第001話 くっ殺……まて、早まるな!
焼け焦げた臭いと生臭い血の臭い。
辺りには折れた剣や槍が散らばり、その横には数え切れぬほどの友の骸が横たわっていた。
死と狂気が充満する戦場。
すでに戦いは終わり、エルフの中で唯一生き残っているのは、姫騎士であるリリア・ハスレアンだけであった。
だが、彼女は、醜いオークにより地面に押し倒されており、あれだけ美しかった白い服は無造作に破られ、その美しい白い肌をさらけ出していた。
リリア・ハスレアンの腹にはオークの呪印がつけられ、彼女は淫靡な服従を余儀なくされていた。
気高きハイエルフとして、姫騎士として生きていたが、唐突なオーク侵略によって今まさに自らの誇りが地に落ちようとしていた。
自分の残りの人生はただこのオークに陵辱されるのみと想像すると悔しさしか込み上げなかった。
馬乗りで押さえつけているオークは、ただ無言で彼女を見下ろしている。
守るべき国も民もない、このまま辱められるなら。
「くっ、殺――」
「ま、待て! 早まるな!」
そのオークは慌てて立ち上がると、何を思ったのかリリアに手を差し伸べた。
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南方ハレは混乱していた。
仕事終わり、珍しく1人で飲んで帰った。
ほろ酔い気分で歩いている目の前に大型トラックが飛び込んできた。
(俺は死んだのか?)
にも関わらず、気づくと目の前の状況だった。
目を見張るような金髪美人。引っ込むところは引っ込んでおり、出るところは出ている。
尖った耳に美しい白い肌。
これがエルフだと言わんばかりの美女が服を破られ、自分を睨みつけている。
(えっと……事故死したご褒美?)
「くっ、殺――」
「ま、まて! 早まるな!」
聞きなれたフレーズが耳に入り、俺は慌てて立ち上がると、倒れているエルフに手を差し伸べた。
最初戸惑っていた彼女だが、ぎゅっと露になった胸を隠すと、今にも殺しそうな目で自分を見た。
「えっと――」
「どういうつもりだ!」
戸惑っている自分を威嚇するようにそのエルフが声を荒げた。
「今更温情を見せて、私を馬鹿にしているつもり!」
状況を鑑みる限り、彼女の言うとおりだった。無残にも破られた服と露わになった肌。
まさに襲おうとしたその時に、まるで人が変わったかのように、態度を変えた。
いや、文字通り人が変わったのだが。
「私たちを陵辱された恨みが――」
「――それは俺たちのセリフだ!!」
リリアがの言葉をハレは怒気を含んだ言葉で遮った。
自分でも思ってもみなかった言葉に驚いたが、心の奥底から湧き上がる言葉は理性よりも速く口から飛び出していた。
「お前たちエルフが、俺達の国を焼いたのだろう!」
同時に、彼は自分がオークであることを思い出した。
大森林のオークキング。名はギオニス
それが自分だった。《傲慢なる暴食》と冠せられた二つ名と共に大森林の片隅でオークの族長として君臨していた。
オークではあるが、秩序を重んじ静かに暮らしていた。
それがある日、1人のハイエルフに打ち壊された。
突如現れたそのエルフは、家や田畑を焼き、子供を殺しあらん限りの虐殺を続けた。
何とかそのエルフを殺し、そのエルフの死体を掲げて、生き残った僅かな民と共に復讐に向かった。
そして、今だ。
生き残った僅かな民は全員が復讐にその命を散らした。
唯一の生き残りは自分だけだった。
だからこそ。ハイエルフの長であるリリアには、我らオークのすべての恨みをぶつける必要があった。嬲り、痛めつけ、尊厳を踏みにじり、そして、絶望と苦痛にまみれさせ、食い散らかすと決めていた。
そう。オークとしての意識は今も心の中でそう叫んでいた。
が、同時に南方ハレとしての記憶がそれを押し留めた。
非人道的。
甘いのかもしれないが、現代社会に生きた南方ハレには、今の惨状は耐え難いものだった。
周りには数刻前まで生きていたそれらが無機質な塊となって死という異質感を放っている。
だが、これ以上目の前の彼女を犯して何になるというのだろうか。
誰のためでもない、ただ無念と後悔を洗い流すためだけに目の前のエルフを犯すというのだ。
「近くに水場がある。そこで話をしよう」
そう言うと、オークとエルフはこの凄惨な戦場をあとにした。
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