第5.5話(番外編)
佐藤さんの休日編です。
すでに限界を感じてから数日経った日曜日。
今日はお休みをいただいている。
というか、全力で休みを死守した。
なぜなら、わたしは今からブランシュ・ネージュに向かわなければならないからだ。
箒を飛ばすこと約1時間。
わたしはとあるダーツバーの前に降り立つ。
そこには、すでにたくさんの妖怪がいた。
たぶん、この妖怪たちも目的はわたしと一緒だと思う。
さて、わたしは何をしに来たでしょうか?
ダーツバーでお相手探し?
残念。正解は―。
「では、整理券の番号順に整列をお願いします!」
案内係の指示でわたしを含め、周りの妖怪たちはきちんと整列をし始めた。
そして、数人ずつダーツバーへ案内される。
やがて、わたしも中へと案内された。
あードキドキが止まらない!
さて、そろそろ正解を発表しましょう。
実は今日、わたしは小林様と加藤様のトークショー兼握手会に来ている。
小林様と加藤様はヴァンパイアである。
職業は声優。
そして、わたしが学生の頃から虜になってしまったヴァンパイアだ。
声優と聞いてだいたい想像はつくと思うが、その名の通りにアニメやラジオを通して活躍されている方々だ。
高い声から低い声、子供の声から老人の声まで幅広い声を出せるお2人。
今では歌手活動もしてたかな?
この通り、超有名ヴァンパイアなので本来会えることはないのだが、数年前から半年に1回だけこういったイベントを開いてくれる。
そして、わたしはウィッチとなり親の許しも得ることが出来たので今回から初参戦できる。
これは会いに行かないわけがないでしょ?!
血を吸われる心配はないのか、と?
まぁ妖怪の血をむやみに吸うことは魔界法度で禁止されてたはずだし、この2人に血を吸われて死ねるなら本望じゃない?
どちらかと言うと、加藤様に血を吸われたいなぁ―。
ちなみに、ヴァンパイアに限らず魔法使いや雪女などの芸能人もいるよ。
まぁ顔さえよければ芸能界に入りたい放題よね。
いろいろとお話してたらトークショー開始10分前ぐらいになったね。
周りの妖怪たちも緊張しているのか、結構ざわざわしてきた。
わたしも心臓が張り裂けそうだよ。
心臓が張り裂けるのを抑えながら待つこと数分―。
入場の音楽が流れ、お2人が会場に入ってくる。
「おまえら、久しぶりだな!元気にしてたか?!」
「今日は来てくれてありがとう。いっぱい楽しんでいってね。」
お2人に答えるかのように黄色い声援が飛び交う。
もちろん、わたしも負けじと黄色い声援を発する。
「ところでさ、加藤くん。お酒って呑まれると本当に怖いよね。」
「おい、いきなりどうした?」
「この前、携帯盗まれたって慌てたじゃん?あの日、ものすごく酔ってて、そのままホテルのベッドにダイブしたの。そしたら、携帯はベッドの下にダイブしたみたいなの。」
「いきなりプライベートでのお話をここでするのやめてくれる?後、それもしかして自業自得ってこと?」
「―うん。」
「あんだけ大騒ぎしてそんなつまらないオチなの?!お客さん、ガッカリだよ!」
会場から高らかな笑いが広がる。
わたしもお腹を抱えて笑っちゃったよ。
「ブランシュ・ネージュは本当にご飯が美味しいところだね。特にお肉が美味しいわ~。」
「アフレコ現場の近くのチェーン店よりこっちの方が美味しいよね?」
「いや、それたぶん場所関係ないと思う。チェーン店だから肉のクオリティ一緒だろうし、違うと言えばシェフの腕。後、俺が言ってるのはネージュ牛。そこら辺の牛じゃないからね?」
またも会場から笑いが溢れる。
本当にお2人のトークは面白い。
携帯を無くした話、ご飯がおいしい話―。
ただただ普通の話をしているだけなのにそれを笑いに変えられるってお2人は本当に天才だと思う。
出来れば、ずっとここでお2人のお話を聞いていたい。
そうしたら、もうエピンにだって行かなくても済むのに―。
☆
トークショーの後はお待ちかねの握手会。
超有名ヴァンパイアと握手が出来るなんて本当に死にそう―。
お2人との握手の時間はとても短い。
小林様と5秒、加藤様と5秒、合わせて10秒ってところかな?
とても限られた時間だけど皆、思い思いの言葉をお2人にかけている。
後、やっぱり皆の表情がキラキラしている。
さて、わたしは何をお2人と話そうかな?
あぁずっと小林様と加藤様と一緒にいたい。
そしたら、田中さんや中村さん、その他の魔法使いにもう会わなくて済むのに―。
そんなことを考えていたからだろうか。
頭の中にある言葉が再生された。
『佐藤さん、どうせ暇なんでしょ?ほら、さっさと届いた素材を引き出しにしまっといてよ。』
『佐藤さん。今その素材を集めるのに何分かかったか分かってる?優雅に素材集めをしている間にお客様を待たせてるということを理解してる?出来ないのなら勝手なことしないで!』
『注文表を取りに来るしか能がないのね。』
何で―。
何で、今このタイミングであんたたちが出てくるの?
わたしの番まで後1人というタイミングでこれだ。
目頭に涙が溜まっているのがわかる。
わたしは深呼吸をして涙を引っ込めた。
さぁわたしの番だ!
まずは小林様がわたしの手をふわっと包み込むように握手してくれる。
「あの、わたし、ウィッチになってからすごく辛いんです。すごく辛いけど、小林様がいてくれるだけで頑張っていける気がします。だから、またここに来てくれますか?」
声は涙声になっており、また涙も流していた。
違う―。
小林様を困らせたかったんじゃない。
ただ、皆と同じく笑顔でキラキラしたかっただけなのに―。
ふと、わたしを包み込む手に力が入った気がした。
「ウィッチって辛いよね。でも、僕も応援してるから。だから、頑張れ!」
手を顔の前に持っていかれ念を込めるかのようにギュッと手を包み込んでくれた。
そして、爽やかなスマイルと共にわたしの手は小林様の温かな手から離れた。
次は加藤様。
加藤様は最初からギュッと手を握ってくれた。
「あの、わたし、ウィッチになってからすごく辛いんです。すごく辛いけど、加藤様がいてくれるだけで頑張っていける気がします。だから、またここに来てくれますか?」
さっきよりも涙声ひどいし、涙もボロボロ流れている。
正直、こんなぐちゃぐちゃな顔を加藤様に見られたくはなかったかな―。
「何で泣くの~?笑っていよう!笑ってないと人生楽しくないぜ?」
わたしのこのぐちゃぐちゃな顔を見ても嫌な顔1つせず、しかも優しい笑顔まで見せてくださった加藤様。
「はい!」
わたしも満面の笑みで返事した。
それと同時にわたしの手は加藤様の手から離れてた。
☆
握手会が終わった者から建物の外へ誘導される。
わたしも握手を終えて建物の外へ出ていた。
本当に一瞬だった―。
だが、温もりはまだ消えていない。
わたしはまだ温もりが残る手のひらを頬に当てる。
ありがとう、小林様、加藤様―。
涙を脱ぐってお2人に誓った。
わたし、頑張る―。
加藤ポジションがいなければ作者は自殺していたでしょうね。
今こうやって小説がかけるのも加藤ポジションのおかげです。