第40話
3月に入り、気温も少しずつ暖かくなってきた。
桜の木に目を向けると、ところどころ蕾がついている。
後少ししたらもう少し暖かくなるよ―。
そうしたら、綺麗な花を咲かせられるからそれまで頑張れ!
そんなことを思っていた矢先でのことである。
「皆さん、集まってください。」
鈴木さんがエピンの魔法使い全員を保管室に集めた。
―前にもこんなことなかったっけ?
「今日は大事なお知らせがあります。」
―やっぱり前にもこんなことあったよね?
「私、鈴木はこの3月をもってこのエピンを去ることになりました―。」
―やっぱり誰かが辞めるっていう発表じゃん。
もうこれ以上、わたしの負担が増えるのは嫌だよ。
―えっ、今なんて言ってた?
「鈴木さん、エピンを辞めちゃうの?」
中村さんからの問いかけに鈴木さんは静かに首を振る。
「隣町のお店から疑似魔力を作れる魔法使いがほしいという要請が来たの。それで、わたしがそのお店に行くことにしたわ。」
「でも、鈴木さんがエピンを離れたら誰がエピンの店長を勤めるの?」
「それは俺がやるから安心してください。」
「高橋くんが?!5(ファイブ)の仕事をやりながら店長なんて負担が大きすぎるんじゃない?!」
皆、わたしを差し置いて会話をしている。
わたしも聞きたいことがいっぱいある―。
皆に混じって聞きたいことがいっぱいある―。
でも、聞きたいことが多すぎて何から聞けばいいのか分からない―。
そもそも、何で鈴木さんがこのエピンを去らなくてはならないの?
確かに、最近の鈴木さんは何かと当たり散らして少し様子はおかしいと思っていた。
大半はわたしへの八つ当たりで本当に辛かった。
辛かったから高橋さんに助けを求めた。
―だけど、決して鈴木さんにこのエピンを去ってほしいわけではなかった。
―ただ、いつも鈴木さんに戻ってほしかった。
本当に、ただそれだけだったのに―。
『佐藤さん。後少しの辛抱や。後少しで大きくエピンが変わる―。』
高橋さん、もしかしてこのことですか?
だったら、わたしの求めていたものとは違います―。
確かに、鈴木さんは高飛車の味方をした。
―許せなかった。
でも、時に見せる鈴木さんの笑顔に癒されたときもあった。
何で高飛車ではなく、鈴木さんを追い出すんですか?
あの笑顔が素敵な鈴木さんを何で追い出すんですか?
どうして、あなた方はそんなに高飛車のことが好きなのですか?
わたしが本当に求めているのは高飛車をこのエピンから追い出すこと!
何で、何で誰もわたしの気持ちを理解してくれないの―。
わたしを差し置いて、他の魔法使いはいろいろと鈴木さんに質問攻めをしていく。
わたしはその間、ずっと黙りこんでこれからまた始まるひどく辛いウィッチ生活を見据えてるのだった―。




