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第25話

 異常はすでに起こっていたんだ―。


 朝目覚めると、すごく身体が重かった。


 わたしの周りだけ引力が強力に働いているのだろうか?


 いや―。


 これはまるで、誰かに四肢を掴まれて地面に押し付けられているような感覚―。


 この感覚、昨日の足を掴まれた感覚に似ている―。


 それを振り切って起きようとしたが、力が強すぎて起き上がれない。


 声を出そうとしたが、出ない。


 首もとも誰かに押さえつけられている感じがする。


 辛うじて呼吸が出来るのが不幸中の幸いだろうか。


 高飛車の仕業だろうか?


 わたしの存在を邪魔だと思っているあいつならやりかねない。


 ―何の根拠もないのに人を疑うのはよくないことだね。


 とにかく、今日は無理を言って休ませてもらおう。


 しかし、四肢を掴まれているせいで腕が全く動かない。


 ゆえに、携帯まで手が届かない。


 あっそういえば今日、山本さんが休みの日ではなかったか?


 2人休んだら店回らないんだよなぁ―。


 結論。休めない。


 わたしは諦めて、死物狂いで身体を起こそうとした。


 しかし、やはり起き上がることはできなかった。


 お願い、今日だけは頑張らないと―。

 

 だから、手をどけて―。


 想いが伝わったのか、力が弱くなった気がした。


 わたしは隙を狙って身体を起こした。


 四肢の拘束は解かれたものの上から押さえつけられている感じですごく重い。


 ベッドから起き上がって1歩踏み出すが、脚を掴まれているためすごく歩きづらい―。


 未だに喉も締め付けられるかのように掴まれているので固形物が喉を通らない。


 まぁ今日頑張れば明日から3連休だし、食べなくても大丈夫か。


 わたしはダルクアクアを少し飲み、箒を飛ばした。


 ダルクアクアが身体全体に行き届いた感じがして、少し拘束が解かれた気がした。


 ☆


 飛べなかった―。


 たぶん、身体が重いから箒で支えられないんだろうな―。


 なので、脚を掴まれているが仕方なく歩いていった。


 でもさ、箒で飛べなくなるってウィッチとして大丈夫なん?


 わたしのこれからのウィッチ人生大丈夫か?!


 なんとか開店時間までに間に合い、わたしは仕込んでおいた紙を皆に見せた。


『おはようございます。』


 朝の挨拶は大事だからね。


 用意周到でしょ?


 もっと誉めていいんだよ?


「佐藤さん、どうしたのよ?!」


 鈴木さんは口を大きく開けて問いかけてくる。


 わたしはせっせと言いたいことを書き表す。


 ってか、理由を問われるのは当然だからこれも仕込んでおけばよかったな。


 あー詳しく書くと面倒くさいから多少省こう。


『すみません。声が出なくなりました。』

「風邪かしら?休んでくれてもよかったのよ?」

『2人休むと厳しいかと思いまして。』

「そう。ありがとう。もしも、本当にしんどくなったら言うのよ?」


 鈴木さんはそれだけ言うと、休憩室にひきこもった。


 他の魔法使いたちも「そうなんだ」みたいな顔をしていただけだった。


 ―すでにしんどいんだけどな。


 言いたいことを省きすぎてしまったかな?


 欲を言うと「帰っていいよ」と言ってほしかった―。


 読者の皆さん、社会は甘くないぞ?


 とりあえず、声が出ないので販売はせずに素材集めと疑似魔力生成だけに集中することにした。


 店は3連休の前の日とあって結構忙しかった。


「佐藤さん。ダルクマグマをさっさと取ってきてくれない?」


 高飛車だ。


 すごく腹立たしかったが、しんどいのでおとなしく頷いてダルクマグマを手渡した。


「あんた、喋らなければすごくいい子なのね?」

「・・・。」


 声が出ても出なくても無視です。


 ってか、あなたのためにいい子になるつもりはありません。


 どうせ、この発言も誰も聞いてはくれていないのだろう。


 気にするだけ無駄だからさっさと仕事しよう。


 素材集めが一区切りついたので、次は疑似魔力生成をしよう。


 えっと、吸血コウモリの血と斑点ヤモリのしっぽとダルクアクアか。


 素材を揃えて魔力を注ぐ。


 あっ声出ないんだった―。


 まぁ念じれば大丈夫かな?


 心の中で呪文を呟き魔力を注ぐ。


 しかし、一向に疑似魔力は生成されない。


 そんなあほなことを続けていたからなのか高橋さんが声をかけてきた。


「佐藤さん―。」


 ごめんなさい!


 遊んでいたわけではないんです!


 見た感じ高飛車みたいに業務放棄してるかもしれないけれどちゃんと全力は尽くそうとしてるんです!


わたしは必死で何回も頭を下げて謝った。


「今すぐに病院に行くんや。」


 ―もしかして、邪魔だから帰れと言われてる?


 わたしは首を全力で横に振り、ガッツポーズを見せた。


 高飛車とは違うということを見せつけなくては―。


「もういい。ここには佐藤さんが必要なんや。だから、今すぐに病院に行くんや。」


 ―話が矛盾しているようにしか聞こえないんだけど?


 わたしはまた全力で首を横に振る。


「分かった。これはエピンの1人である高橋の命令じゃない。5(ファイブ)の1人である高橋からの命令や。これなら聞き入れるな?」


 ―そんなにもわたしが邪魔?


 普段から周りを気にせず気楽にやりたいことをやっている高飛車よりも邪魔?


 まぁ魔力の強さに関してなら高飛車の方が上だし、わたしよりは使い物にはなるよね―。


 わたしは瞼に溜まった涙を流さないようにグッとこらえて、保管室を出た。


 荷物を足早にまとめてエピンからもさっさと出ていった。


 所詮はわたしよりも高飛車の方が大事なんだな。


 だから皆、高飛車に対しては何も注意しないんだ。


 ほんと、このままバックレて2度と戻ってやらないでやろうか?


 そう思いながら近くの病院の前に着いた時だった。


 一気に身体が重くなり、地面に倒れこんでしまった。


 上からプレスされているような感じで起き上がる事が出来ない。


 今回は完全に呼吸も出来ない。


 ヤバい、本当にエピンに戻れなくなる―。


 どうせ死ぬなら最期に加藤様に会ってから死にたかった―。


 わたしは息苦しさから逃れるように意識を失っていった―。

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