第38話
翌日―。
「おはようございます。」
現在、わたしは普通にエピンにいる。
そう、エピンで仕事を続けるという選択をしたのだ。
しかし、残念ながら特に高飛車の態度は変わっていない。
昨日の高橋さんの話し合いを見られた直後に「ごめんね、佐藤さん。わたし、思ったことをすぐに口にしちゃうウィッチだから。」と言われたぐらいかな?
謝っているのか自慢してるのか―。
そんな中で大きく変わったことが2つある。
1つ目は、心臓の管理がわたしから伊藤さんに変更となったこと。
佐藤さんは新人なのに仕事量が多いよねという話になったらしい。
今頃気付くとか遅すぎじゃない?
ということで、今のわたしの仕事は爬虫類の素材の管理と資材の管理。
まぁ大半は高飛車に指示されて発注するからほぼ自分の仕事ではないけどね。
2つ目は―。
「佐藤さん!ちょっとこっち来て!」
鈴木さんがわたしを呼んでる―。
「はい、どうかしましたか?」
「斑イモリのしっぽじゃなくて斑点ヤモリのしっぽって書いてあるでしょ!」
「すみません。すぐに取り直してきます。」
「いい加減な態度で仕事をするのはやめてくれる?ちゃんとしてくれない?」
「すみません―。」
あの天使のような微笑みが素敵だった鈴木さんが最近になって怒鳴り散らすようになった。
特にミスが目立つわたしに向けて―。
高橋さんからわたしのことを話されて苛立ってるのだろうか?
いや、天使の微笑みが消えたのは数ヶ月前からのように思えるし、怒鳴り散らすのも昨日今日の話ではない。
鈴木さんに何があったのかわからない―。
でも、あの天使のような微笑みの鈴木さんにもう一度会いたい―。
素材を取り直し、資材の管理をしようとしたときだった。
机の上にメモが置かれていることに気がついた。
“佐藤さんへ”という文字が見えたのでたぶんわたし宛だろう。
わたしはそのメモに目を通す。
“佐藤さんへ
資材の管理はしっかりと行っているのでしょうか?
資材が届くのは発注してから2日後というのはちゃんと理解しているのかしら?
木曜日に発注しても土日には届かず月曜日に届くのよ?
意味が分からなければ中村まで”
律儀にワープロで丁寧に書かれた高飛車からの嫌みなメッセージだった―。
本当はエピンでこれ以上働くのは辛い―。
鈴木さんに怒鳴られ、高飛車から嫌みを言われ、それでも誰かが守ってくれるわけではない。
早く逃げ出せばいい―。
だけど、悔しいんだ―。
こんなクズたちのせいでわたしのやりたいことが出来なくなるのは悔しいんだ―。
わたしはこの世界の妖怪たちを助ける力になりたい―。
わたしは涙を堪えながら仕事を続けるのであった。
☆
その日の仕事終わり。
一瞬だけ、保管室で高橋さんと2人きりになれるときがあった。
「高橋さん―。」
わたしはそっとあの高飛車からの置き手紙を手渡した。
何も言わないけど、目は動いているからちゃんと読んではくれているのだと思う。
「エピンで働きたいという気持ちはありますが、やっぱり無理です―。中村さんからのいじめは止まらないし、鈴木さんまでわたしへ攻撃的になってしまいました―。こんな状態で働くなんてわたしにはもう無理です―。」
「佐藤さん。後少しの辛抱や。後少しで大きくエピンが変わる―。」
「えっ―?」
それだけを言うと、高橋さんは保管室を出ていった。
誰もいなくなり、静かになった保管室にパサッという音が響き渡る。
高飛車からの置き手紙が床に落ちた音だった―。




