、何度やってもこれの繰り返しになりそうだ。


 少しすると、盛大な物音ともにエジャとワグザが飛んできた。


「何事でございますか!?」


 勢いよく開かれた扉に唖然とした顔でそれを見返すギオニスとリリア。


「いや、えーっと……何もなかったが?」

「いや、しかし……」


 困惑するエジャとは正反対に、ワグザはすぐに冷静な表情に戻った。


「突然、お部屋に入ってしまい申し訳ございませんでした。

 緊急事態だと判断してのこととご理解ください」


 エジャが何か言おうとしたが、ワグザがそれを目で制した。

 エジャは納得一定なさそうな顔をしたが、ワグザに従い、言葉を止めた。


「せっかく来たんだから、沐浴したいんだけど案内してもらえる」


 リリアはついでにとエジャとワグザに声をかけた。


「沐浴でございますか?

 もちろんでございます」


 ワグザがエジャの方を見ると、彼女はコクリと頷いた。


「では、案内いたします」


 エジャの後についてリリアが部屋を出た。


「何をぼーっとしてるのよ。

 あなたも行くのよ」

「だな」


 旅で泥だらけの身体でベッドに入る気など起きない。

 エジャに従い、ギオニスも部屋から出ていった。



>> 第024話 そういう日もあるさ

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